どうやら今日は徹夜しなければいけないらしい。

 配信などについて詳しい話を聞いた夜、俺はみるくと通話していた。

 内容は明日の事について。

 

 「だからさ、りょーくんは【これからみるくと末永く頑張っていきます】って自慢のイケボで言えばいいだけだって!」

 「バカ言うな!そんなことしたらもっと炎上するわ!」

 「えーでもさ、そっちの方が今後楽になるんじゃない?」


 末永く頑張っていくって、もう結婚するみたいな感じじゃん。

 絶対に言葉選びが間違ってると思ったがみるくは少しズレた部分があるし仕方ないと思った。

 それに俺が乱入したせいで迷惑かけてみるくの今後の配信生活がかかってるんだから俺がしっかりしないと。


 「今後って……どういう場面で楽になるんだよ」

 「えー?それは……そのぉ……」 

 「その理由を言えない時点でダメなんだよ。ほらもっとこう……違う言葉があるだろ?【誤解させてしまい申し訳ありませんでした】みたいな感じで視聴者に対して謝罪をして俺が経緯を説明する、そんな感じだったらまだ丸く収まると思う。とりあえず視聴者に対する謝罪は絶対に入れないとダメだ」

 「えーじゃあ【視聴者の皆さん、この度は私たちの熱愛報道につきまして深く謝罪いたします】みたいな感じで良い?」

 「だ・か・ら!なんで熱愛報道になるんだよ!」


 もうダメだ、らちが明かない。

 視聴者に対する説明は俺が一人でやるか、俺が考えた文をみるくに読ませるしかなさそうだ。

 期限は明日の6時まで。

 それまでに俺は謝罪文を考えてみるくに徹底的に指導をした後、配信に臨まなければいけない。

 今日は寝られるのか分からなくなってきたな。

 

 「みるく、お前はもう寝ろ」

 「えーなんで」

 「明日のためだ、体力を回復させて万全の状態で明日の配信に望め」

 「でもさー、せっかく久しぶりにりょーくんと話せるんだよ?まだまだ話したいよ」

 「それなら明日たっぷり付き合ってやるから」

 「付き合う!?もう、りょーくんって積極的だね!」

 「どこに反応してんだ、お前は」

 「ぶー、りょーくん冷たーい」

 「はいはい、冷たくて結構。じゃあ切るぞ」

 「もう、分かったよ。じゃあね」

 

 通話を終え、俺は考える。

 どういう構成で謝罪そして事の経緯を説明するか。

 とりあえず最初は視聴者に対しての謝罪、その後は事の経緯を説明、そしてこれからどうしていくのか。

 お決まりの構成になってしまったがこれが無難で一番炎上を抑えられるだろう。

 変にふざけたりしても火に油を注ぐだけだ。

 構成を考えた俺は初めに謝罪文を考えはじめた、が。

 みるくのキャラは清楚キャラ、それに合わせて謝罪文を作ると考えるととても難しい。

 まず清楚っていうものが分からない。

 検索をかけてみるが出てくるのは清楚の意味や見た目の話。

 どういう言葉遣いなのかは分からなかったため俺はみるくの過去の配信を見ることにした。

 Vtubeを開きみるくのチャンネルを開く。

 どれが良いのか分からなかったため一番再生されていた『皆さんこんにちは、中野みるくです』というタイトルの動画を再生した。

 

 「あ、あ」と言うみるくの声から始まり動画はみるくが挨拶をした後、自己紹介になった。

 中野みるくというキャラの出身地、名前の由来、どうしてVtuberになったのかなどが紹介された後、最後に質問コーナーをして配信は終了した。

 配信時間は40分と他の動画と比べて少し短いが、みるくの話し言葉についてはだいぶ勉強になった。

 みるくの特徴としては「~ですね。~な事もしますね」など語尾が大体「ね」で終わっていた。

 しかし最後の言葉を「ね」で終わらしてしまうと「すみませんね」や「ごめんなさいね」など図々しい言葉遣いになってしまう。

 考えに考えた結果、そもそも普通に丁寧語で全部喋れば良いという結果に至ったため丁寧語や標準語を駆使して文を作ることにした。


 「今日の夜は長くなりそうだ」

 

 独り言を呟いた俺は二本目の缶コーヒーを開けた。

 

 ~~~

 

 「ぐぅ……あぁ……体いてぇ……」

 

 背中の強い痛みとスマホのアラームによって俺は目覚めた。

 アラームを止め、時刻を確認する。

 現時刻は8時前。

 昨日はみるくの謝罪文、そして経緯を説明するための文を深夜まで作成していたため、今日はいつもと比べて起きるのが時間が遅くなった。

 いつもはアラーム無しで7時頃に起きる健康的な生活をしていたのだが、そのルーティーンも崩れてしまったようだ。

 体はまだ重いが体を起こしてリビングに向かった。

 

 リビングに行くと母親が丁度家を出る準備をしていた。

 日曜日だというのに大変だなぁと思いつつ「おはよう」と声を掛けた。

 

 「あっ、おはよう涼真。起きてくるの遅かったからなんも作って無いわよ?」

 「あぁ、なんかカップ麺でも食べるから気にしないで」


 俺の母親は高校の事務勤務をしている。

 事務職なので土日は休みが多いが今日は出勤日らしい。

 身に合った大人らしいスーツを着て少しボロボロになったスニーカーを履いている。

 靴以外を見るとちゃんとした大人に見えるが中身はかなりだらしない。

 洗濯は必要最低限しかしないし、料理もあまり出来ないのでほとんど冷凍食品に頼りきり。

 このように生まれて来た息子に対しても「ご飯なんて作っていない」などといってしまう。


 今日も世間話をするわけもなく「分かったわ。今日も少し遅くなるから」と言いうちの母親は仕事に行った。

 別にうちの母親は元から冷たいわけではない。

 小さい頃には遊んでもらったり、テーマパークにも行ったりした。

 母親がこのように冷たくなり始めたのはここ最近の事だ。

 俺が中学を卒業するまでは全然普通の一般的な母親だった。

 多分冷たくなった原因はみるくの両親が亡くなった事と関係していると思う。

 うちの母親とみるくの母親は小・中・高と同級生だったらしい。

 まぁ40代にもなって隣同士で住んでいたぐらいだ、仲が良かったのは俺でも分かる。

 だけど、みるくの親が亡くなって母親の中で大事な物が一つ無くなってしまったのだろう。

 大事な物にも順位がある、きっと母親の中でおばさんの存在は一番に近かったんだと思う。

 だから、こんな対応されても俺は我慢するしかない。


 カップ麺のストックを戸棚から取り出してポットでお湯を沸かし始めた。

 お湯を沸かしている間にみるくに「飯食い終わったらそっち行くから」と連絡を入れてテレビをつけた。

 日曜日の朝8時、テレビをつけるとスーパー戦隊がやっていた。

 何も見るものが無かったので久しぶりに見ることにしたが話の途中から見ても内容は一切分からなかった。

 3分ほどしてお湯が沸いたのでカップ容器にお湯を注ぎまた3分待つ。

 無心で麺を啜り、食べ終わる頃にはスーパー戦隊もEDに入っていた。

 俺はそのEDを見ることなくテレビを消して脱衣所に向かい、早々とパジャマを脱ぎジーパン白の無地のTシャツを着てスマホと昨夜作成した謝罪文を持って玄関に向かう。

 まだ学校に入学して一週間も経っていない、高校生活初めての休日だど言うのに一体俺は何をしているんだ。

 そう思いつつ俺は重い足を上げて玄関から出た。 

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