第31話 母 3

そのまま連絡も取らず、私は深い闇へと落ちて行く日々だった。


そして父は家を出てから、半年足らずで死んだ。


私を騙し、物という物を全て持ち逃げした。


常人であれば、トラブルまみれであった私に連絡は出来ない。


しかし、私は母をよく知っていた。父が死ねば必ず言ってくるだろうと。


そして、幼馴染から電話が来た。おじちゃんが死んだと言った。


私は言った。「それで?」分かり切っていたが、声に出してわざと言わせた。


その言葉次第では、その幼馴染も要注意人物になるからだ。


おばちゃんが葬式に出てほしいと言っていると、言った。


予想通りの事だった。あの馬鹿なら体裁を第一にして、人の気持ちなど考えず


葬式にでろと言ってくる事は、分かり切っていた。


しかも、いつも通り、自分は動かず、人任せなのは変わる事も無いのも


分かり切っていた。


私は年上の幼馴染に出来るだけ言いたく無かった。


自分がどれほど愚かな人間なのかを私は突き付けた。


それでも彼は今回はおばちゃんの本心みたいと言った。


奴の本心も知らずに利用されているだけな哀れな人間にしか、私には見えなかった。


私は言った。

「まだ何も見えてないみたいだ。だから止めたのに、引き受けた以上責任は生じる

そして、私の言葉が頭を過る日は必ず来る。しかも直ぐに分かるはずだ。

私を騙して出て行っておきながら、どんなつらで俺と会う気なんだ?

悪いが、いきなり殴る可能性のほうが遥かに高いぞ? 弟と喧嘩するような

手抜きは絶対にしない」


彼は黙って聞いていた。


「皆殺しにする計画もある。既に手元には、簡単に殺さない為に両刃のノコギリは

買ってある。片刃は簡単にクビを切れるほど鋭利で、苦しめたい奴らにはノコギリで

手と足からバラしてやる。お前が頼んでいる事は、それほどの事だとすらも分からないのか? 俺が散々財産を隠してると言っても、確認も何もせずに終わらせたお前も対象だ。幼馴染のよしみで、ひと斬りで殺してやるから安心しろ」


「俺は拷問は好きじゃない。今までしてきた喧嘩も相手を倒せば終わらせてきた。

だが、そんな俺に想像を絶する拷問を考えさせる程の事をした、あのクソ婆以外の

親類も一同に会する。何事も無く終わると考えるのは、頭が悪すぎるだろう?」


「キングダムを読んでいると言っていたが、“屍に鞭を打つ”話は出てないのか?

あれは中国の史記の中で、実際に起きた事だ。俺も彼同様に恨んでいる。

伊達政宗も似たような事をして多くの家臣を失って師匠に叱られたが、俺にはもう

何も無い。お前たちを殺す事しか他に何も無い。馬鹿の癖に馬鹿にするな。その程度の説得しか出来ないのに、よく電話してきたな」


「一応聞いてみてって頼まれた。無理だと思うとは言ったけど」


「いいか? 俺が今までこんな口調で言わなかったのは、年上に敬意を払うからだ。

だが、時には年上であっても間違いを正さないといけない時もある。お前は母を説得するべきであって、頼みを聞く事は大間違いでしかない」


彼は静かに言った。「私の弟に電話してみる」と言って電話を切った。


彼は私に再び電話してきて、私の弟が葬式に出てくれるみたいだと言った。


しかし、私には分かっていた。100%行く訳が無いことを。


当日、予想通り、弟は来なかったと連絡がきた。

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