第16話 大学教授の叔父 1

 私の親から学んだ事は、全て良く無いことばかりであった。


本来なら幼い子供で、いつも孤独で、孤独に慣れてしまった子供は


人生の指針に迷うどころか何も分からなくなる。


私があらゆる面で尊敬し、今でもまだ勝てない相手が大学教授の叔父だ。


もう随分前に、副学長となり、自分で言っていた。


こんな何処からか湧いてきたような自分が、大学のナンバー2になれるとは


思ってもみなかったと。


この叔父は親族に当たるが、私の精神や、私の世界が普通では無い事を


まだ幼い私に、何度も繰り返して言われた。何度も何度も言われたから


覚えているのだと思う。


私が小学生の低学年の頃、叔父から電話が来て、


どこどこの汚い店だが、味は美味いから、自分で電話で注文して


自分で取りに行って、大学まで届けてくれと言った。


そして毎回言われた。


家政婦さんに頼むんじゃなく、自分で全部しろよと。


私は叔父の言う通り、私の人格を正しい方向に導いてくれたのは


この叔父である。叔父はPCの専門の教授でありながら


英語も堪能で、今は毎年、1シーズンは海外で暮らしている。


叔母が居る時は、必ず自慢してきた。


可愛いだろ? と。照れる事も無く、ハッキリと自慢する姿は


実に気持ちいいものだった。


私はもう会えないかもしれないと思い、会いたいと電話した。


叔父は、私が希に電話すると必ず言う。


覚えていてくれたんかと、電話越しで泣いていた。


私も泣いていた。


叔母はアルツハイマー認知症、私の事は忘れていた。


しかし、叔父の事はハッキリと覚えている。


愛をハッキリと伝えていたからだろうかと思う。


そして今は家事や洗濯に料理も全て叔父がしている。


もう高齢だが、弱音ひとつ言わなかった。


逆にまだまだ人生はこれからだと、言っているように見える程で、


真に賢い故に、我々の親族とは、そもそも反りが合わないのは


明白だった。私はそれが元で、遠縁になったのだと思っている。


私も哲学の話は親族には一切通用しない。金と権力にまみれているからだ。


本当に何が大切かを知っている人は、少ないが、強い精神力を持っている。


誘惑に勝つ力が無いと、自分に打ち勝つ事は出来ないからだ。


私は今はこう頭にある事を書いているが、


当然、苦悩の末に出た結論は多い。悩む事が大事であり、


結果は後からついて来るだけだ。


叔父も同じだ。誰しも人間ならそうあるべきだ。


私が地元にいた頃は、よく裏から情報が入ってきていた。


事故をして、示談で50万取ったと、私が親族とは知らずに、


いう奴がいたが、親族からしたら50万なんてはした金だ。


金にも権力にも屈しない人間こそが、闘うことが出来るのだ。


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