40 報告

「おい!雅也」

 どこからか優輝らしき声が聞こえる。

 だが意識がはっきりしていないため、体がうまく動かない。

「起きろ!雅也」

「んー」

 起きろという言葉を浴び、ようやく意識がはっきりとしてきた。

 寝起き状態で重くなった鉛のような体をなんとか動かし、近くに置かれたスマホの画面をタップすると、時刻は六時半と表示された。

 昨朝は明確な目的があって早起きしたわけだが、今朝は特に予定はなかったと記憶しているため、朝食が七時半からであると考えると起こす時間が少し早いように感じる。

「こんな朝早くにどうしたー?」

「いやー、ちょっとお前に話があってだな」

 俺が質問すると、優輝はバツが悪そうな表情で答えた。

「とりあえず顔洗って着替えてくるわー。話はその後にしてくれ」

「ああ、分かった」

 そう言って俺は席を立った。

 洗面所で顔を洗いながらさっきの優輝の話の内容について考える。

 おそらくその内容は和泉さん関連の話で間違いないだろう。

 申し訳ないことに昨夜二人の光景を一部始終見てしまったわけだが、栞と約束した通り知らないていで話を進めなければならない。

 顔を洗い、着替えを終えた俺はさっそく優輝に声をかけた。

「それで、話ってなんだ?」

「それは、だな……」

 話しかけると案の定歯切れの悪い返事が返ってきた。

 だがそれもそうだろう。

 昨夜の優輝が振られた後、一人佇んで嘆く光景を見ていればそうなることも理解できる。

 なので俺は、黙って優輝の次の言葉を待った。

「お前には言ってなかったんだが、実は昨夜……和泉さんに告白したんだ」

「そっか」

「あまり驚かないんだな?」

 俺の反応が薄すぎると思ったのか、優輝が怪訝な目を向けてくる。

「そりゃそうだろ。昨日も言った通り告白するのはお前の自由だ」

 俺は思っていたことをそのまま言った。

「それもそうか」

 優輝は納得したかのような表情に戻った。

「それで、結果はどうだったんだよ」

 この質問をするのは正直言って心苦しい。

 しかしこの会話を進めるには、どうしてもこの質問をしなければならない。

「それは……ダメだったぜ」

 優輝は引きつったような笑いを浮かべながらそう答えた。

「そっか」

 俺はそれ以外の言葉が出てこなかった。

 いや、出すことができなかったの間違いだ。

 おそらくこの場面では同情したり、どんな慰めの言葉をかけたところで優輝の心の中に真に響くことはないだろう。

 なら静寂の方がまだ優輝にとってはありがたいのではないかと思えてしまう。

 しばらくの沈黙の末、優輝はポツリと声を漏らす。

「ごめんな、お前らがあれだけ俺のために行動してくれたっていうのに」

「それは気にするな。俺たちはやりたくてやったんだ。だからまた何か相談とかがあればいつでも相談しろよ」

 そう言って俺は優輝の肩をポンと叩いた。

「ああ、雅也、ありがとな」

 優輝は珍しく泣きそうな表情をしながら俺に言った。

 だが優輝の話を聞けば聞くほど、俺の心は痛くなっていった。

 心境がどん底に落ちている優輝には申し訳ないが、俺は今絶賛幸せの絶頂にいると言っていい。

 もしも優輝の告白がうまくいっていれば、今頃どれだけ俺たち四人組は幸せな気持ちになれただろうか。

 栞は俺と同じ気持ちだと思うが、今頃和泉さんと部屋ではどのような会話をしているのか想像できない。

 和泉さんが優輝の告白をどう捉えているかによって状況が変わってくるだろう。

 すべては約三十分後の朝食の時間で二人に会ったときにはっきりするだろう。

 俺は優輝を見て、恋愛は残酷であることと好きな人と付き合うことの難しさを改めて実感したのであった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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