断(章)/justice

古びたマンションの一室、電灯が全て破壊され明かりを灯せないその部屋に、『彼』は佇んでいた。


電灯だけでなく、その部屋の中はあらゆる物が切り裂かれた状態で放置されており、原形をとどめているモノは、唯一『彼』だけであった。


ズタズタに切り裂かれたカーテンの傷口から差し伸べられた光に、『彼』は疎ましそうに眼を細める。その些細なストレスをぶつけるかのように、『彼』は未だ比較的マシな形を保っていた枕を左手で掴み、中の綿をグシャグシャに引きちぎる。


しかしそんな子供の癇癪かんしゃくにも似た行為を行うと、彼は少し満足げな表情を浮かべ、途端に大人しくなる。おそらくその破壊行動は発作のようなモノなのであろう。何かを壊していなければ彼は落ち着かないようだ。


そんな『彼』の、枕に当たり散らし浮かべた満足げな表情も、すぐに解けてしまう。そしてどこか満たされない、納得がいかないという風に『彼』は呟く。


「まだ、まだ足りないのか?そうか。なら仕方ない。渇きに耐えられないのか。なら仕方ない」


そういいつつ『彼』は、右腕でそっと慈しむように左腕を撫でた。


撫でられ歓喜に満ち溢れたかのように震戦しんせんする左腕は、まるで獲物が欲しくて脈動しているかのように見えた。


「さぁ。正義を始めようか」


暗がりで呟く『彼』の瞳は、言葉とは裏腹に間違いなく狂気に駆られていた。

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