第3話 確認

 カーテンの隙間から差し込む陽の光。外から鳥の囀る声が聞こえてくる。

 まだベットから起き上がって外の様子を確認した訳では無いけれど、おそらく今日の天気はいいのだろう。

 目を覚ましてからどれくらいの時間が経過しただろうか?かれこれ1時間くらいはこうしてるだろうか?


 今僕は傍から見ればベットから起き上がることなく、ぼうっと天井のシミを数えている暇人に見えることだろう。


 いや、正確に言えば僕は今天井のシミなんて数えてないし、それほど暇人ではない。

 ……いや、パーティーをクビになって自由の身になったことを考えれば暇と言えるかもしれない。〈紅蓮の剣戟〉にいた頃は毎日が馬鹿みたいに忙しかったから、こんなにのんびりと睡眠を取ったのは久しぶりの事だった。


 まあそんな話はどうでもいい。今はそんなことよりも考えることが沢山あった。

 それはスキルの進化と新しいスキルの獲得についてだ。


 昨日の夜、いきなり聞こえてきた〈天啓〉。その〈天啓〉はこれまたいきなり『スキルが進化しました』とか『スキル【鑑定】を獲得しました』とか訳の分からないことを言ってきた。


 そもそもスキルとは5〜10歳の間に発現するもので、それ以降はスキルの発現はありえないと言われている。それが今年で16になる僕は新しいスキルを発言させてしまった。


 しかも【鑑定】という、とても希少なスキルだ。【鑑定】と言うスキルはその名の通り人や物を鑑定する事が出来る能力だ。このスキルがあればステータスや武器の耐久力、スキルの効果内容を詳しく見ることが出来る。


 試しにスキル【鑑定】を発動させて自分のステータスを見てみる。


「鑑定……うお!本当に出た……」


 スキル名を呟くとその瞬間、目の前に複数の項目と数字が表記された半透明のパネルのようなものが目の前に出てくる。


 ────────────────

 テイク・ヴァール

 レベル1


 HP:80/80 

 魔力:5/5 


 筋力:60 

 耐久:45 

 俊敏:92 

 器用:57 


 ・魔法適正

 無し


 ・スキル

【取捨選択】【鑑定 Lv1】


 ・称号

 無し

 ────────────────


 そこには確かに僕のステータスがしっかりと映し出されていた。

 相変わらず6年間探索者をしてきたとは思えないほど数値の低いステータスだ。


 まあそれは今どうでもいい。

 それよりもこうしてスキルが発動しているのと、実際にステータスを確認できていると言うことは僕は本当に【鑑定】のスキルを発現させたということになる。


 本当にどうなってるんだ? こんな話聞いたことないぞ?

 それに加えて僕が一番最初に発現させたスキルも〈天啓〉の言葉通り進化(?)している。


「取捨選択……ね」


 そもそもスキルの進化とはなんなのか? そんな話聞いたことがない。

 スキルの熟練度によってスキルのレベルが上がることがあるのは知っている。レベルが上がれば上がるほどスキルの性能が上がるのだ。


 しかしスキルが発現してからこの方、レベルが一つも上がらなかった【捨てる】がレベルアップを通り越して、聞いたことの無い進化をして、【取捨選択】なんていうスキルになってしまうなんて、一体自分の身に何が起きているというのだろうか。


「そもそも、【捨てる】の時と何が変わったんだ?言葉の意味的に大して変わらないような気がするんだけど……?」


【鑑定】を使って【取捨選択】の詳しい効果内容を見てみる。


 ────────────────────

 スキル【取捨選択】

 ・効果1

 触れたモノを捨てるか拾うか選ぶ能力。

 今まで捨てたモノをスキル固有の亜空間に 保管し、任意のタイミングで出し入れすることができる。

 ・効果2

 触れたモノ(死体)に能力値とスキルがあればそれを分離して一時消去、自分の能力値(ステータス)に加算するかしないかを選択出来る。

 ────────────────────


「……はあっ!?」


 その効果内容を見て思わずベットから飛び起きて大きな声を出してしまう。


 スキル1つで複数の効果を持っているだけでもやばいのに、なんだこの馬鹿げた効果内容は!規格外すぎるだろ!?

 どちらの効果も普通にヤバいが、特に2つ目の効果がヤバすぎる。


『触れたモノ(死体)に能力値とスキルがあればそれを分離して一時消去、自分の能力値(ステータス)に加算するかしないかを選択出来る』


 つまりはあれか? 僕は死んだ生物からステータスを奪って自分のモノにできるということか?


「いやいや、流石に能力がぶっ飛び過ぎてる。そんなことできるはずがない」


 冷静に考えればステータスを自分のモノにするなんて信じられるはずがない。

 元々は手に触れた小さな紙屑を何処か消し去るという、そこら辺の手品師でもできるようなしょぼスキルだったのだ。

 進化かなんだか知らないが、いきなりそんな事ができてたまるもんか。


「…………」


 だがもし仮にこの表示されているスキルの効果内容が本当ならば、とんでもないことになる。

 今まで万年レベル1だった僕がそこから脱却出来るかもしれないと言うことだ。


「試してみる価値はある……のか?」


 兎にも角にもスキルの効果内容を読んだだけで判断するのは早計だ。これはスキルの効果を検証する必要が出てきた。


 結局のところ、僕に残された道は1つしかないのだ。このスキルが何なのかは分からないが、使えるものは全て使って強くなってやる。


「よし、それなら早く大迷宮に行こう」


 中途半端に起き上がっていた体を完全に起こしてベットから飛び降りる。

 そうと決まれば行動あるのみだ。

 時計を確認してみると時刻はまだ朝の9時を回ったばかり。時間は十分にある。


「飯食って、武具屋に行って、大迷宮の順番だな」


 今日の大まかな流れを決める。


 昨日はわけも分からずジルベール達に持ち金と着ていた防具を全て没収されてしまっまたからな。流石に大迷宮に丸腰で潜る訳にはいかない。


 痛い出費だが、命には変えられない。

 本当、こんな時のためにジルベール達の目が届かない貯金をしといてよかった。

 その貯金もそれほど多くは無いので、あまり贅沢は出来ないが、本当に一文無しよりかはマシだ。


 寝癖でボサボサだった黒髪を適当に直して、休息日の日にいつも着ているくつろぎスウェットのまま部屋から出る。


「もしこのスキルの効果が本当だったなら、これは今僕が1番欲していた力じゃないか!」


 僕は新しいスキルの可能性に大きな期待を抱きながら大迷宮へと向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る