地上に降り立てば慈悲はありません⑦
壊れかけのエアシップを後にして、近未来の孤島の真上を最速度で降下していく金髪女性キャラクターのベーちゃん。その様子は経験したことはないけど、多分スカイダイビングに挑戦するときの擬似感覚だと思われる。
もちろんちょっと怖いけど、ゲーム画面越しだからその怖さが軽くなり、寧ろなかなかお目に掛からない天上からの風景の真新しさばかりが気になってしまう。
家やビルよりも高い位置から島全体を俯瞰して、海洋の水面が爛々として、澄み切った青空がこんなにも近い。スリルと爽快感が混り合った高揚が全然収まる気配がない。何が言いたいかというと、この時点でもう楽しくて気持ちが良いっ。
『おおーっ怖いっ! でもフィールドがとっても綺麗っ! なんかこうやってさ、上空から真っ逆さまに落ちるなんて現実だと怖くて絶対しないけど、ゲームだと命の危険が私にはないから安心して景色を堪能出来ていいよね。ほらっ、私が金髪をこんなにも靡かせてさー、青い空に包まれそうになるくらい接近していて、囲う海が広くて、島全体の建物って上から見ると違う雰囲気だね。こういうのもゲームだからこその面白さだよね……あっ、あの巨大なビルがいっぱい建ってるあたりに、私が立てた目印があるねー……ちょっとあっちまで上空を泳いでみようかな?』
どことなく両手を翼に見立て、私の移動キー操作に準じて、勇ましいベーちゃんが角度を変えてN方向へと北上して行く。ちなみにN方向のNはNorthの略称だ。基本の方角は、特にチーム戦になるとゲーム内音声やチャットで飛び交うんだけど、東西南北それぞれのアルファベット頭一文字、または斜め方向になると頭一文字を組み合わせたアルファベット二文字で表されることが多い。これは他のバトロワ系FPSゲームでも大体共通らしいから、私も慣れるためにそう呼ぶように努めているけど、未だ普通に忘れてしまったりする。
まあ何はともあれ、勇ましいベーちゃんはそのまま流線形のフォームを保ち、向かい風にそこまで抵抗することなく、北部最大都市であるポロポロの頭上でひたすら旋回している、それはもうクルクルとね。本当はこんなことしなくても別にいいんだけど、あとはパラシュートを開くだけだし、せっかく上空を舞っているんだから遊んでも損はないしね。
『いやーもう空を飛んでるだけで楽しいね。だってほら、三百六十度、全方位が見渡せるんだよー……おおーなんか線を引いてるみたいに輝いてるのが遠くにある……あれって、もしかして地平線ってやつかな? 私あんまり科学に詳しくないから分からないけど、ほんと良い景色だね……そういえばこれゲームの中なんだよね? ははっ、もうたまに忘れちゃうくらいリアルだもんっ、凄いー!』
私は一通り上空の世界を勝手に堪能して、流石にこのままだと超加速したまま垂直落下すると、例えキャラクターであっても死んじゃうからとパラシュートを展開する。
それはデフォルト設定らしい灰色のカラーリングで、なんだかちょっと軍事訓練みたいだなと思う。さきほどまで勢いよく降下していたのが嘘のように、緩やかにのんびりと北部最大都市ポロポロを見渡しながら降りる。
そんな勢いがなくなったせいか、そういえば、と私は冷静になる。ただエアシップからバトルフィールドである孤島に降下しているだけなのに、はしゃぎすぎたかなと心配になって、着陸するまでに時間が掛かりそうだし、みんなのチャットコメントを眺める。このあとしばらくは戦いに集中しないといけないから、見られないかもしれないしね?
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フラ太郎 〈元気だねー〉
オウダイ 〈敵がどのくらいいるかの把握した方が……いや、そんなの別にいっか。エアシップからずっと楽しそうだしな〉
みたらし団欒 〈あれ? いまから銃撃戦に挑むんだよね?〉
ペンシル 〈まあ、この時点から戦いは始まっているんだけど……やっぱり普通に景色を楽しむのも醍醐味だよね。自分も最初のFPSはそうだったなー。頑張って〉
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うーん。うるさいとか騒がしいとか言われてないだけよかったかな? まあそっか……戦いってもう始まってるんだね。やっぱりはしゃいでる場合じゃなかったんだろうけど、でも良い景色なんだもん。楽しまなきゃ絶対損だよね、だってこんなに魅力的だし。
だけどもちろん、これから繰り広げられる銃撃戦も抜かるつもりはないよ。例え偶然でも、ビギナーズラックでも、勝ちたい。
『あはは……ちょっと色々喋り過ぎちゃったかな? でも最高のフィールドだよねー、これから銃撃戦が行われるなんて信じられないよ……頑張ってありがとうっ、優勝の証であるアイアイウィンを獲得してくるよ!』
んー初心者のくせにとか、ビッグマウスとか思われちゃうかな? 正直私の実力なら半分まで残れるだけでも善戦だ。だけどやるからには当然優勝を狙うっ! だって私は、北ノ内 べいかは負けず嫌いだからさっ。
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