第31話 意外すぎる存在

 今日は乗冨が部活らしい。なので放課後に清野と一緒に帰って、昼休みに続いて次回の配信について話し合った。


 清野は人気Vtuberになりたいわけじゃないので、空いた時間にやればいい。


 そう思ったのだけれど、清野は「チャンネル登録してくれた人に失礼だ」と言って、今晩からできるだけ毎日配信することになった。


 とはいえ、毎回雑談配信だと中だるみしてリスナーが離れていくことになるかもしれない。なので、とりあえずゲーム配信をしてチャンネル登録者が増えてきたら質問箱の回答……みたいな流れにする方がいいかもとアドバイスした。


 配信するゲームはEPEX、そして清野がやりたいと言っていたエスケープフロムマカロフや、サンドボックス系ゲーム、パーティゲームなどなど。


 RPGも好きだと言っていたので、それもいいかもしれない。


 ちなみに清野が好きなRPGは、王道のJ-RPG……かと思いきや、最近ドラマ化もしたポーランド産のRPG、「ウォッチャー」シリーズだった。


 ウォッチャーシリーズは、濃厚なストーリーと魅力的なキャラクーターが売りのオープンワールド型のファンタジーRPGだ。


 僕も大好きな神PRGだけど、まさかウォッチャーの名前が出てくるとは思わなかった。良いところを突いてくるなぁ、清野。


 清野と別れて自宅に戻ってから、晩ごはんを済ませて(姉は絶賛デスマーチ中なので、作り置きして)Vtuber「族長」の二次創作に没頭することにした。


 イメージを膨らませるために族長の配信アーカイブを観ようかと、Yotubeを開くと、おすすめに見覚えのあるキャラのサムネがあった。


 黒神ラムリー。


 なんだか自分が描いたキャラがYotubeに出てくるのは、不思議な気分だ。


 というか、清野が自前で作ったのだろうか。意外と器用なんだな、あいつ。


「……アーカイブ観てみるか」


 配信中はそれどころではなかったので、しっかり観るのははじめてだ。


『あ、えと……声大丈夫かな?』

 

「……おお」


 思わず感嘆の声を上げてしまった。


 清野の声で黒神ラムリーが動いている。軽く感動だ。


『よし。おっけーだね。ええと、みなさまこんにちは、私の名前はきよ……く正しく美しくがモットーの、黒神ラムリーです。えへへ』


 心臓が飛び出しそうになってしまった。


 今、絶対「清野有朱」って言おうとしただろ。危ないなオイ。


『あの、ええと、今日が初めての配信なので、初めての方の人はこんにちは、私を知ってる人はハジメマシテ……あ、違う違う、逆だ! あわわ』


 思わずニンマリしてしまった。


 大いに緊張しているようだけど、これはこれで可愛い。


 うん、これは普通に推せるぞ。


 コメント欄にも「可愛い」とか「頑張って」みたいな温かいコメントが流れている。


 しかし、ちゃんとリスナーがいるのはすごいな。


 無名のVtuberなんて、初回配信は誰も来ず、来ても身内だけ……なんてことも珍しくないのに。


 この調子ならアーカイブもそこそこ観られているんじゃないだろうか。


「え!? 再生回数5万!? ウソだろ!?」


 そこそこどころか、異様なほど観られていた。


 いやいや、なんでそんなに観られてるんだ!?


 当日視聴者数って、数十人くらいだったよな?  だとしたらせいぜい数十回とかじゃないか普通?


「……マジかよ」


 チャンネル画面を開いて、さらに度肝を抜かれてしまった。


「チャンネル登録者数、1000行ってる」


 これは流石におかしい。


 何かが起きている。


 もしかして、ツイッターにアップした僕のイラストがバズったとか?


「なな、なんだこれ!?」


 ツイッターを開いたら、通知がアホほど来ていた。


 授業中は通知をオフっているので気づかなかったけど、先日アップした黒神ラムリーのイラストがバズっていた。


 いまだかつて体験したことがないくらいのラブリツの数。


 でも、何でいきなりバズった?


 配信前にジャックポットカフェで確認したときはいつもと同じくらいのラブリツだったのに。


 誰か有名人がリツイートでもしてない限り、こんなことは──。


「……まさか」

 

 ふとあの人のことが頭によぎった僕は、自分のフォロワー一覧の中から、フレールマニアさんをタップした。


 いつも僕のイラストにラブリツしてくれる、数少ないファンのひとり。


 そして、先日フレールマニアさんが引用リツイートしてくれた黒神ラムリーのツイートを見たところ、とんでもない人がさらに引用リツイートしていた。


『この子可愛すぎるっ!』


 ハートマークの絵文字を加えて発言していたのは──なんと、猫田もぐら。


 Youtubeスーパーチャット世界ランキングで2位を取った大人気Vtuber、もぐらちゃんだった。


「ええええ!? ウソだろ!?」


 こんなこと、あり得るのか!?


 え? え? ちょっとまって。なんでもぐらちゃんが、僕のイラストをリツイートしてくれてんの!?


 もしかして、フレールマニアさんって、もぐらちゃんの知り合いなの?


 恐る恐るツイッタートレンドを見てみたら、「黒神ラムリー」が入っていた。


 なるほど。すべての原因はもぐらちゃんの引用リツイートか。


 そうこうしている間にも、僕の黒神ラムリーイラストに次々とラブリツがついていく。


 黒神ラムリーのチャンネルを見たら、登録者数が1500に増えていた。この短い時間で500人も増えてる。


 その時、ぽこんとLINEの通知が来た。


『ちょま、め』


 大混乱中っぽい清野からのLINEだった。多分、彼女もこの状況に気づいたのだろう。


 うん。まぁ、そうなるよね。


 誰だって「ちょまめ」になるよね、この状況。


 これは──控えめに言って、とんでもないことになってきた。



────────────────────────────

ここまでお読みいただきありがとうございました。

これにて第3章は終了でございます。


……が、ストックが無くなってしまったので、第4章は来週半ば頃から再開したいと思っております。スミマセン。

書き溜めして、また毎日更新を続けたいと思っておりますので少々お待ちください!


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