第9話 第七章 比べてみよう

比較のポイント

 前掲の比較表を見てみると、ある点に気づきます。四段目に記載した「市場」という項目です。アマゾンはアメリカの会社なので、日本のアマゾンで出版する電子書籍は、アメリカのアマゾン・サイトでも販売されています。

 このアメリカ市場に向けた販売窓口は無視できません。もちろん日本で販売する日本語のものはアメリカでも日本語で販売されます。英語の翻訳に堪能な作家なら、自分の作品を英訳して、日米同時に販売することも可能です。

 アメリカだけでなく、アマゾンのサイトはイギリス、フランス、ドイツ、カナダ、イタリア、スペイン、ブラジル、インド、メキシコ、オーストラリア、オランダで販売されます。

 私は音楽評論誌を日本語版と英語版の両方を販売していますが、アメリカ、イギリス、フランス、スペイン、ブラジルで売り上げがありました。

 このことは、アマゾンだけのメリットです。もちろん翻訳作業という高いハードルがありますが、実際のところは日本語版も読まれています。現地に住む日本人の方が買ってくれたのでしょうか。

 私たちは作家として紙の本による出版を夢見ます。しかし、上記のような世界に向けた販売は、既存の内国の出版社では、まず叶いません。PODは現在日本国内向けだけですが、こちらも外国販売が可能になるようです。

 世界中の人たちがスマートフォンを持つ時代です。まだ誰も達成していない夢のような出来事が、この市場から実現されるかもしれません。

 一方で、アマゾンの中心がアメリカであるため、印税に対する税金の取り扱いが日本とは異なります。アメリカの印税に対する課税は、一律30%です。そしてこれは作家に印税が支払われる際にアマゾンで天引きされます。

 私たち日本の作家も、手続きをしないままであれば、自動的にこの天引きをされてしまいます。そのため、KDPでは出版申請の前の登録時にこの手続きのページがあり、これを済ませる必要があります。日本国民で日本国内で所得税を納税しているのであれば、アメリカに所得税を納税する必要はないからです。

 巻末にこの件の詳細と、印税に関する所得申告の方法を添えておきますので参照ください。

 次の注目点は、七段目に記載した「絶版の有無」です。私たち無名の作家が出版社で採り上げられて、晴れて出版となった時の喜びは無上のものでしょう。

 しかし浮かれてばかりはいられません。売れなければその本は書店から返品されてしまいます。

 そういった返品は、美品状態ならば他の販売先へ回されます。その行先もなかった場合、出版社が在庫として置いているデッド・ストックに積み上げられます。発売後一定期間で(出版社によって差があるようです)目標販売数に達しなかった本は、売り上げ不良作品として『絶版』となります。

 これはあくまで出版社の判断です。例えば、絶版候補に挙がっている作品がある時勢いが出て売れ始めたとします。在庫を売り切りそうならば経営会議などで絶版を見送り、増刷の検討もされるかもしれません。

 ここで売り上げがパッタリと止まって再び絶版候補に挙がり…、ということを繰り返している間、この本は増刷されません。これはすなわち作家には印税は全く入らない状態が続くということです。

 この点、アマゾンの販売では絶版の心配は全くありません。もちろん作家自身が販売停止を申し出ればその作品はリストから抹消され、ネットでは見ることが出来なくなります。しかし、例えば作家が思い直して、さらに少し手を入れて「増補版」とか「改訂版」などとして新装発売することは簡単です。

 これはPODも同様です。注文の一冊ごとに印刷・配送して在庫を持たなくていいこのPODという仕組みの最大の利点です。

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