第40話 バーカ!

「赤坂、楽しかったね、あの時は」

「また一緒に遊ぼっか」


 ……不味いな、我慢できそうにない。


「おにいさんさ、そいつから離れた方がいいよー?そいつ汚いし、臭いから」

「私たち、優しいから洗ってあげたんだもんねー?気持ちよかったよな?」


思わず、握っている手を思わず強くしてしまう。


「あのさ、君たち、…邪魔だからどこか行ってくれないかな?」

「.えーなんで?もしかして、お兄さん、こいつのこと好きなの?」

「趣味悪ー」


 本当に…こいつらに絵里ちゃんの人生が無茶苦茶にされたと思うととてつもなく腹が立ってしょうがない。


思わず言い返してしまおうかと一歩踏み出そうとした時。


「雪花お兄さん、大丈夫だよ」

 

 絵里ちゃんは、一度大きくゆっくり、深呼吸をして僕に微笑み、あいつらと対峙する。


「なに?赤坂、どうしたん?」

「また、一緒に遊びたくなったのかな?」


 そうけたけたと耳障りな声で話すあいつら。


 ..........絵里ちゃんを信じよう。

 

「..........五月蠅いから黙って」

「あ?」

「..........なに?」

 

 絵里ちゃんがそう言うと、笑っていた顔を引っ込めて、険のある声で返す。


「あなた達は..........いつまでそんなことしてるの?」

「は?」

「人の事を羨むことは別にいいけれど、努力をせずに差別をするのは小学生のやる事でしょ?」

「..........うっざ」


  絵里ちゃんの握る手が強くなる。


「努力をしてたら、あの人に告白されたかもしれないのにね?」

「は?」

「私はもう、幸せを自分でつかんだから。この人のおかげで。あなた達には一生無理かもしれないけれどね?だから、もう私は何されても動じないよ?」


 僕の腕に自分の腕を回して微笑む。


「..........きっも」

「冷めたわ」


 二人は、興味が失せたように去っていく。


 が、最後に大きく息を吸って.........


「私は、この人が大好きだから!ばーか!一生そのまま可哀そうな人生を送ってろ!」


 そう言って、絵里ちゃんは笑顔で、あいつらに、過去の自分に別れを告げた。


「…雪花お兄さん」

「うん」

「私、頑張ったよ?」

「うん」


そっと抱きしめた。絵里ちゃんは小さく震えていた。


「頑張ったね、絵里ちゃん」


そっと、背中を摩ると小さく声を上げて泣き始める。服が段々と涙で滲む。


 思わず、僕も泣きそうになるが堪える。


 絵里ちゃんが一歩進めたことがなによりも嬉しかった。




 

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