第23話

「なんか、あいつ変わったよな。」


「山に行ってから勉強なんかしていなかったのに、今じゃテストをサラサラ書いてるもんな。」


「俺らがテスト前に教科書呼んでるのにアイツ余裕だぜ。」


「それだけ山の中が怖かったのかな。」


「そう思うと、俺、勇のこと尊敬するわ。」


「雄馬がまだ見つかっていないのは残念だけど、姉妹があんまり悲しんでいないってことは雄馬ってもしかして憎まれていたのかも。」


「でもよう、勇が雄馬のこと妬んで殺したって戦は無いのか?」


流石に俺が来てから2、3日経てば色々な憶測が飛び交う。

根も葉もない噂は当人たちを傷つけることを、当人の側に立たなければ知らない彼らは、どんどん妄想の領域の噂を助長させる。


「あんた、大丈夫?

 ありもしない噂を立てられているけど。」


「所詮は未成年の世迷言だろ。

 大人でさえ世迷言が好きなのにそんなの構ってられないよ。」


「それもそうね。」


「ちょっとは気が合うな。」

 

ルルさんって俺とは気が合わないタイプだと思っていたけど、勉強とか日常生活の面では気が合う部分が多いのかもしれない。

意外としっかりものだし、生徒会に推薦されてたけど断っていたしね。

速攻断ったけど。


「勘違いしないで、私は学校そのものがあまり好きじゃないの。」

「学校そのものが好きじゃないって、もしかしてボッチ?」


「ボッチじゃないわよ。

 あなたと一緒にしないで。

 私と気が合う人が居ないだけ。」


「それを世間一般ではボッチというのでは?」


「違うわ、私が望んで孤独に生きているのだから孤高と呼びなさい。」


うんうん、解ったよ。

集団生活が好きじゃないってことだね。

一匹オオカミってやつだね。

元々ははぐれ、追い出されたオオカミなんかを差す言葉だけど。


追い出されて裏切られるのが怖いからそうなったのかな。

まあ、高校生から大人と同じようなことをしていれば捻くれるか。


「早熟だねえ。」


「そのおばあちゃんが大人びた孫を見るような目で見るはやめなさいよ。」


「いやいや、気のせいだよ。

 それよりも次のテストが始まるから席に着こうよ。」


「確かにそうね。

 試験は互いに頑張りましょうね。」


このとき、俺はルルさんと平然と話していることに妬みを持つ男子生徒や、雄馬に恋をしていた女子生徒たちに疑いの目を向けられていることに一切気が付かなかった。

いや、知らなかった、自分たちが初めて感じる未知の視線を。


想定していなかった社会の縮図の脅威が襲い掛かることはまだ少し未来の話。

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