第19話

 ボスの歩き方が不自然だ。

 多分、さっきの魔法が効いている。

 さすがアラン君、見逃がさず左に回り込む。

 

 ボスが小石を拾い上げている。

 読まれている?

 アラン君は様子を見ながら、距離を取る。


 ボスがアラン君めがけて、石つぶてをしてきた。

 アラン君は木の盾で防ぐが、防ぎきれなかった石が両足に当たる。


「ちっ」

  

 ボスが一気にアラン君との距離を詰め、拳で攻撃を仕掛ける。

 アラン君は盾でガードするも、勢いよく後ろに吹き飛ぶ。


「効いたー」


 アラン君は後ろに下がり、ズボンのポケットから回復薬を取り出す。

 ボスの動きを見ながら、グイッと飲み干す。

 

 足を怪我したとはいえ、まだ機敏に動くボス。

 どうにかしなきゃ……。


 私は小石を拾い上げ、ボスの背中に向かって投げつけた。

 石はボスに届かず落ちるが、見向きもしない。

 相手にする価値すらないと判断されたようだ。


 アラン君が動き出す。

 華麗に左右に飛びながら、ボスに近づいていく。

 最後の一歩は……右!


 ボスは左を予想していたのか、反応が遅れる。

 アラン君はボスの右斜め後ろから「ファイヤーボール」

 を繰り出す。


 ファイヤーボールは見事にボスの右足を捕らえた。

 ボスがよろめいた隙を狙い、アラン君が背後から斬りつける。

 最初の傷に合わせ、深い傷が出来上がり、鮮血が飛び散る。


 更に斬りつけようとしたとき、ボスは振り払うかのように、後ろに居るアラン君を拳で攻撃した。


 アラン君は後ろに飛び、かわした。

 

 ボスがグォォォーと叫び怒りを露わにする。

 近くにあった自分と同じぐらいの大きい石に向かう。

 まさか、持ちあげる気!?


 そのまさかだった。

 ボスは両手で岩を掴むと、一気に持ちあげた。

 あんなの防げない


 アラン君、お願い。避けて!

 ただただ願うしか出来ない。

 

 アラン君は呪文を唱えている。

「これで最後だ。ありったけの魔力を刀身に」


 剣を握っていた右手を前に突き出すと、左手で炎を出し、

 刃に塗るように右から左へ宿していく。

 

 すごい、炎の剣!

 素人の私でも分かる。この一撃を外した方が負ける……。

 固唾を飲んで見守る。

 

 アラン君が動き出す。

 ただ真っ直ぐボスにむかって、突き進む。


 それで大丈夫なの?

 案の定、ボスはタイミングを見計らい、アラン君に向けて、岩を投げつけた。

 

 凄まじい音と共に、砂ぼこりが舞う。

 アラン君は?

 ――居た!


 良かった……。

 アラン君は岩に、よじ登っている。

 登り終えると「残念だったな」

 と、アラン君は言って、両手で剣を持ち、めいいっぱい振り上げて、ジャンプした。

 

 グァァァー。

 ボスの苦しそうな声だけが聞こえてくる。

 こちら側からは、岩に隠れてどうなったか分からない。

 

 アラン君が岩陰から出てくる。

 私に気付くと、右手をあげ、ガッツポーズをした。


 良かった……。

 私は崩れるようにその場に、ペタンっと座りこんだ。

 アラン君が近づいてくる。


「パンツ見えてるぞ」

「え?」


 慌てて確認するも、めくれてはいない。


「うそつき!」

「ははは、本当だったら言える訳ないだろ?」

「もう……」

「立てるか?」

 と、アラン君が言って、手を差し出す。


 私は手を取ると、立ち上がった。


「ありがとう」

「さぁ、帰るか」

「うん」

 

 家に帰ると、アラン君に薬草5個と、お金を50P渡す。


「はい」

「あぁ、ありがとう」

 と、アラン君が受け取り「あれ? お金、多いぞ?」


「いいのよ。だってボスを倒したんだもん」

「そうか。じゃあ有難く受け取る」

「そうだ。明日も家に来て、パーティしよ」


「分かった。何時にくればいい?」

「そうね。12時ぐらいかしら」

「分かった」


 アラン君を見送ると、家に入った。


「ただいま」

 と、言って、居間に向かう。


「お帰りなさい。どうだった?」

「無事に終わったよ」


「そう、ありがとうね」

 と、カトレアさんは言って、ニコッと笑った。


「私、手を洗ってくるね」

 と、台所に行く。


 手を洗うと居間に戻り、椅子に座った。


「カトレアさん。明日、パーティ―開きたいんだけど、いいかな?」

「えぇ、良いわよ。何時ぐらい?」

「12時よ」

「分かったわ」


 頬杖をかき、一点を見据える。


「疲れたの?」

「うん、少しだけ」

「そう……どうしたの?」


「え?」

 と、返事をして頬杖をやめる。


「元気がないみたいだから」

「――カトレアさん。私ね、アラン君に一緒に旅に出るかって誘われたの」

「そう、それで?」


「嬉しかった。でも、今日の戦いで、私はアラン君のフォローさえできなかった」


 涙が自然と出てくる。


「それどころか、アラン君を危険にさらしてしまった……そんな自分が情けなくて」


 気持ちが高まり、何も話せなくなる。

 鼻をすすりながら、上を向いて涙を堪え様とする。

 だけど、ポロポロと涙が零れ落ちてきて、必死に涙を手で拭う。


 カトレアさんが立ち上がり、私の肩にソッと手を置くと、「大丈夫よ。ゆっくり話して」

 と、言って、ポケットからハンカチを取り出した。


 私はハンカチを受け取ると、ハンカチをギュっと瞼に押しつけた。

 大きく深呼吸をして――吐き出す。


「ありがとう、カトレアさん」


 ハンカチをカトレアさんに返す。


「いいのよ」

 と、カトレアさんはハンカチを受け取ると、席に戻った。


「それで、どちらにするか迷ってしまったのね?」

「うん」


「そうね……そんな時は、自分がいま出来る事と、出来ないことを思い浮かべて、考えてみたら、どうかしら?」


「出来る事と、出来ないことか……」

「頑張って。私、畑に水をやってくるわね」

 と、カトレアさんは立ち上がった。


「うん、ありがとう」


 その日の夜。

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【72個】

 手持ちのお金【155P】

 依頼の期限【明日】


 私に出来ること……。

 すぐに思いつくのは、薬草とパンを複製することぐらい。

 それがアラン君にとって、どれだけ役に立つのだろうか?


 戦闘は無理、それが今日、分かった。

 旅に出るなら、致命的なこと。

 自分で自分の身を守れるぐらいじゃないと、足を引っ張るだけだ。

 

 ――なんとなく見えてきた、いま自分にできること。

 多分、これしかない。

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