転生した元従者と言い張る中二な彼女に、ご主人様扱いされるラブコメのようなもの

地下1階

第1話 浦島太郎は亀を放っておけない

 浦島太郎は助けた亀に連れられて、竜宮城に行った。


 結末はみんな知ってるよな?


 つまりいじめられている亀は助けてはいけない。

 そういういましめだ。


 戒めは秒で破った。


「ガキども、いじめカッコ悪い。な?」


「おじさん、うぜ」

「誰? あんた」

「ほっとけよ」

「何? キモ」

「いじめてないよ。お話ししているだけ」


 最後に言ったやつ、こづいてたよな?

 見てたよ、おじさん。


 て、おじさんじゃない。

 高校生だ。

 制服着てるからわかるだろ!


 学校帰りの夕方。まだ日は高い。

 桜が散ってこれから暑くなる季節の、ある1日。

 帰宅途中の、いい感じにさびれた児童公園だった。


「おい、お前」

 俺はガキども男女間5人に囲まれて、うつむいている子供に声をかける。

 ガキどもと言ったが、囲んでいるのは中学生だった。近所の中学校の制服着ているからわかる。俺の母校でもある。


 うつむいていたのはわからん。私服だから。多分中学生。

 まさか、小学生を中学生5人で絞めたりしないよな? いや、わからないか。


 いじめられていた子供が、顔を上げ、すがるような目で俺を見る。そして驚いた顔をする。

 何? 俺の顔を見て驚いたのか? 何で?


「お前、いじめられていたよな? 助けいるか?」

 とりあえず本人の意思を確認する。これ、いろいろ大事。

 首をたてに振る。


「ほら、いじめじゃん」俺は囲んでいたガキどもにそう言った。

「いじめじゃないです。話していただけです」さっき、こづいてたやつ。女の子。制服着てるからわかる。多分こいつがリーダー。

「関係ないのに、口出すなよ」

「おじさんは引っ込んでて」


 おじさん、言うな。

 お前ら小学生に、おじさん、おばさん言われて平気か?


「こいつ嘘つきなんだよ。幽霊が見えるとか言って、岸田くんの気を引こうとして」

 岸田くん、誰よ?

「お祓いしないといけないとか、インチキ占い師かよ!」

「占い好きだろ? お前ら」女の子って占い好きだよね? 多分。


「幽霊に取り憑かれてるとか、岸田くんを怖がらせて」

 だから岸田くんって誰だよ。

「やり方がせこいんだよね。そんなんで、岸田くんの気を引こうとか、ふざけてんの?」


「ああ、うん。お前、岸田くんが好きなの?」

「はあ?! 何言ってんのよ! キモっ!」

「ちがうなら、ほっとけよ。どうでもいいだろ?」

「ほっとけない! ほっとけない! ほっとけない!」

 三回も繰り返すなよ。岸田くんのこと大好きすぎだろ。


「うん、わかった。人の恋路を邪魔する気はない。明日、告白しろ。嘘つき女を吊し上げるより、よっぽど有意義だ」

「だから、ちがうー!」


「じゃあ、話がまとまったところで解散な。岸田くんへの告白が成功することを、祈ってるよ」

「ちがうー!」


 岸田くんに恋する女の子と、その取り巻きを追い払った。


 いじめられていた亀だけが残った。


 その子供は俺をずっと見ていた。

 いや、お前も解散しろ。俺も解散していいか?


 俺を見ていた子供の表情が崩れ、泣き顔になる。

 そして俺に飛び付いてきた。

 俺にしがみつくと、胸に顔をうずめて嗚咽をもらす。


 そんなに怖かったのか。俺はそう思っていたがその子供は、


「会いたかったです。ご主人様……」と言った。


 はい? 何て?



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