第5話 劇場部に課せられた使命

「このままではお嬢様は衰弱してお亡くなりになってしまいます。恋をしていた頃は、あんなによく笑っていらっしゃったのに」


 そうしてようやく結界の先に若い男の姿が見えた。爽やかに片手をあげているが、半透明な緑色の壁越しにも、かなりやつれて無精髭なのが、ここにとどまっている日々を物語っている。


「劇場部を見込んでどうかお願いですっ!! ひとつ芝居を見せて、お嬢様に生きる気力を、彼には安心して三途の川を渡らせてあげることはできないでしょうか?」

「ここまでの丁寧なご説明、ありがとうございます、マドモアゼル」


 薫? まさか、今日の脚本使うつもりか!? そうなんだな、え? 言え、このやろう。


「努、ちょっとでいいから黙っていてくれないか」


 また叱られちまったぞ、おい。


「ここまでの道のり、さぞかし大変だったことでしょう。生身であるその魂を削ってまでわたしどもを導いてくれた熱意、しかと受け取りました」


 あーあ、受け取っちゃった。って、え? 魂を削ると若返るわけ?


「突然の公演、本日はわたしめが語り部となり、皆が役者をつとめましょう。簡易的なもので申し訳ございませんが、どうかお受け取りください。それでは、開幕しますっ!!」


 薫が指を鳴らすと、眠っていたはずのお嬢様があたふたと起き出して、彼との再会に涙する。しかし、二人の間には緑色の壁があって触れ合うことすらできない。触っちまったら、お嬢様でも元の世界に戻れなくなっちまうからな。


 だったらひと芝居うってやろうじゃないのっ!!


 つづく

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