第54話

 アラン君は腰から下げた布袋からマジックウォーターを取り出すと、飲み干した。


 瓶をしまうと、クラークさんの方へと駆けて行く。


「お待たせしました」

「あぁ。こやつ意外に、しぶとい。全力で攻撃するぞ」

「はい」

 

 大蛇はクラークさんの攻撃で、所々から赤い血を垂らしているものの、弱った様子はない。

 

 クラークさんが上着を投げ捨て、腕まくりをする。

 アラン君も上着の袖を、まくった。


 二人の頼もしい背中が、何だか安心する。


 大蛇がアラン君めがけて、喰いついてくる。


「アラン、左に避けろッ」


 アラン君はクラークさんの指示の通り、左に避けた。

 クラークさんが、すかさず大蛇の顔をレイピアで突き刺す。

 大蛇は痛そうに体をじらせた。


「クラークさん、後ろッ」


 クラークさんの後ろから、大蛇の尻尾が近づいていた。

 クラークさんは顔を後ろに振り向け、左に避けた。


 二人の息が合っている。

 そういえば、二人で旅することもあったと言っていた。


 師匠と弟子、そんな間柄だったのかもしれない。

 

 ズンッと凄まじい地響きがする。

 大蛇が尻尾を振り下ろした音だ。

 

 砂埃が舞い、視界が奪われる。

 二人とも大丈夫かしら?

 

 心配しながら目を凝らす。

 視界が開け、クラークさんの姿を確認する。


 アラン君は?


「アラン、気をつけろ」

「はい!」


 アラン君は大蛇の上に乗っていた。

 大蛇の頭を目指して、上手に駆けて行く。

 

 頭に到着すると、両手で目一杯、剣を振り上げ――突き刺した!


 大蛇が振り落とそうとしているかのように大きく、うごめく。

 アラン君は突き刺さった剣を両手で持ち、必死に堪えている。


 振り落とされないでよ。

 両手を合わせて、ただただ願う。

 

「大人しくしてろッ」

 

 アラン君がそう言うと、両手が真っ赤に燃える。


「くらえ、フレイムソードッ!」


 炎が剣を伝って、大蛇の体内に流れていく。


 うわぁ……あれは効く。

 つい顔を歪めてしまった。


 大蛇が真っ直ぐ伸びたかと思うと、力が抜けたかのように倒れこんだ。

 

 地響きとともに、砂ぼこりが舞い、またもや視界を奪う。

 

 倒したの?


 離れた所からキュイーーンと、少し耳鳴りがするような高音が響き渡る。


 クラークさんの魔法ね。

 ということは、まだ死んでない?


 視界が開けていく。

 大蛇は顔を地面につけ、ぐったりしていた。

 

 その隣に、クラークさんが雷の球を手に浮かばせて、立っていた。


「アラン、退いていろ」

「はい」


 アラン君は、剣を引き抜くと、大蛇の頭から降りた。 


「すべての魔力をくれてやる」


 クラークさんは右腕を振り上げ――。


「サンダー・フィンガーッ!」


 大蛇の顔めがけて、思いっきり掌底打ちを繰り出した。

 

 大蛇の顔がえぐれ、血が吹き出し、骨が見える。

 

 あれは助からない。

 どうやら決着がついたようだ。


 クラークさんとアラン君が私の方へと歩いてくる。


「グっ」


 クラークさんが突然、苦しそうに倒れこみ、膝をつく


 アラン君が気付き、クラークさんに近寄る。


「クラークさん、どうしたんですか?」


 私も急いで、駆け寄った。


「痺れが……」


 私は急いで麻痺消し薬を取り出し、蓋を開けた。


「飲めますか?」

「あぁ」

 

 痺れて持てないだろうから、少しずつ口に流し込む。

 クラークさんはゴクリッと飲みこんだ。


 少し様子を見る――。


 クラークさんは手をグーパーと繰り返し動かし痺れを確認している。


「大丈夫そうだ。助かった」

「いえいえ」

「どうやら、牙がカスッた所から、毒が入ったみたいだ」


「気を付けてくださいよ」

「あぁ。さて――」


 クラークさんは立ち上がると、ズボンのポケットに手を入れた。


「ん?」

 

 なにやらポケットの中でガサゴソとやっている。


 え? まさか指輪を無くしたとか?


「ほら、転移の指輪だ」

 

 ホッ……。


「ありがとうございます」


「あぁ。アラン」


「はい」

「俺はボロ家をみてくる。お前はここでミントと待っていてくれ」


「分かりました。お気を付けて」

「あぁ」


 転移の指輪か……。

 見たところ、羅線形の模様が刻まれているぐらいで、本当にシンプルの金の指輪。


 指輪の内側に小さな魔力の結晶が埋め込まれている。

 こんな所に、凄い技術ね。

 

 ちょっと、左手の人差し指に、はめてみる。


 ――え?


 第二関節で、ちょっと引っ掛かるけど、痛くはないし、問題は無さそう。


 あいつより指が太いなんて、ちょっとショックね。

 これで、どうやって転移するのかしら?


 数分してクラークさんが戻ってくる。

 右手にボロボロの本を持っていた。


 私は近寄ると、

「クラークさん、その本は?」

「その指輪について書かれている魔道書だ」


「じゃあ、これ。使うことができるの?」

「あぁ。だが、お前でも分かるようにしてやる。一旦、戻るぞ」

「分かりました。ありがとうございます!」

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