14話 気がつかなくて謝れと?

 今日は絶好調。

 いつもの倍仕事が進んだ。これならもうひとつ仕事を増やしてもいいかな?

 出版社から色々と依頼が来ているのだ。座敷童子効果がまだ効いているのかもしれない。

 だがしかし。

 たまたま今日は調子が良かっただけで、それは滅多にないということが頭をよぎった。

 なので仕事を増やすという考えは即座に頭からこぼれ落ちる。

 などと考えていると、猫又が話しかけてきた。これはまた妖怪が現れたのか?

 「おい、ちょっと確認したい事があるんだが」

 「なに?」

 「この家になにが住んでいるのかわかっているのかと」

 「え? 何を今更。私と猫又、それと竈の神様でしょ」

 竈の神様は私がコンロを使うようになったので出てこないけど。

 「やっぱり、気がついていないようだな、この鈍感は」

 「鈍感って何をいう」

 「お前がここに下見に来たときからアピールしてたぞ」

 「は?」

 何か変な事が起きてたか?

 いや、猫又と話をしているとか、妖怪が度々出てくることは置いておいて。

 「可哀想な奴らだな」

 「奴らって、何匹も?」

 いくらなんでもそれなら気がつくはずだ。

 っと、突然部屋がギシギシいって少し揺れた。

 「地震かな? 最近多いよね。大きいのが来たらどうしよう」

 「これだ。全く駄目だな」

 「何が駄目なの?」

 「家鳴やなりって知っているか?」

 「ああ、たまに家がミシミシと音をたてるアレ? マンションの管理人さんに相談するほど酷くないと思うけど? 一応家具の配置も考えているし、湿度も外と中とおかしくなるほど違わないでしょ」

 「お前、頭いいのか悪いのかわからなくなる時があるな」

 大きなお世話です。

 「おーい、やっぱり無理だ。しょうがないから出てこい」

 猫又がそう言うと、部屋のあちこちから小さい鬼の様なものが5匹現れた。

 「こいつらも元々ここに住んでいる『家鳴り』だ」

 なんだかしょんぼりしている気がする。しかしそれでも台所の方を警戒しているようだ。

 「こいつら、何を気にしてるの?」

 「竈の神だ。家鳴りと竈の神は敵対関係にあるのだ」

 「は?」

 意味が解らない。

 「竈の神は誰が住んで火を使ってもらいたい。こいつらは部屋を揺らして住人が怖がって引っ越していくのを見るのが大好きなのだ」

 よく共生できるな。

 「じゃあ竈の神様が今出てこないのはなんで? 出てきてほしくはないけど」

 散々ペシペシされた事を思い出す。

 『ここが戦場いくさばになってもよいのか』

 あ、竈の神様の声がした。

 家鳴り達の方を見ると5匹がそれぞれビシッとポーズ取っていた。どこかで見たような。

 「ええと、戦いが始まると?」

 「ここ全体がボロボロになるな」

 「……勘弁して欲しい」

 『ぼろぼろになるのは我も不本意だ。できればそやつらを追い払ってくれ』

 そう言われましても。賀茂泰成かもやすなりなんか呼びたくないし。

 「ええと、まあ言われるまでわからなかったから、これまで通りということでいいかな?」

 ポーズをとっていた家鳴り達はがっくりとうなだれる。

 「なんで?」

 私は家鳴り達を指差して猫又に聞いた。

 「やっぱり馬鹿だったな。家鳴りがいくら頑張ってもお前を追い出すことができないからだろ」

 なるほど、気が付かなかった。少し可哀想な気がする。

 「えーええと。妖怪の通り道を使って良さげな事故物件でも探したら?」

 家鳴り達は私の事をにらんだ。

 しばらくじっと見つめ合っていると、彼らは走ってどこかに消えてしまった。なんだか泣いていたような。

 「お前の言うとおり、妖怪の通り道に入って行ってしまった。長い付き合いだったのだが」

 泣くほどここに愛着があったのか。

 「それは私が悪いのかな? 最低3年は引っ越すつもり無いんだけど」

 3年縛りの契約だ。実のところ妖怪が現れるのはやっぱり怖いので引っ越したい。

 猫又が私をじっと見つめる。何なのだ。

 「私的になんの問題もないからまあいっか。妖怪に同情する気もないし」

 さて仕事再開っと。

 

 「なんだかんだいって、お前強いな」

 猫又はそう言って私のそばから離れて寝っ転がった。

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