第48話 求められるのは、阿吽の呼吸


【のげら笑ってんじゃねぇww】

【頑張ってフォローしてあげて、のげらちゃん!】

【てか、ラムりんイラスト下手すぎワロタ】

【あ〜でも、なんとなくわかる気がする。ラムりんならこんな絵、描きそう】

【噛めば噛むほど味が出るタイプの絵だな】

【逆に好感持てるw】

【いやこれ、Sato4さんおいしすぎるだろw】


 おいしいのか、これ。


 確かに発言するハードルは下がった気がするけど。


 あ、もしかして、ラムリーはこれを狙って酷いイラストを?


『え、ちょっと待って。みんなどうしたの? 私のイラストのどこに笑う要素あるの? 可愛すぎるって評判だったんだけど?』


 心底不思議そうな声でラムリーが言う。


 うん。どうやら狙ったわけではなさそうだ。


【可愛いって評価したヤツに会ってみたいからゲストで呼ぼう】

【でも、小学生とかには人気ありそうだね】

【自演ワロタ】

【ここは公平に判断するために、Sato4さんにこの便所の落書きの感想聞いたら?】

【べんじょのらくがきwww】


『はぁ!? 便所の落書きって何よ!?』


『フヒヒ……みんな待って! わかった! わかったから! とりあえずSato4さんに感想を聞いてみよ?』


「……え?」


 え、ちょ、待ってのげらちゃん。


 本当にこのタイミングで僕に話をふるの?


 もっとこう……自己紹介とか、話しやすい内容からがいいんだけど。


 しかし、のげらちゃんは楽しそうに続ける。


『Sato4さんもキャラを見たのははじめてだし、偏見ナシで率直な意見が聞けると思うけど、どう? ラムちゃん?』


 偏見ナシって言葉、メチャクチャラムリーを煽ってる気がするけどいいのかな。


『おう、いいね。聞こうじゃないの』


 自信ありげにラムリーが言う。


『よく聞いててよのげラーのみんな!? 私の愛は、ママにちゃんと届いているはずだから!』


『お〜、ラムちゃん自信満々ですねぇ。ではSato4さんに聞いちゃいましょう。ラムちゃんに描いてもらったキャラ……率直にどうですか?』


「あ、ええっと……」


『可愛いよね!? ね!?』


 ラムリーが気合の入った声を重ねてくる。


 いや、同調圧力やめろよ。


 それすらもフリのように思えてしまうから。


「ええと……何ていうか、ラムリーの雑なイラストを見て『ああ、真面目にやらなくてもいいんだな』って思えて……うん、いい感じに緊張が和らぎました」


『ほらみたことか! わかる人にはちゃんとわか…………って、はぁ!? 何それ!? 真面目にやらなくていいって何!? ちょ、どういうこと!?』


【草草】

【Sato4さん、よく言ったw】

【いや待て。むしろ緊張をほぐすことを狙ったデザインなのでは】

【ラムりんのママへの愛を感じるわw】


 盛り上がるコメント欄。


 すかさずラムリーが口を開く。


『そ、そうだよ! これはわざと! Sato4はしゃべるのが苦手だって言ってたから、緊張をほぐすためにわざとゆるきゃらにしたの! いや〜、狙い通りだわ〜。さすラム! 私しか勝たん!』


「……にしては、のげラーに突っ込まれてマジギレしてなかった?」


『ちょ!? ママっ!?』


『あはははは……っ! ちょっとヤメてふたりとも! 掛け合い漫才面白すぎるからっ! フヒヒっ!』


 のげらちゃんの笑い声につられるように、コメント欄には大量の「w」やら「草」が発生する。


 清野のイラストのお陰……なのかどうかはわからないけど、コメント欄にわずかにあった僕に対する批判的な意見は消えたようだ。


 なんとも緩い雰囲気になったお陰で僕の緊張もいい感じに和らぎ、気楽にふたりの会話に参加することができた。


 ラムリーやのげらちゃんのキャラ制作の裏話をしたり、好きなアニメやゲームの話をして、最後に3人でEPEXをやることになった。


 まぁ、成績はひどいものだったけど、「ボケるラムリー」と「突っ込むママ」という関係性が出来あがって、のげらちゃんはずっと爆笑していた。


 こんなんで本当に良いのか……と不安になったけど、のげラーたちも最高に楽しんでいたみたいだし、よしとしよう。


『……よし、それじゃあ、今日ははここまでだね。みんなありがとう! ラムちゃんの配信もよろしく! またコラボしようね、ラムちゃん!』


『うん、またやろう! Sato4も一緒に!』


「お、おっけ〜……」


『ガチで嫌そうな声。草なんだけど』


 ラムリーがケラケラと笑う。


 即座にのげラーから【www Sato4さん頑張れw】、【ママがいないと誰がラムりんを制御するんだよ! 頑張れよ!】とコメントが来る。


 すっかりのげラーたちの中で僕の立ち位置が定着してしまったらしい。


 しかし、まさかこんな展開になるなんて思いもしなかった。


 友達皆無の陰キャオタクの僕が、これほど求められるなんて。


 何ていうか──すごく嬉しい。


 というわけで、のげらちゃんと黒神ラムリーの初コラボは、そんな大盛況の中で幕を下ろした。



 余談……というわけじゃないけど、配信が終わって清野にイラストのお礼が言いたくてすぐにLINEを送った。


 イラストクオリティはひどかったけど、アレのお陰でなんとか切り抜けることができたことに変わりはないのだ。


『本当に清野さんの雑イラストのお陰だよ、ありがとう』


 すると、すぐさまシュポという音とともに返信が来た。


 ──激怒している君パンかすみたんが「絶許!」と叫んでいるスタンプで。


『明日、ジャックポットのいちごのシフォンケーキもってこい』 


 そして続けざまに、そんな怒気のこもった文章が送られてくる。


 あ、これはガチ怒りしてるやつだ。


 ええ、わかりましたとも。


 ゆるゆるイラストのお礼を兼ねて、お持ちいたしましょう。

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