第43話 父 6

父が兄弟で払うと言ってから、一カ月が経とうとしていた。


様子を見ていたが、これと言って何かを言ってくる訳でも無かったが、


ある日の夕食で、裁判の話を出してきた。


「あれは他でも同じような事をしていたらしい」と言って来た。


私としてはどうでもいい話であったが、無視する訳にもいかず、


「ふーん」とだけ答えたが、頭ではこの男の真意は何だろうかと探っていた。


そして、私はその断片を見つける為、自ら動いてみた。


「そういえば、裁判はどうなった?」と聞いてみた。


「うん。難攻しているみたい」とだけ言った。


「ノートにお金の動きを書いていた、あれはどこにいったの?」


「あれを無くしたと言い出した」私は心の中では、お前もな。と思った。


「あからさまに、良く言えたものよ」と私は皮肉を込めて言った。


「いや、ほんまにのぅ。裁判所からの提出をそれで通した」


皮肉すら理解出来ない程、父は患者以外の人間と話す事は殆ど無かった為か、

言葉の意味を深く知らない為、遠めの皮肉には気づきもしなかった。


「それでどうする気なの? あの叔母さんが簡単に引き下がる訳ないだろ?」


「それで今、困っとるんよ」私は心で、なるほどな。と理解した。


そして私は返事をせずに脳内で、今後の展開を見ていった。


あれはただの餌か。小さい餌で釣ろうとしている。


しかも民事裁判からやる。考えただけでも恐ろしい。


残りの人生を全て捧げる事になる。そんな事を本気で考えているのか?


こいつは多くの事を知ってはいないが、政治や裁判などにはそれなりの


知識があるやつだ。高齢なお前は、病気では無くても死は近い。


俺に全部を押し付ける気か? 決着を早めにつける方法はあるが、


こいつらはその方法では納得しないだろう。


100%の勝ち以外では納得しないはずだ。私の場合は誘われたから


飲みなどには行った。自分の意志で金を使った訳じゃない。


しかし、こいつも、そして母親も、自分の意志であの金に手をつけた。


布石で従妹たちも焼肉に誘い、連れて行った事は、まだ何とかなる。


だが、母の無駄な体裁で言った小料理屋は、値段も高く、今は敵である


あの叔父を連れて行った。従妹たちは来ていない。


言い訳は出来ない。問題は母親は相続人で無いのに、勝手にあの金を


使った事が大問題になる。どんな誤魔化ごまかしも通用しない。


しかし、この攻め手を使う事の全てを話せば、老後の面倒を見させようと


している母を窮地に追い込む事を、父は止めるだろう。


いつもそうだ。この母親の選択はいつも間違っている。


尻拭いをするのは、いつも自分の役目だが、この役目は変更できない。


裁判での嘘は重罪だ。私無しでは、こいつらは何も出来ない。


無駄に小料理屋に行った事で、全てが崩れ去るのを私は感じた。



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