第12話 第十章 準備作業は何をするの?

 出版手続きの前に


 作家のケースごとの必要な作業を述べていきましょう。


1.データ化された原稿がある。

 データ化された原稿があれば、まず以下の作業を行います。

  校正作業

  校閲作業

 上記のうち、校正と校閲は前述の内容で作業イメージは掴めていると思います。老婆心ながら、少なくとも校正作業には辞書を傍らに置かれることをお勧めします。


権利確認作業(※必要に応じて)

  著作権、出版権に関する確認

  他者の権利の使用許可

 「必要に応じて」と書きましたが、実際に他書からの引用や、権利の内容、人名等を使わないのであれば、必要ではありません。

 ここで用心しなければならないのは、作家は何ら問題ないと思って著書に盛り込んでいることが、実際には何らかの他者の権利に抵触しており、作家がこれに気づかずそのまま出版して問題となってしまうケースです。

 校閲で見つけておかなければならないのですが、作家が自分一人で校正・校閲を行うときには用心が必要です。

 人間は間違いをする生き物です。校正・校閲を行う際も『自分は完璧にやってのけた』と思っているので間違いを見つけることが難しくなります。

 出版社では専門の担当者が一冊につき数名で回し読みしながらこれらを行います。こうすることで見逃しを最小限に抑えているのです。

 日本語の言い回しでは、普段使いの口語と文面では異なる使い方があります。『ら』や『い』が抜かれる、いわゆる「ら抜き言葉」や「砕けた言い方」といったもの。あるいは書きながら作家が気づかなかった独特の方言などです。

 これに関してマイクロソフト・ワードには強力な味方がいます。「スペルチェック」という機能です。完ぺきではありませんが、自分では気づかないところも赤波線や青波線で表示します。

 法令や他者の権利に関すること、個人名などの確認は、最初は難しいでしょう。法律の専門家とまではいかずとも、出版経験のある知人などに読んでもらうといいと思います。


編集作業

 意外と難しいのがこの編集作業です。小説以外のビジネス書や評論では一般的に論文形式がとられます。章-節-項の順に構成するものです。例えば


題名:電子書籍を出そう!

(はじめに)序章 なぜ今電子書籍なのか

第一章 電子書籍とは?

 第一節 歴史的背景

  第一項-現代の電子書籍出版事情

第二項-市場規模

 第二節 出版業界における電子書籍の位置づけ

  第一項-ここ10年間の市場規模の推移

第二章 電子書籍って儲かるの?

第一項-有名作家の所得はどれくらい

第二項-食っていけるのだろうか…

第三項-電子書籍で生活するって…

第三章…

(終わりに)終章 これからの電子書籍の展望~私の電子書籍奮闘記~


 こういった感じに組みあがったとします。これらはその本のテーマと書かれている項目の順序が読みやすく、より理解が進むための工夫です。

 作家は自分が書いた本のことは自分が一番よくわかると思って、例えば、この構成に対し編集者から

『第一章と第二章を入れ替えたほうがいいと思います』

と言われてもなかなか素直に応じることが出来ません。

 ここで大事なことは『自分が書いた本のことは自分が一番よくわかっている』のは当たり前のことだということです。そうではなく編集者はこの本を初めて読む読者にとって、一番わかりやすい形を提案しているわけです。

 この編集作業はプロとまではいかずとも、ある程度出版経験がある人に読んでもらって意見を聞くのが良いと思います。辛口かもしれませんが、独りよがりというのは恐ろしいものです。

 全体構成の編集についてもう一点。さきに挙げた例では章-節-項の全部を付け足しましたが、実際の目次や本文ページでは章以外では~節と~項はつけないことがほとんどです。さきの例で示すと


題名:電子書籍を出そう!

(はじめに)序章 なぜ今電子書籍なのか


第一章 電子書籍とは?

  歴史的背景

    現代の電子書籍出版事情

  市場規模

出版業界における電子書籍の位置づけ

    ここ10年間の市場規模の推移


第二章 電子書籍って儲かるの?

有名作家の所得はどれくらい

食っていけるのだろうか…

電子書籍で生活するって…


第三章…

終わりに

 これからの電子書籍の展望~私の電子書籍奮闘記~


と、こんな感じです。


 書いている作家は、特に小説がそうですが、章割りしている部分が物語のクライマックスの部分になると、その章だけやたらと長文になってしまうことがあります。

 もちろんある程度は仕方のないことです。しかし、これを読んでいる皆さんも書店で手に取った本を買うかどうか吟味するときに、こんな経験があるでしょう。

 目次のページを開いて流し読みしながら

『なんか読みにくそうな本だな…』

 そうならないためにも目次に書かれる部分は表紙同様に本の『顔』の一つであると考えてください。

 もう一つ、基本的な部分のチェックをする必要があります。それは文面の体裁の整備です。前述の全体構成は、最終的に目次の形になった時に好印象を与える要素です。

 文面の体裁は、読みやすい状態で文字が並んでいるかどうか…、という点です。例を挙げてみましょう。私が書いたルポルタージュの一文です。


この本で私が書きたかったのは、「他者から罠に嵌められ、知らず知らずに貶められた出来事」によってどうしようもなく酷い目にあっている人、裁判に訴えたところで解決しない、放置すればますます状況は悪化する、そんな状態にある人たちの事例である。

読者であるあなたは読み進むうちに憤りを感じるだろう。「こんな単純な罠に嵌まってしまうなんて…」「用心が足りないのだ」「人を見たら泥棒と思え!と教わらなかったのか?」

「こんな目に遭ったら立ち直れないな…」などなど様々な感情を抱くことだろう。


 全文を太字にしているのは、読みにくい文面の典型です。さらに読みにくさを強くしているのが、改行を一回しか行っていない点です。また全体が太字なので、この一群の文章のどこを強調したいのかわかりません。

 その他 ! や ? といった、本来日本語にはない文字の使い方もうまくいっていません。

この書かれ方の改良点を並べると以下の通りです。


◇改行を行う

◇読み上げ感だけでなく、目で見た句読点を考える

◇文頭にスペースをとる

◇太字を使うなら、焦点を絞る

◇強調する文章は、目に残るように置く

◇多数の意見を並べるときは、一行を使う

◇意見を述べる文章は立場の違いを読点で表現し、一目で感じさせる

◇日本語の文字ではない記号の置き方に注意する


 これらを上記の文章に当てはめて作り直すと、次のようになります。


この本で私が書きたかったのは、

他者から罠に嵌められ、知らず知らずに貶められた出来事

によってどうしようもなく酷い目にあっている人、裁判に訴えたところで解決しない、放置すればますます状況は悪化する、そんな状態にある人たちの事例である。

 読者であるあなたは、読み進むうちに憤りを感じるだろう。

『こんな単純な罠に嵌まってしまうなんて…』

『用心が足りないのだ』

『人を見たら泥棒と思え! と教わらなかったのか? 』

『こんな目に遭ったら立ち直れないな…』

などなど、様々な感情を抱くことだろう。


 どうでしょうか。少なくとも、本のページらしくなったと思います。見ていただければわかる通り、この一群は3つの文で構成されています。本来ならこれらのうち、一つ目と三つ目は一文の文章としては長すぎるのです。そこで上記のように手を入れてみると、すっきりと読みやすい体裁になりました。ここがポイントです。

 読者は本を読むのです。紙ではなく画面上のことではありますが、それなら尚のこと、『本を読んでいる』と感じさせなければなりません。

 インターネット上のページは、カラーの写真があり、あちこちにリンクのボタンがあり、広告宣伝のバナーもあります。そのようなwebの要素は、本来紙の本にはないものです。

手元近くの単行本を手に取ってみてください。縦書きでも横書きでも、どのページをめくっても、文面があるページは『本の体裁』をなしているはずです。

 この作業に最も適しているのが、KDPが編集チェック用に無料で提供しているkindle previewer(無料アプリ)です。このアプリで原稿を開き、これを見ながら原稿の体裁を整えていくといいと思います。

以下のページからダウンロードできます。

https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G202131170


リフロー型にする

 Kindleをはじめとする電子書籍では、ページという概念が紙の本とは異なります。こんな風に書きだすと、さも大変なことのように感じるかもしれません。

 簡単に言うと、kindleホワイトペーパーなどの読書用端末には、文字の大きさを変えて、使う人が最も見やすいものにできるという特徴があります。

 この点を踏まえて、電子書籍の原稿で気を付けなければならないのは、

『章の終わりはページ区切りをする』

という点です。

 ワードなどの文書ソフトは、例えばページ設定という機能で1ページ当たりの最大文字数を決めることができます。この時、そのページの満杯まで入力していない状態で章の文章が終わったとします。

 次のページに移るには、ページの下端まで改行を繰り返して、次のページの頭から書くことになります。

 この状態のままで出版手続きをすると、読者が読むときにそのページが終わるまで空白が続くことになってしまいます。リフロー型とは、行単位でこの空白部分のない、一続きの章にするという構成です。

 これに対するものが『固定レイアウト型』と呼ばれる形式です。リフロー型と違う点は、1ページの内容が固定されていることです。写真集のページをイメージするとその違いが判ると思います。


題名の決定

 本の顔はいくつかあります。表紙、目次がそうです。紙の本なら裏表紙とそこに書かれている他者の推薦文、帯のキャッチコピーもそうでしょう。

 題名の決定は全体のイメージを括る大きな要素であり、表紙に一番目立って表示されるものです。家に例えるなら表札、商店なら屋号の看板に相当するでしょう。

 独りよがりになることが一番危険です。たくさんの人に意見を聞くのが一番です。私がお勧めするのは、日本古来の伝統を踏襲するやり方です。

 これらが考えられます。

◇漢字を使う

◇体言止めにする

◇命令文にする

◇七五調を用いる

等です。

 題名は作家のセンスを最も問われるといっても過言ではありません。昨今流行りのライトノヴェルによくあるような、やたらと長文で最後に~してみた、~だった、~という件などのものは、好みの問題でしょうが私は感心しません。どうしても使いたいのであれば、サブ・タイトルにするといいと思います。

 上記の中で私がお勧めするのは『七五調を用いる』方法です。この本のタイトル

『本を出版したいけど…』

も七五調を意識して付けました。

 厳密にいえば『したいけど…』は、文法上は『ら抜き言葉』になっていて、正しい日本語とは言えません。しかし、書かれている内容が一般の方々向けになっていることと、「そうしたいのだけれど、どうしたらいいのだろう…」の感情を匂いで込めることにしました。

 タイトル文字を目で見て黙読し、そして記憶に残りやすいものにするには、2文字~3文字の短めの形と、10文字から17文字までの七五調が効果的だと思います。

 時間のある時に書店に行き、本棚にある背表紙のタイトルを片っ端から黙読してみてください。20冊ほどやってみると、どのタイトルが印象に残るか分かると思います。


表紙の決定

 表紙の決定は、題名やサブ・タイトルが決定してから行います。KDPやPODで出版するときに最も悩ましいのがこの『表紙の決定』です。私はどうしているかというと、全く苦手の分野なので、割り切ってプロの方にお願いして作ってもらっています。

 作家が絵心のある方で、アドビシステムのイラストレーターなどを操れる方なら問題ないと思います。しかし、デザインというのは原稿を書く能力とは全く別のものだと私は思っています。

 プロに依頼するならば、お金はどれくらいかかるのだろうと心配になると思いますが、探せばあるものです。ネットを検索してみると費用はピンキリで請け負ってくれるところがいくつも見つかります。

 私のおすすめは、『ココナラ』というサイトです。腕に覚えのある個人が一件単位で仕事を請け負う相互サイトです。

ココナラ

https://coconala.com/

 ココナラのページを開き、左上の検索窓のプルダウンをサービスにします。その右側の窓に『電子書籍』と入力します。検索をかけると左側にメニューが並びます。【デザイン】のボタンをクリックすると画面上にたくさんの請け負ってくれるPOPが出てきます。金額と、サンプル・イメージを見て選んでください。

 KDPの表紙は、原稿データと同じように画面上からアップロードすることで行います。画像の形式やヴァージョンの違い、画素数など制約があり、心得のない個人がチャレンジするのはハードルが高いでしょう。慣れている業者にお願いすることが一番だと思います。


価格の決定

 これも悩ましい事柄です。出版予定が一冊だけでなく、連作あるいは複数冊準備があるのならば、1ページ当たりの単価を決めるのも一つの方法です。

 KDPのページ(アマゾンのkindleストア)を開いて何冊かクリックし、そこで確認できるページ数の目安で、出版している人の価格設定を分析するといいと思います。

 ページ数の目安と書きましたが、これは電子書籍においては、紙の本とはページという概念が異なるために目安と表現されています。この点は、前出の『リフロー』の項目を振り返ってください。


文字の大きさ、フォント

 原稿は10.5ポイントで作ってください。リフローの項で述べた通り、kindleの端末はこれを使う人の選択で、文字の大きさが変えられるようになっています。そのためアップロードする原稿では10.5ポイントが基準になっています。

 フォントは様々に好みがあると思います。私はやはり

「読んでもらうのは本であり、webページではない」

という考えから、明朝体に統一しています。

 アルファベットについては Times New Roman のフォントを使います。作家の好みの部分なので、原稿でいろいろ試すのもいい方法でしょう。


イラスト、写真、作表

 全く全部が文字だけ…、というのも味気ない気がします。これらはjpg.形式の画像を該当箇所に挿入することで行います。ワードならば、原稿の画像を置きたい行頭をセンタリングしたうえでクリックし、画面上のメニューから【挿入】をクリックし、【画像】のボタンをクリックします。

ここで画像のあるフォルダを選択し、【開く】をクリックします。画像の上下は一行ずつ空けてください。

コピー&ペーストは使いません。これは、ワードは目に見えない様々なコマンドが植え込まれるためです。コピペで書かれるものはKDPのアップロード時にいろいろと悪さをして原稿の組段をおかしくしてしまうことがあります。

画像のサイズには制限があります。挿入した後に、必ずkindle previewer で確認してください。

 これも本らしく見せるコツの一つですが、画像は、特にイラストと写真は白黒で載せるのがそれらしさを漂わせます。


ハイパーリンク

 ハイパーリンクは、インターネットの大きな特徴です。マウスのポインターを当ててクリックするだけで、その先のページに飛んでいく様は快感ですらあります。

 電子書籍にはこのハイパーリンクを張ることができます。ただし気を付けたいのは、ここでも体裁はあくまで「紙の本」にしたいということです。リンクを張ってボタンにしている文字は青に変わります。あまりに多くのリンクは、連続して文章を読むときの支障になりかねません。

 たくさんのリンクを張る必要がある部分、例えばこの本でも◇で列記した部分などは、箇条書きにしたうえでハイパーリンクを張り、それぞれを見てもらうように工夫するとよいと思います。

 また前述の画像やイラストを白黒にして本らしさを漂わせたうえで、特に写真は、カラーの鮮明な画像は自分のブログに置いて、これにリンクを張り、そちらに飛んで行って見てもらうようにすると、ブログの訪問数も増えて一石二鳥です。


脚 注

あまり触れられることがないのがこの脚注という機能です。論より証拠、このページで置いてみます。[ このように、そのページの一番下に置かれます。リフローの場合も同様です。] 句読点のマルの次に小さな1がありますが、これが脚注1の意味です。

このページの最後を見てください。

 上記の脚注のように、ページの文末に設定する場合と、本全体の末尾に並べて置かれる設定の2種類があります。ワードでは、【参考資料】タグの【脚注の挿入】でこれを行います。脚注を入れたい箇所にポインターでクリックして【脚注の挿入】ボタンをクリックします。

 するとそのページの末尾に(このページのように)線が引かれて、本文とは別の文章を入力できるようになります。注意点は、あまり長い文章にしないことです。


内表紙と著作権表示

 この本の最初のページがそうです。本の題名と著作権表示をバランスよく配置します。著作権表示は大半の書籍で同じ形(つまり本書の書き方)になっていますので、年だけ気を付けて使ってください。


巻末表示

 本書の巻末を参照していただくのが、一番よくわかると思います。多くあるのが著者の紹介、略歴、他の作品の紹介などです。

 また本書では特に詳細に説明したい事柄を「巻末詳細説明」項目を設けています。この項目にはリンクを張っていません。更に本書では「巻末詳細説明」項目の後に、あとがきとして「終わりに ~私の出版奮闘記~」を配しました。

 つまり本書の原稿はこれで終わりという構成にしています。その後に本書を書くにあたって参考にした文献を紹介しています。

 小説では、引用した書籍や紹介したHPなどを載せることが多いようです。本書はKDPとPODの出版というノウハウ本なので、関連する法令その他を掲載しています。


 ※作家はこのようにある意味、一冊の本は映画のように構成して編集するものです。本書の本編は「終わりに ~私の出版奮闘記~」で終わりで、その後の部分は映画のエンドロールと考えてみてください。

 そうすると本書では著作権表示を内表紙の次に配しましたが、映画のエンドロールのように奥付の前に配しても構いません。


奥 付

 これは必ず作ります。前述のように奥付はその本の出自を表す住民票と考えましょう。これも本書の奥付を見ていただくのが一番わかりやすいと思います。奥付の名前の通り、原稿の最後に配します。


文字フォントの統一、無駄なスペースの削除

 ここまで進めてきたところで、確認してほしいのが、フォントの統一です。私は日本語の文字は明朝体で、英文字はTimes New Roman に決めていると書きました。しかし意図しないままある個所だけゴチックになっていたり、文字の大きさ(ポイント数)が微妙に違っていたりすることがあります。

 これはチェック作業で読み進めるときに、違和感として目に映ります。特別に意図したものでない限り、統一フォントとポイントにすべきです。

 もう一つ読み進める際にチェックしてほしいのが、無駄なスペースの削除です。これは最終的にkindleの端末で読むときに、おかしな表示にならないために必要な確認作業です。

 知っておいていただきたいのは、電子書籍はワードなどのテキスト・ファイルの状態でアップロードして出版申請をしますが、kindleやスマホ、PCなどに表示させるときにはHTML(Hyper Text Markup Language)という形式を用いています。

 これはインターネット上の画面表示を行う方法と同じです。テキストと、HTMLタグと呼ばれる命令で書かれており、私たちがアップロードするテキスト・データは、アマゾン内でこのHTMLに変換されることになるのです。

 このHTMLにとってテキストに引っ付いている余分なスペースは、最終的に端末で表示させるときに必要以上にスペースが加えられたり、英単語や文章の文字間隔が不自然になったりと、厄介な表示の原因になることが多くあります。

 そのため、文頭のスペースは問題ありませんが、特に文末に余分にくっついたままのスペースは半角も全角も取り除いてください。

 しかし、これはスペースで空白であるわけですから、見た目だけではどこにくっついているかわかりません。

 そこでこれを見える化する機能を使います。ワードなら【校閲タグ】をクリックし、変更履歴の記録のプルダウンを開きます。【オプション】ボタンをクリックして、左側のメニューから【表示】ボタンをクリックします。ここに出てくる書式マークグループのスペースにチェックを入れてください。

 これでスペースの表示がされます。結局のところ、スペースも文字の一種である為、このような処理が必要になるのです。


目次の作成

 電子書籍の目次は紙の本とは根本的に違います。リフローで解説したように、ページの概念がないため、ページ番号をつけるとおかしなことになってしまいます。

 電子書籍の目次は、原稿の一番最後に設定します。今、この本をkindleペーパーホワイトその他の端末で、電子書籍で読んで頂いているのであれば、画面左側に目次が表示されていると思います。

 ここにマウスのポインターを持って行ってクリックすると、そのページに飛んでいくように、ハイパーリンクが張られています。

 目次設定は2段階で設定作業をします。

a.章-節-項の順に組み立てたそれぞれに見出し1-見出し2-見出し3を設定していきます。

 章→見出し1

 節→見出し2

 項→見出し3

 それぞれの文頭にポインターを持って行ってクリックし、ホームタグの真ん中右寄りにある「標準、見出し1、見出し2、見出し3」の窓をそれぞれにクリックしていきます。

 内扉の題名や著作権表示、奥付には見出し設定をしません。つまり、これらは目次で表示する本文の項目ではないということです。

 原稿の最後まで見出し設定を終えたら、今度は奥付の後ろ、最後のページの頭にマウスのポインターでクリックして位置を定めます。

 【参考資料】のタグをクリックし、【目次】のボタンを押します。【ユーザー設定の目次をクリックして、目次の階層レベルに合わせます。見出し3まで設定しているのであれば、レベルも3です。

 この窓の中でページ番号を表示するにチェックが入っていれば、これを外します。繰り返しになりますが、リフロー形式の原稿ではページ番号は無意味です。この点は必ず確認してください。

 もう一つ、この目次はそれぞれの章-節-項へのハイパーリンクを張らなければなりません。そこでハイパーリンクを使うにチェックを入れます。

 【OK】ボタンを押すと、目次が形成されます。この内容が最終的に画面上で左側に並んで表示されるのです。


ファイル形式の確認

 原稿準備の最後の作業は、ファイル形式の確認です。ファイルをdocx.形式で保存してください。

もしここまでの作業で違うファイル形式で行っていたのなら、この時の保存を上書き保存ではなく、名前を付けて保存で行い、この時に出てくる窓のファイルの種類の窓のプルダウンメニューでdocx.形式を選択して保存します。

原稿準備の作業の最後にこれを行ったときは、まれにファイル形式の変更で段落などに違いが生じる場合があります。念のため、最初から見直しを行ってください。

 KDP出版のための原稿準備はこれで完了です。


 ※これらが、編集の作業です。細かい作業がたくさんあることに驚かれたかもしれません。塗装職人の合言葉に「養生七割」というものがあります。養生(ようじょう)とは、ペンキや塗料、スプレー塗料などを塗る前の準備作業です。

 テープやビニールシートを使って、塗料がついてはいけない箇所をあらかじめマスキングする作業のことを言います。「養生七割」とは、塗装の仕事の作業量も重要性も七割が養生である、という職人の心意気なのです。

 出版という仕事の編集がこの養生にあたります。完成品からはわからない、準備と細心の注意を払った目に見えない重要な仕事というわけです。


2. 手書き原稿があるがデータ化していない。

 まず、手書き原稿をもとにパソコンでワードやテキスト・エディタの秀丸等で文章を入力しなければなりません。自分が書いた原稿ならばそれほど苦ではないでしょう。入力しながら全体の構成や流れの確認作業にもなります。前述のように、ファイル形式はdocx.形式で保存してください。

 その後は前項と同じく校正→校閲→編集の作業です。


3. 絶版になった。

〔1〕自分が原稿を書いて出版されたが、絶版になった。

 この場合はまず絶版になった出版社に対して、今後の自己出版(つまり、アマゾンで出す考え)を伝え、了解を貰うと同時に、これまでの契約書は今後無効であることを確認します。

 ひょっとするとあなたの申し出で、出版社が未練心を起こして「もう一度編集会議にかけますから、ちょっと待ってもらえませんか…」などというかもしれません。

 あり得ないことではありません。絶版から数年経っている場合、絶版当時は分からなかった事柄が、今になってあなたの原稿に価値が出ていることはよくあることです。

 例えば10年前に絶版になった本で、あなたは文中で

『中国の軍事戦略のうちでも細菌兵器の研究はかの国の体制から考えて秘密裏に、そして実用段階まで進んでいると考えていいと思う。SARS, Marsといった新型肺炎なども、ひょっとすると(研究途中の出来損ないの)生物兵器かもしれない。今後これらの開発されたたくさんの生物兵器が、管理不行き届きの環境で外に漏れだし、例えば武漢市郊外の研究所から武漢市に一斉感染が広がることも予想される…』

なんてことを書いていたとします。

 勢いあなたは10年先を見通した、鋭い観察力と的確な予想をした優れた作家と評価され、出版社はこの本の絶版を撤回するかもしれません。このように手のひらを反すようなことぐらい、出版社はへっちゃらなのです。

 こんなことがあるかどうかはわかりませんが、その時どうするかはあなた次第です。

「いや、自分で出したい」

そうであれば、絶版を確認してアマゾンの出版手続きを進めることになるでしょう。

 データ化された原稿があれば、手元に残る本と見比べながら、今度は本を原稿に、そして自分のデータ化された原稿を校正・校閲しなければなりません。あとの作業は同一です。


   〔2〕亡くなった親族の(亡くなっていなくとも)絶版になった本だけが手元にある。

 前述したように、奥付の記載事項をもとに出版社と連絡を取ります。その後の作業は、

◇本を原稿にしてデータ化する。

◇校正・校閲・編集を行う。

 この時、特に校閲作業で気を付けてほしいのが関連する法令の確認です。法令は頻繁に改正されます。出版してからの法改正による内容変更はアマゾンの出版なら簡単にできます。

 しかし、出版時に改正された法令が反映されていない本は、見識に欠けるものとみなされる危険があります。文脈からして、文章を変えたくないのであれば、このような部分には注釈をつけることでこの問題を回避することが出来ます。

 これは上記の〔1〕も同様です。後の作業は同じです。


〔3〕亡くなった親族の出版した話は聞いているが、本はなく出版社も分からない。

 途方に暮れるかもしれませんが、とにかく遺品をひっくり返して探してみてください。他の親族や当時の友人に記憶を手繰ってもらうことも有効です。

 手掛かりは、

◇題名

◇著者名(本名または変名)

◇出版年

の3つです。

 亡き父親の友人に挨拶に行った人が、故人の思い出の品として出版当時にプレゼントされた故人の本を見せて貰ったという話を聞いたことがあります。

 またこれも実際にあった話ですが、亡くなったお爺ちゃんと同じ中学校に通っている娘さんが、学校の図書館でお爺ちゃんの名前の本を見つけたので借りてきた…ということです。

 恐らく出版時に中学校の図書館に寄贈したものが今まで蔵書となっていたのでしょう。図書館は学校図書館でも一般図書館でも、卒業生や地元出身の作家の本を集めたコーナーや、地域の研究成果を記した著作などは廃棄することなく大事に保管し続けます。

 人によりますが、本という品物は家庭でも他のところでも、捨てられることが少ないものです。こういった手掛かりがなくとも、さきに述べたように国会図書館や文化庁のデータベース、とにかくネットで検索をかけてみる…、といったあらゆる方法を試してみてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る