ノーゲーム・ノースローライフ③

 このゲームのあらすじ。季節は春。学校を卒業後、親戚との繋がりで紹介されたレーズン村に移住することになった主人公。そこはかつて農業と畜産業を営んでおり広大の土地を占めていたが、先任の方が高齢を理由に自主廃業してからというもの、動物が暮らしていた畜舎と、土慣らされただけの農地が長年に渡り放置された状態だった。


 そんな土地一帯をどうにかして活用しようと考えた村長は新たに一軒家を建設し、後継者としてこの村に迎合しようと考えたが上手くいかず、しばらくして白羽の矢に立ったのが、親戚であり、かつ農業に関する知識も少し有している主人公。


 主人公はこのレーズン村を訪れたことがあるが記憶は無く、両親からのススメとはいえなぜの提案に乗ることになったのか、後継者として務まるのか、村民との交流はどうするのか……そしてレーズン村には何か大切な思い出がある気がしてならないと、主人公が土地に踏み入れたときの直感が物語を錯綜させる。ひとまずは荒れた土地を再び耕し、農地を復活させようと主人公は決意を固める。村民とのふれ合い、麦に野菜や果物に動物たち、同年代との友情や恋愛、主人公の秘話、少し不思議なほのぼのスローライフの幕が上がる……こんなところかな。


『〔それではベーちゃんや、健闘を祈る〕。ああ村長、置いていかないでー』


 一通りのチュートリアルを終え、最初のミッションとして、クワで田畑を耕すことを命じられる。それが終わった後に村民たちの多くがお店を出している集落へと向かい、村役場にご挨拶することになっている。ちなみにキャラクターボイスが無いゲームなので、私が全て吹き込む。余計じゃなければいいんだけどね。


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フラ太郎 〈序盤はかなり制限があるということですかね〉

みたらし団欒 〈個性派な村長さんだ〉

狐っ子 〈置いてかれちゃった〉


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『あはは……さて、それでは耕していきましょうかね。クワを持って……雑草ごといけるのかな? まあいいか、そりゃっ!』


 ゲームキャラクターのベーちゃんが思いのままにクワを振るうと、生える雑草ごと掘り出し、僅かに柔らかい土が積もり盛り上がっている。この調子で、クワの強度により岩や丸太がある箇所はまだ無理だけど、それ以外の土壌を耕して行く。区間を遅すぎず速すぎず手作業で順番にクワを突き刺していく様子はどことなくリアルで、エフェクトの音楽も、作業を退屈にさせない爽快感を成しているからとても楽しい。


『うぅ……そりゃっ! ふっ……はぁぁっ! ……とりゃあー……よいしょっ!』


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フラ太郎 〈一生懸命な声が聴こえる〉

縦辺 〈ベーちゃん、顔が(笑)〉

北の海 〈これバトルゲームだったっけ?〉

縦辺 〈めっちゃ険しくなってるよー〉


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『ふーこんなところですか……ね……えっ私そんな変な感じでしたか? あれ顔が変……いやいやバトルゲームじゃないですよっ! 強いて言うなら土と戦ってましたけど、違いますっ! ええ……そんなおかしい顔してたの? 今は普通だよね……』


 配信に声が乗らないように切り替える。


「……あとでアーカイブで確認するか、私の素が出過ぎちゃったかな」


 耕すことに夢中で北ノ内 べいかの表情をちゃんと見てなかった。この感じだとカメラとの同機の問題じゃなくて、シンプルに私の顔が真剣すぎたのを、モーションキャプチャーにより伝わってしまったようだ。部屋内の暑さのせいもあったと信じたい。


 バトルをしているのかと指摘されるような声まで発したみたいだし、ライブ配信はただ感情に任せるだけじゃなくて、冷静な自重と観察眼も必要らしい。再び私の音声を配信に乗せる。


『えっと……ちょっと熱が入り過ぎたみたいですが、今出来る区間は大体耕せたかな? おおっ、時間がもう昼頃……いや夕方になってる! 流石にそろそろ村長さんのところへ行かないとですよね。確か……集落の方へと向かい、更に遠くにある……そうだ広場に行けば着くんだったかな? よしっ、急いで行ってきますっ!』


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みたらし団欒 〈畑に熱中するベーちゃんも可愛い。声からも楽しそうなのが伝わってきた〉

狐っ子 〈もう農業熱が入ってるねー。まだなにを植えるかも決まってないけど〉

フラ太郎 〈これから長丁場だと思うからほどほどにね〉

みたらし団欒 〈とりゃあっっっ(畑を耕しているだけ)〉

北の海 〈元気なキツネさんだ〉


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 どうやら音量がうるさかったとか、リアクションが大袈裟過ぎるという意味ではないみたいだ。私はひとまず良かったと安堵し、北ノ内 べいかを横目で見ると、すっとぼけたようにキョトンとした表情を浮かべている。


 偶然かもしれないけど、このしたたかな雰囲気が私に似ている気もしないでもないかな。まあそんなことを言うと、特に幼馴染み認定はしてないけど、入園式からの同級生からは、ちんちくりんのアホヅラとか揶揄されてしまいそうだと私は微笑む。懐かしさもあったかもしれない。それは必然的に北ノ内 べいかの素顔からも伝わってくる。

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