第8話 ガパオデスマッチ

 キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴って休憩時間になった。


「ねぇ、かすみちゃん?問題出してあげよっか?」


 スペシウム光線を撃つジェスチャーをしながらほのかが聞いた。


「…いや、いいや。」


 かすみは持参した週刊プロレスを見ながら言った。


「わかった。じゃあ、問題です!」


「うん…まぁあんたはそれでいいや。」


「イスはイスでもおいしいカレーライスはな~んだ?」


 ほのかはニヤニヤしながらかすみを見た。


「…あのさ、なんで毎回間違えるのよ?イスはイスでもおいしいイスはな~んだ?でしょ?」


 かすみの指摘にほのかはいつも通りはっと驚いた顔をした。


「えっ!あ、そっか!わかった!じゃあ、気を取り直して問題です!」


「…」


「イスはイスでもおいしい…」


「待った。」


 かすみは手のひらをほのかの方へ向けて彼女の話を制止した。


「…ん?どうしたの?」


「待って。あんたどうせまた答え言うでしょ。いい?カレーライスって言っちゃダメだからね?イスはイスでもおいしいイスは?だからね?」


 かすみはほのかを指さして念を押した。


「OK!わかった!じゃあ、問題です!」


「…」


「イスはイスでもおいしいハヤ…」


「はい、待った!」


 意気揚々と問題を出していたほのかの口を、かすみは右手の人差し指で押さえた。


 急に口を塞がれたほのかは、自分の口を塞ぐかすみの人差し指をびっくりしながら見つめていた。


「あんた、ハヤシライスって言おうとしたでしょ。ダメだから、料理名言っちゃ。いい、ほのか?おいしいイスが何か聞いてきなさい?わかった?」


「ぷっ…ははっ!」


 かすみの話を聞いたほのかは急に笑い出した。


「…何よ?」


「ちょっと~かすみちゃん!なに言ってんの~?イスは美味しいとか以前に食べられないでしょ?フフッ…何?ウルトラマンダッシュで作ったイスかなにかなの?」


 無言のまま、かすみは近くにあった教科書でほのかの頭を叩いた。


「痛った~!なにすんのさ!」


「ちゃんとしなさい。ほら、もう一回問題出してみて?」


「うっ…わかったよ。もう~!」


 ほのかは頭を押さえながら言った。


「イスはイスでもおいしいガパ…」


「ガパオライスも言っちゃダメだから!」


 かすみはほのかに向かって叫んだ。


 急に叫ばれたかすみは驚いて口をパクパクしていた。


「ガパ…ガパッ…!」


「ガパオライスって言っちゃダメよ!耐えなさい!堪えなさい!そのままイスはな~んだ?って問いなさい!」


 ガパガパ言っているほのかにかすみは一生懸命呼びかけた。しかし、かすみの呼びかけも虚しくほのかはガパオライスと今にも言おうとしていた。


「ガパ…ガパ…ッ!ガパオォ…!」


 ほのかがガパオライスと言おうとした瞬間、かすみは丸めた教科書でほのかの顎を思いっきり殴った。


「ガパオライスって言うなぁ!!」


「ガパッ!!!」


 ほのかは断末魔を放ちながら気絶して机に倒れた。


 ほのかが机に倒れた音が教室中に響き渡り、クラスのみんながほのかとかすみの方を何事だ?と振り返った。


 みんなから視線を浴びたかすみは、慌てて気絶したほのかの体を揺さぶるフリをした。


「…ちょっと!ほのか!急にどうしたの!?目を覚まして!!ほのか!ほのかぁ~!!」


 キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴って休憩時間が終わった。

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