第4話 鑑定

 不穏な空気を感じ取った俺はひょっとして薬草じゃない物を採取したのではないかと思った。


「ウォーくんお待たせしました」

 見た目は似ているが、ただの草も存在するぐらいだから採取未経験の俺はその可能性が高かった。


「俺が取ってきたのは──」


「ウォーくんこの薬草ってどこで取ってきたんですか?」

 どこか興奮しているリーチェに俺は違和感を感じた。


「森の──」


「あっ、流石に聞くのはマナー違反ですよね。 実はこれ薬草じゃないんです」

 やはり俺の予想は当たったようだ。どうにかお金を稼ぐ手段を見つけたのにまたまだ勉強不足らしい。


「じゃあ依頼達成できないですね」

 俺が落ち込んでいるとリーチェは笑っていた。実はこの女性も俺が苦しむのを見て楽しんでいた人間なのかもしれない。


「依頼は達成できてますし買い取りもできるんですよ! しかも、これって薬草より効果が高いんです」

 リーチェの言葉に俺は何が起きているのか分からなかった。薬草ではないけど薬草より高く買い取りをしてくれるとはどういうことだろうか……。


「この薬草って薬草の中でも100本に1本混ざってるかどうかの薬草なんですよ。 だから薬草だけど薬草じゃない扱いですし、薬草1本でも相当の値段なのにそれが83本もここにあるんですよ」


「えっ……」


「これで治療費は無事に返済できますよ! むしろたくさん余るぐらいです」

 俺は驚き空いた口が塞がらなかった。さっきまで絶望の縁にいた俺が今は天国にいるようだった。


「治療費分の200Gを差し引いたもので残り105Gあります」

 出されたのは金貨1枚と銅貨5枚だった。1桁ずつ桁が変わると貨幣が異なり、金貨の2つ上の5桁になると白金貨という価値も高く質量も重くなるのだ。


 白金貨を手に入れるには余程のお金持ちか貴族、そして勇者ぐらいなのだ。


 しかも白金貨より上の大白金貨を持っていると世間から注目を浴びるぐらいなのだ。ただ持ち運びができないため飾るのに適している。


 貴族には大白金貨ありと言われるぐらいだ。


「こんなにもらってもいいんですか?」


「はい、ウォーくんが稼いだ物ですからね!」

 俺は周りの冒険者に見られないように急いで謎スキル【証券口座】に入れることにした。これでやっと防具も魔物が出た時に対処できる剣も買うことができるのだ。


 俺はリーチェにお礼を言うと急いで冒険者ギルドの部屋に戻った。その部屋は俺が倒れて運ばれた部屋だ。


 ベットしかない簡単な部屋だが、お金がない駆け出しの冒険者の味方だ。ちゃんとした宿屋に泊まることができたら一端の冒険者と言われるほどだ。


「はぁー、これが俺のお金か」

 俺は証券口座に書いてある105Gと書かれていた単位を見て喜んでいた。


 俺の謎スキル【証券口座】は俺にしか見えない謎の透明な板が目の前に表示されるのだ。その板には上下に動く線やお店のような名前が書かれている。


 以前試しに触った時はパーティーのお金が勝手に消えたことがあった。その後アドルにバレたときにはめちゃくちゃ殴られたのも今となっては遠い過去だ。


 俺は疲れた体を休めるために証券口座を閉じてすぐに眠りについた。





 太陽の光とともに俺は目を覚ました。お金を稼いだことによる浮ついた気持ちなのか体が軽くなったのかはわからないが体の調子も昨日よりは良くなっていた。


 俺はリーチェから借りた短剣を返すためにカウンターに降りて行くと今日も優しい笑顔でリーチェは朝から働いていた。太陽より眩しい笑顔に俺はどこかドキドキとしていた。


「おはようございます」


「ウォーくんおはよう! 体調はどう?」

 すぐに人の心配ができる女性は中々いないだろう。俺の周りにいたのはアドルにベッタリとくっつくふしだらな女性ばかりだった。


「元気ですよ! そういえば、昨日借りた短剣を返そうと思って」

 俺は短剣をカウンターに乗せるとリーチェは不思議な表情をしていた。


「これはウォーくんの短剣じゃないんですか? 運ばれた時には一緒に持ってきてましたよ?」

 どうやらこの短剣はリーチェが渡してきたものでもないらしい。


 ひょっとしたら門番のライオかと思ったが、ライオの物であれば昨日会った時には何か言ってきたはずだ。


「そうなんですね」


「どんな短剣か気になるならお金がかかりますが鑑定をしましょうか? その時にも所有者もわかりますよ」

 リーチェの提案に俺は短剣を鑑定することにした。誰のかわからない物をずっと持っておくのも悪いと思ったからだ。


「では、10G貰いますね」

 人前でスキルを使うと変な目で見られるため、一度カウンターの下にしゃがみ込んだ。俺は証券口座から10Gを選択すると銀貨が出てきた。


「ではお願いします」

 俺は銀貨を渡すとリーチェは短剣の鑑定を始めた。


「えっ、これって……でもウォーくんのやつだしな……」

 鑑定しているときに独り言を話すのはリーチェの癖なのかそれともスキルの影響なのか。俺は鑑定を終えるまで待っていた。


「鑑定終わりました。 結果をはじめに伝えるとこの短剣はウォーくんの物でした」


「俺のですか?」

 なんと俺は知らない間に短剣を手に入れたようだ。


「しかもこの短剣はすごい珍しいものでした」

 リーチェは紙に詳細を書くと俺に渡してきた。そこには驚きの内容が書いてあった。


《匠の短剣》

レア度 ★★★★★

説明 あるドワーフが復帰作として作った短剣。幸運が訪れるようにと願われたこの短剣は持ち主の幸運を上げる。特に採取や戦闘時に能力が発揮される。

持ち主 ウォーレン


 どうやら俺は幸運の持ち主になったようだ。

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