第50話

「んっ......」


 今の時間は.....六時か。……ご飯作らなきゃ。


 ……あれ、体が重いような。思うように動かない。頭もぽやぽやしているような気がする。けれど、ご飯作らないと。


 今日は……和食にしよう。昨日ご飯セットしておいたし。


 顔を洗って、キッチンに立ち調理を開始する。


 …………いつもならこのくらいで眠気が去っていくはずなんだけれどなぁ。


 未だに頭が回らないし体が重い。


 いつもより、体感遅く朝食を作り終える。


 そろそろ、絵里ちゃんを起こしに行かないと。


 ……そこからの記憶がない。


 

「..........んぁ?……あれ?」


 今何時だ?


 ちらっと時計を見るともうお昼を過ぎていた。


 不味い、寝過ごした。


「あ、雪花君!!」


 丁度その時、部屋に美穂さんが入ってきた。


「ごめんなさい、お昼作れなくて。あ、それと仕事はどうしたんですか?」

「..........」


 すると、なにも言わずに美穂さんは僕の事を抱きしめた。


「美穂さん?」

「もぅ、今は仕事なんてどうでもいいの。朝.........絵里が泣きながら電話してきたときは、もう心臓が止まったかと思ったわ。だって、リビングで倒れているっていうんだもの」


 .........確かにご飯を作ってからの記憶がない。

 

 僕、倒れたのか。


「お昼なんて、作らなくていいの。今日はずっと安静ね?それと体温測って」


 言われたとおりに体温を測ると38度5分だった。


「ほら、やっぱり高い。もう絶対安静。だめ、今日は私がずっとお世話します。後から絵里も来ると思うから」


 どうやら、絵里ちゃんは買い出しに行っているらしい。


 美穂さんは僕の体を拭いて、着替えさせてベッドへ移動してくれたみたい。

 

 本当に頭が上がらない。


 それから、ほどなくしておかゆを作って持ってきてくれた。


「はい、あーん」

「自分で食べられます」

「だめ、あーん」

「あ、あーん」

「美味しい?」

「はい」

「良かった。じゃあ、あーん」


 今日の美穂さんは押しが強いというか、僕に何もさせてくれないみたいだ。


「じゃあ、寝よっか?」

「はい.........って。なんで入ってくるんですか?」

「寝るまでずっと隣で頭撫でるために決まっているでしょ?」


 本当に何もさせてくれないし、断ることもできない。


 言われるがまま、寝る態勢に入り、頭を撫でられる。ゆっくり慈しむように撫でられているみたいで気持ちがいい。


「私、死ぬほど心配したの」

「…………はぃ」

「もう、これからは無理しないでね?」

「…………」


 段々と眠くなってしまう。


「じゃないと、家事まで取り上げて何もしなくて良いようにしちゃうからね」

「…………」

「もう、何も失いたくないの。雪花君が死んだら、私も.........」


 なにか言われたような気がするけれど、もう意識を保つことができなくて聞き取れない。


 それから、六時間ほど経ち、起きるとある程度回復したのか動けるようにはなったので、リビングに行くと、絵里ちゃんに泣きながら抱きしめられた。


 そのあとも、付きっきりで二人に看病され、その次の日まで安静にしなくてはいけなくなった。


 体調管理はしっかりしないと。






 

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