第22話 巻末詳細説明

 米国の所得税納税免除の手続き

 アマゾンでkindleの電子書籍が売れると、作家に印税が支払われます。アマゾンはアメリカの会社であるため、この印税に対して課税される所得税は、アメリカの法律が適用されます。本文でも触れたように、アメリカの印税に対する所得税率は一律30%です。結構大きな金額ですね。

 日本人作家が、kindleの印税を受け取る時に、日本に居住して日本国に対して所得税を納税しているのであれば、アメリカと日本の両方に所得税を納税することになります。この状態を回避するために、日本とアメリカは租税条約を取り交わしており、この条約に基づいて税率の優遇措置を受けることが出来ます。

 優遇措置であることが理解するためのキーワードです。結果的に税率は0.00%になる為、実質無税になるわけですが、これは税金がかからないということではなく、『あくまで課税されるが、その税率は0.00%である』という、持って回った言い方になるものです。0.00%という数字が、その税率で課税している証明というわけです。

 具体的には、

『日本在住で、日本の所得税を納税しているので、アメリカで作家活動をしている作家ではない。ついてはアメリカの税制適用を免除していただきたい』

という何やらわかりにくい申請内容です。

 簡単に言えば、

『日本とアメリカで、二重に税金を取られないようにしてください』

ということです。

 この申請はアメリカという国家に対して行うもので、日本の役所やアマゾンはこの申請には基本的に関係がありません。

 アメリカの納税制度は「IRS(内国歳入庁)」という機関が納税者の管理を行っています。

納税者に対して「納税者番号(TIN)」を発行し、給料や保有する資産、納税の状況などを管理する仕組みです。

 日本も2016年からマイナンバー制度が開始され、目的や運用はアメリカの「納税者番号(TIN)」とよく似ています。

 手続きは

◇「納税者番号(TIN)」を持っていないので、「ITIN(納税者番号を持っていない)」を発行してもらい、これを取得する

◇そのためにまず持っていない「納税者番号(TIN)」を取得する

◇然る後に「ITIN(納税者番号を持っていないという内容)」を取得する

という、誠にもってややこしい作業の手順が必要です。

 ちなみに「TIN」とは、Taxpayer’s Identification Numberの略で、「ITIN」とは個人の場合の「TIN」であるIndividual Taxpayer’s Identification Numberの略です。

 この手続きは「IRS(内国歳入庁)」に国際電話をかけてやり取りすれば1日で完了するものです。しかし、英語の会話であることと、税金に関する個人情報をやり取りしなければならないため、英語が苦手な一般の日本人にはハードルの高い方法です。時差の問題もあります。

 電話以外では専用の用紙に記入して(もちろん英語です)、FAXでやり取りをする方法があります。この方法では完了までに数週間かかります。

 他には郵送(エアメール)で行う方法もあります。基本的に同じ書類で、FAXと変わりませんが、書類が両国間を行き来するため、エアメールでも2か月ほどかかります。

 この手続きを代行してくれるエージェントに依頼することもできます。すると何もかもやってくれるわけですが、費用は2万円程度かかるようです。

 前述のように日本でも2016年からマイナンバー制度が始まり、ネットのページにこの番号を入力することで、上記のような面倒な作業は必要なくなりました。両国の時差の関係で、完了までには一両日かかりますが、費用も発生しない便利な方法です。

 上記のやり方のそれぞれは、現在でも有効です。例えば、日本に在住しているけれどもマイナンバーの無い外国人などは、これを利用することが出来ません。

 そのため従来のように電話やFAX、郵送といった方法を取らざるを得ないということです。


 マイナンバーと所得税について

 ここでは特に未成年者の作家の方がKDPで出版する時に関わることを述べておきます。未成年者は法律により、基本的に法律行為を行うことが出来ません。法律行為とは、例えばお金を払って買い物をする(商法にかかわる行為)、訴訟を起こす(民事訴訟法にかかわる行為)など、あらゆることに及びます。

 しかしこれを禁じてしまえば社会は大混乱となる為、未成年者の法律行為は親権者、監護権者である両親がその責任を負うことになっています。

 未成年者が原稿を書き(つまり創作をして)、これをKDPで出版して売り上げが上がり(商法にかかわる行為)、印税を受け取る(所得税法にかかわる行為。一定額以上の所得に対して所得税が課税される)ことは、所得金額に応じて所得税を納税する法律行為になります。

 この場合、その行為の責任が親権者である両親にあり、納税は本人が行わなければなりませんが、親権者である両親の責任で行われることになるのです。

 未成年者が商売をして儲けを得て、これに対する所得税を納税することは何ら不自然なことではありません。

 極端な話、両親を不慮の事故で失った4歳児が、相続した賃貸アパートやオフィスビルから毎年家賃収入を得ることになったとします。当然この4歳児はその所得に対する所得税を納税しなければなりません。

親権者たる両親が亡くなっているので、未成年後見人が選定され、この未成年後見人が親権者の代わりに商売と納税の責任を負うことになります。

 余談ですが、私は高校一年生だった十六歳の春休みに、一か月以上にわたって自宅近くの商店街にある服地のお店(ハギレを売っていました)でアルバイトをしたことがあります。時給は450円くらいだったでしょうか。

 ヤール幅やダブル幅に巻いてある布地を解き、1メートルの物差しで測って切り売りをしていたのです。若いころのアルバイトは実にかたじけないものです。

 おかげで差しの扱いと測り方、その布地が綿であるか麻であるか、ナイロンやポリエステルの化学繊維であるか、そしてその混紡の割合までわかるほどプロ並みになりました。

 この技術と知識はその後の人生のいろいろな場面で大いに役に立ちました。例え差しが無くとも、ほぼ長さを測れるようになったことは、厳しかった親方(大将と呼んでいました)に感謝しています。

 アルバイトするのは学校の休み期間中の約束だったので、お給料は全部のアルバイトが終わった時に、給料たる現金と明細書が入った封筒で受け取りました。

初めてのアルバイトだったことと、子供心に時給と日数の計算をしていた私は、10万円を超える金額に心を躍らせていました。学校の音楽部でバンドを始めていた私は、どの楽器を買おうかと、パンフレットを眺める毎日だったのです。

 そして受け取った金額は自分が計算していたものよりも激しく少ないものでした。10万円を切ってはいませんでしたが。同封されている明細書を見ると、所得税\**,***.-の記載があるではありませんか。その額は、アルバイト3日分に相当する金額だったのです。

 つまり私の初めての労働は、その対価が一定額を超えて所得税を課される金額に至り、お店の経理は法律に則ってこれを天引きして(源泉徴収)納税したのです。

 子供だった私が税金に初めて接したのです。正直、アルバイト3日分の働きがパーになった気分でした。高校生だった私は所得税のことなど何も知らなかったのです。

 同じことが高校生作家のあなたや、中・高生作家を子供に持つ親御さんに起こります。自分が書いた原稿をKDP出版するなら、それは売り上げが発生し、そしてアメリカの税率で課税される環境で印税を受け取ることになるのです。

 KDP出版するなら売り上げと印税の対価を求めるのは当然でしょう。仮に価格を0円にして商売ではないことを謳っても結果は変わりません。同じように売上金0円に課税され、結果所得税が0円になるだけの話です。

 この本を読んでいる未成年作家の皆さん。あなたの原稿をKDPとPODで出版するなら、こっそりやらずに親権者であるご両親にまず相談してください。そして、できる事ならこの本を読んでもらって、ご両親の理解と許可を得てから初めてください。

 親御さんにお伝えしたいことがあります。原稿を書くことが出来るのは特殊な能力です。ぜひその才能を伸ばす手助けをしてあげていただきたい。その方法はKDPだけに限らないと思います。

 しかし、KDPとPODは、この本で述べてきたように費用発生がほとんどない、作家にとって使い勝手のいい仕組みです。そこで売り上げと印税という収入を得て、所得税を納税していくことになれば、社会の仕組みと社会人の労働と納税の義務について身をもって学ぶことが出来るいい機会になると思います。

 著者名の実名公表が不安であれば、変名(ペンネーム)を用いることが出来ます。私は個人的にはペンネームでの出版をお勧めします。私の八木彬夫という著者名もペンネームです。

 本文で述べたように、出版手続きには本人名義の銀行口座とマイナンバーが必要になります。マイナンバーは家族全員の記載のある住民票を取り寄せることで、子供さんの番号がわかります。

 そして、原稿の内容については、本人が同意する範囲で、校正と校閲、編集を手伝ってあげるといいんじゃないでしょうか。まだまだ子供だと思っていた息子さんや娘さんが、こんなことを書いているのかと、いつの間にこんなに大人になったか、とその成長に驚かれるかもしれませんよ。

 ここでマイナンバーについても触れておきます。マイナンバーは、国民一人一人に付された個人番号であり、所得税納税の識別番号になります。未成年者である子供にも番号は付与されます。

 マイナンバーカードは、これを持つ人の身分証明証になるものです。運転免許証やパスポートと同じく、日本国籍を持つ者の証明です。これを持つことの利点は多くあります。

 まず、所得税をはじめとする税務署への申告の際に、インターネットの画面から申告ができるE-Taxが行えます。そのほかには自治体によってまだ差はありますが、近くのコンビニエンス・ストアのコピー機から住民票や印鑑証明といった公文書を入手できます。

 これらは子供さんが行うことはないかもしれませんが、納税は本人申告と本人による納税が基本です。E-Taxによらずとも(慣れないと分かりにくい)、その時期に子供さんと親御さんが一緒に税務署に行き、本人の納税を行うことを手伝ってあげることは、他ではできない社会勉強になるのではないでしょうか。

 ちなみに、印税の所得の種類は「雑所得」です。


 国会図書館への照会方法

 国会図書館もデータベースのデジタル化が進んでいます。インターネットの下記の国立国会図書館サーチのページで著者名、題名等を入力して検索をかけることが出来ます。詳細検索ではうろ覚えの出版年などでの検索も可能です。

 この結果ヒットして出てくる情報は、ほぼその本の奥付の内容です。

国立国会図書館サーチ

https://iss.ndl.go.jp/

 国会図書館のデータベースは、その本を所蔵している公立図書館のデータとリンクしています。出てきたデータの左側にこれらの図書館名が表示されます。わざわざ東京まで出かけていかなくても、近隣の公立図書館で手に取り、奥付のデータを入手できます。さらには、内容のコピーも可能になるかもしれません。

 このように書いたのは、ややこしい事情があります。著作権は、その内容を第三者が複製して販売する際に、権利者に著作権使用料を払わなければなりません。

 つまり、図書館内の機械を使って有料でコピーを行えば、これに抵触する可能性があるため、図書館は所蔵する本のページのすべてのコピーは断ることが多いのです。

 これを回避する方法は二つです。一つはその本の権利者が(相続などによって)自分であることを証明することです。

これは現実的には難しい。出版社による証明文書と、著者の証明ができる公文書と、著者とあなたの関係を証明する公文書、さらには相続によって権利者が変わっているならば、相続人が複数人である場合は(法定相続した場合など)、全員の上記の書類、さらには全員の同意書が必要になります。専門家の私でも眩暈がするような手続きです。

 もう一つは、その本が貸し出し可能なら、借りてきて自宅でデータ化を行うことです。この場合のコツをお教えしましょう。データ化を行う際に、本を見ながら行うことは面倒な作業です。貸出期間も限られています。

 そこで、スマホなどで全ページの写真を撮り、これをパソコンに接続しているプリンターで出力して、紙(写真)を見ながら入力すると、ストレスが軽減されます。


 文化庁のデータベースの照会方法

 著作権データベース検索は以下のページで検索できます。

著作権等登録状況検索システム

https://pf.bunka.go.jp/chosaku/eGenbo4/index.aspx

 本文で触れたように著作権は、その創作物が創作されたときに自然発生しています。第三者に対抗するために文化庁に登録をする場合があります。著作権は文化庁に登録しなければならないものではなく、あくまで作家の意志で行われているものです。

 なので、実際に出版されていても文化庁に登録されていないことは多くあります。


 ペンネームについて

 著者である作家は、著者名を公表します。この時、本名とは違う変名(ペンネーム)を使うことが慣習として許されています。特に小説はこの傾向が強いようです。

 どうするか著者である作家が自分で決めます。いくつもの変名を使うことも問題ありません。ただし出版社と出版代行を行うことになるアマゾン、Next Publicationには本名を届け出なければいけません。

 当然でしょう。印税を著者の銀行口座に支払い、そして年間の印税の合計額を計算した支払調書を著者に送らなければならないからです。ここで偽名相手に印税を払ったりすれば、たちまち国税からオミットを食らうことになります。

 繰り返しますが私の著者名である八木彬夫もペンネームです。そして出版社(アマゾンも含む)は、ペンネーム作家の個人情報は決して外には漏らしません。

 今でこそ個人情報保護は厳しくなりましたが、これは昭和の時代から出版社はそうでした。というのは、人気作家になると、読んだ読者からファンレターが届きます。ファンレターなので作品の感想や感動したということが綴られているものもあれば、ファンレターとは名ばかりの『殺すぞ』といった脅迫状や、酷いものになると『デートしてくれ』といいう不謹慎なものまであったそうです。

 そのため出版社は作家の名前だけでなく住所も公開しません。こうなるとファンレターは出版社に送るしかなくなります。出版社はファンレターが届くと(もちろん作家の許可のもとに)これを開封し、検閲します。

 そのうえで問題ないと判断したら、出版社は別の封筒に入れ替えて、あるいは中身だけを担当が作家に手渡します。そのファンレターに返事を書くかどうかは作家次第です。

 これを非難するのは酷というものです。人気作家になると週に何十通も届くそうですから、これらすべてに返事を書くことなど不可能です。

 お子さんが未成年者の作家として出版をするならば、実名公表ではなくペンネームでの公表をお勧めします。

 ペンネームは便利なもので、文字通り作家の顔です。さらに作品群の顔でもあります。アマゾンにあるKDPの作品を見ていると突飛な名前もあれば、この作家はロマンティストなんだろうなと感じさせるものまであります。つまり、ペンネームの選定は作品とともに作家のイメージに直結するのです。

 明らかに男性名であるものが、本当は女性だったという方もあるでしょうし、その逆もあるでしょう。またジェンダー・フリーというか、男女性別を感じさせない、むしろどちらとも受け止めることが出来るようなものもあります。


 所得者の所得税申告方法

 印税は所得であり、1月から12月までの他の所得と合算して一定額を超えれば、所得税率にしたがって計算し、納税をしなければなりません。

 所得としての分類は、「雑所得」です。事業所得ではないのですが、例えばサラリーマンが働きながら副業で小説を書き、これで印税を受け取れば給与所得+雑所得で確定申告をしなければいけません。

 確定申告をするという事は、雑所得に対して経費の精算が認められます。ただし、無制限な経費計上はできません。作家の雑所得に対して認められる経費は

◇取材のための経費

 移動交通費、これに伴う宿泊費、インタビューのための通信費など

◇勉強や情報収集のための経費

 新聞図書費、インターネット通信費など

◇事務費

 出版社とのやり取りなどの郵送の費用(通信費として計上)。原稿用紙、コピー用紙、文房具など(消耗品費)

◇書くために用意した部屋の家賃等の固定経費

 (書くために借りている)書斎の家賃、この設備の水道光熱費等がそうです。

 自宅の一室を書斎にして上記の書くための部屋に専用に使っているのであれば、自宅の水道光熱費のうち、家事分を引いた書くために使っている割合の金額も経費として認められます。

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