第四話③ 生還の報酬はハイレグ水着


「さあて、あまり問答をしていても埒が明かぬな。そろそろ、終わらせようか。我が用があるのはコーシだけだ」

「私も別に貴女に用はありませんね。今はコーシさんとお出かけ中でしたし、邪魔をするのであれば」

「ストォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオップッ!!!」


 それぞれが実力行使に出ようと身を乗り出したアガトク様とセイカさんの間に割って入る俺っち。微塵も入りたくなかったっすけど。


「なんだコーシ、心配してくれているのか? 安心しろ。このアガトクがいる以上、お前に不安など存在しない」


 貴女様の存在そのものが不安材料なんすよアガトク様ァァァッ!!!


「大丈夫ですよ、コーシさん。貴方の先生は、こんな存在になんか負けないんだから」


 そーゆー心配してるんじゃねーんすとセイカさんんんんッ!!!

 兎にも角にも、ここで声を上げろ。勇気を振り絞れ。限界を超えたその先なんざ……今までも到達してきたっすよねェェェッ! 舞い降りろ妙案んんんッ!!!


 そして頭が熱暴走しそうになってきた頃。俺っちは真上を見上げながら吠えたっす。脳みその底から捻り出した言葉。それに命もこの惑星の命運も何もかもを賭けるッ!


「お、お、俺っち、は……ちゃんと貴女に、伝えたいんすッ!!!」


 貴女。ただしアガトク様とセイカさんのどちらとは言っていない。


「自分の中で気持ちを確かめて、それで。ちゃんと、お伝えしたいんす。ほ、ほら。知ってる思うっすけど、俺っちってバカじゃないっすか。だから、その……ちゃんと整理できるまで、時間がかかるんすよ。もうちっとだけ猶予、もらえねーっすかね? ちゃんと、貴女に伝えるっすから……そ、それはそれとして友達付き合いは大事っすからねッ! 俺っち、大切な人がいるからって友達は蔑ろにはできねーんすよォッ!」


 俺っちはどっちの顔も見ねーよーに真上を見上げたまま、そう口にしたっす。

 もう一度念押しっす。貴女にお伝えしたい。そして友達。ただしアガトク様とセイカさんのどちらがとは言っていない。言ってないったら言ってないッ!!!


「…………」

「…………」


 お二方の沈黙が怖ェェェッ! 両側から眉間に銃口突き付けられて今にも引き金引かれそうな心地ィィィッ! 膀胱が絶賛フル稼働中で血尿ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!


「…………」

「…………」


 ねえ、いっそ殺してよ。真上見てんのに、両側からジトーっとした視線が来てんのをビンビン感じるの。視界に入ってないのに、互いにどんな顔してんのかが手に取るようにわかんの。

 もう無理っすよ。やっぱ二股なんて駄目だったんすよ。今からでも土下座してせめて苦しまねーよーに一思いにやってもらうようにっつーか、自分で舌噛んだ方が何万倍も楽なんじゃね? そうだ、そうしよう。バイバイ世界。


「……そうか。お前がそういう思いなら、良かろう」

「……わかりました。貴方の気持ちは、大事ですもんね」

「ッ!?」


 もう色々と諦めて自決する方向で考えてたら、不意にアガトク様とセイカさんからそんなお言葉が。俺っちは急いで互いの顔を見やるっす。


「まあ、確かにお前の口からはまだ何も聞いておらぬからな。最高に気持ち良い思いをするには互いの気持ちを高め合う、だったか? 我のみで盛り上がっていても駄目だ、ということか。恋愛とはなかなかに難しいものよの」


 アガトク様が、はー、と息をついてるっす。そのお身体からは、先ほどまで漏れ出ていた筈の紅の炎が消えてたっす。同時に、無数に蠢いていた眷属達の姿も消えていくっす。


「関係性を順番に。なんて言ってたけど、やっぱり私焦っちゃってたのかしら? お付き合いするなら、ちゃんとコーシさんを信用してあげないといけないのに」


 セイカさんもガン開きになっていた瞳をいつもの糸目に戻して、ふう、と息をついてたっす。ついでに展開され始めていたドローン兵隊が、順番に帰還していってるのが見えるっす。

 も、もしかしてこれは……ッ!?


「我の早合点だったか。最近、そういう少女絵巻を読み過ぎていたのかもしれぬな」

「コーシさんは誠実な方ですから。それは良く解っていた筈なのに、私としたらはしたない……」

『いよっしゃァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

『ま、まままマジで乗り切りやがったのだぁぁぁっ!?!?!?』


 お二方の目が無ければ、このままこの場で小躍りしてしまいそうなくらいの勢いで、俺っちは内心でガッツポーズをしたっす。

 マツリもビックリ仰天といった調子っすけど、どうだ見たか俺っちだってやれば出来るんすよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


「「それに」」


 えっ、何? 急にお二方でハモっちゃって? そんなに仲良くなってくれたんすか? もう終わったんでしょ、今回の件については。


「コーシに限ってそんなことはないだろうしな」

「コーシさんに限ってそんなことはないでしょうしね」

「    」


 キッとした視線のアガトク様と糸目をバッチリ開いているセイカさんが、確認するような勢いの視線で俺っちを射抜いてくる。死にそう。


「友達付き合いにどうこう言うのが野暮、とも少女絵巻にあったしな。今日は我と約束をしていた訳でもないのは確かだ。それに、ただの友達風情に、我がコーシがなびくこともあるまい」

「私もちょっと、大人気なかったかな。恋愛も経験していなさそうな、お友達、相手に目くじら立てる必要もないですしね」

「…………」

「…………」

(血尿ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!)


 もう俺っち、ここで真っ赤なやつ垂れ流していいっすか? 互いが互いに“友達”という単語を強調して睨み合ってるっす。うん、俺っち、どっちが友達とは言ってねーっすもんねー。

 膀胱が、うねりを上げて、血を流す。コーシ、心の俳句。


「まあ、今日は引き上げるか。我は寛大であるからな。来ちゃったのは我の方であるし、お前の予定を食いつぶそうとはせぬよ。友達との予定くらい、楽しんでくる良い」

「どうぞお帰りください。私もコーシさんの友達を知れて、嬉しいです。まあ、貴女の顔は、覚えましたけども」

「……コーシ。もしこのセイカとかいう輩が邪魔になったら、いつでも我を頼ってくれてよいぞ? たかだか超越者の分際で、我が見初めたコーシに取り入ろうなんぞ、許さんからな」

「……コーシさん。この汚らしい存在に不満があればいつでもおっしゃってくださいね。私がきっちり、処理させていただきますから」

「ああ?」

「なにか?」

(もうやめてェェェッ!!! 俺っちの為に争わないでェェェッ!!!)


 結局その後に睨み合うこと、数分。ようやくアガトク様が行ってしまったことで、その場は事なきを得たっす。要石キーストーンの向こう側では生き残ったのだぁぁぁっ! とマツリ達が喝采を上げていたけど、当の本人である俺っちにはそんな余裕はない。


「どうかしら、この水着。ちょっと、攻め過ぎちゃってるかな?」

「そ、そーんなことねーっすよぉ。めっちゃ似合ってるっす……」

「本当っ!? コーシさんが喜んでくれて嬉しいっ!」


 その後。白いハイレグ姿で必要以上にベタベタしてくるセイカさんのお相手をしている俺っち。アガトク様が来る前までなら股間が盛り上がってまいりましたってなってたとは思うんすけど、二股の疑いを持たれた今は、気まずさと罪悪感しかなく、息子もシナシナ。

 結局は通り一辺倒なお世辞を並べるだけになっちまったっす。そして二人で見たここにしか咲かない花は綺麗っしたねー。一晩だけ咲き誇って散っていったので、まるで俺っちの未来を暗示してるかのようにも見えたんすけど。気のせいっすよね、ハハハ。


「……コイツ、おもしれーなー」


 あとどっかから知らねー男性の声が聞こえた気がしたんすけど、それも気のせいっすかね?

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