第7話 無くなったお金

 俺は昨日の疲れもあり普段より遅くに起きた。冒険者は朝早くから活動する人が多いため、この時間になればギルド内には人が居なくなっていた。


「ウォーくんおはよう」


「おはようございます」

 俺は今日も採取依頼を受けるつもりだ。大金を手に入れたがすぐに宿屋に変えてしまうと目をつけられる可能性があった。


「最近調子いいけど無理しないようにね!」

 俺はリーチェに見送られると今日もいつもと同じ森の前に向かった。


「よし、今日も採取を始めますか」

 今日は全て短剣で採取するつもりだ。俺は気合を入れていつものように薬草が生えているところに向かうと半分だけしか薬草が生えていなかった。


 薬草は毎日生えてくるものだと思っていたが、実際は手で切り取ったところだけ生えていなかったのだ。


「これって短剣の影響か?」

 その後も昨日と同様に薬草と毒消し草を採取しに行くとやはり手で切り取ったところだけが生えていなかった。


 俺は今日も袋いっぱいに詰めると冒険者ギルドに戻り買い取りをしてもらった。今日は500Gも1日で稼げたのだ。安い宿屋で有れば20日間ぐらいは泊まれる計算だ。


 俺は普段通りに証券口座にお金を入れようとすると異変に気付いた。


 昨日まであったお金が証券口座から無くなっているのだ。基本的に俺自身でしか取り出しができないため、部屋に戻ったがお金は落ちていなかった。


「あー、またやってしまった」

 俺は急いでルドルフの鍛冶屋を確認すると明らかに保有数量のところが1から2に変化していた。以前は1000Gが消えたのに今回は1500Gも消えてしまった。


「あー、この馬鹿スキルが!」

 俺は必死に透明の板を叩くが何も反応しなかった。変わっているのは上下に変わる線のみだった。


「ウォーくん今大丈夫?」

 そんな俺を心配してなのかリーチェが部屋に訪れた。


「あっ、大丈夫です」

 俺は急いで証券口座を閉じ、扉を開けると不思議そうな顔をしたリーチェが立っていた。


「騒いでいるから誰かといるかと思ったら1人だったのね?」

 俺の叫び声は外まで聞こえていたのだろう。


「何かありましたか?」


「ちょっとウォーくんに会いたいって人がいてね。 ここに行ってもらいたいの」

 俺が渡されたのは行き先が書かれた地図と依頼書だった。


「モーリンの薬屋?」


「ここ最近は質の良い薬草を提供出来ているから直接依頼したいって話があったの」

 俺はその話を聞いて心の底から嬉しくなった。


 冒険者として直接依頼があるということはそれだけ期待されているということだ。その分採取でも失敗したら信用を失って冒険者としてのランクは下がってしまうが、攻撃スキルがない俺には関係ない。だから俺は常に最低ランクなのだ。


「じゃあ、いつでもいいからモーリンさんのところに行ってきてね」

 俺は急いで準備をしてモーリンの薬屋に行くことにした。





 モーリンの薬屋は大通りから少し離れたところにあるが昔から潰れない謎の薬屋だ。


「すみません」

 俺は扉を開けるとそこには綺麗に並べられたポーションが置いてあった。


「若造がなんのようだ?」

 俺は依頼書を取り出し、リーチェから聞いた話を伝えた。


「ほほほ、お前さんがあの薬草を持ってきたやつか」

 一度ジロジロと見られるとモーリンは足元から袋を取り出した。


「この袋いっぱいに薬草と毒消し草を持ってきてもらえんか? ただし普通のやつでは買い取らないぞ!」

 いつもの袋とは異なり、少し小さめのため俺にとってはありがたい話だった。


「依頼は3日間で頼むよ。 報酬もこれだけだが良いものが取れたらさらに報酬を渡そう」

 ちゃんと見てはいなかったが報酬の欄には1000Gと書かれていた。一般の市民であれば2ヶ月も生活できるほどの破格の報酬だった。


「こんなにもらってもいいですか?」


「ああ。 他のところに薬草が取られるぐらいならこれぐらい安いもんさ」

 後から聞いた話では俺が冒険者ギルドに薬草を買い取ってもらうようになってから薬草の取り合いが激しくなったらしい。


 基本的に薬草をおろす時はランダムのため、普通の薬草の中に俺の薬草を混ぜて、高い値段設定にした売っていたらしい。


 冒険者ギルドも金を稼ぐためには色々と工夫していた。


 良質な薬草でも知らない人にすれば薬草には変わりないのだ。だからこそモーリンは冒険者ギルドから直接俺に個別依頼を出したらしい。


「では、また明日来ますね」


「明日!? そんなに急がなくても集まってからでいいさ!」

 1日……いや、半日で集まるから明日には来ることを伝えたが期限内に集めれば良いらしい。


 俺は良い気分のまま冒険者ギルドに帰ることにした。さっきまでお金が無くなって落ち込んでいたが、個別依頼で俺はすっかり忘れるほどだった。

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