3-1-2

 手を放して現れたのはピンクのリボンとポニーテール。ひらひらと危なげのなくなったスカートともにヒルメは、クルクル回ってこちらに見せてきた。


 「おぉー、ぱちぱち、」とテキトーに送られた拍手にドヤ顔で応える彼女だったが、突如「あっ、」と何か思い出したようにかけていった。


 思ったよりもフラフラな足で追いかけた俺だったが、出迎えたのは炭と化した廃墟だった。ついぞ見ることは叶わなかった異文化の外観は、きっと美しかったんだろう。ひ、ひどい~いったいダレガコンナコトヲ~~


「ふむ、流石に焼け落ちましたか。アナタにはお世話になりましたが……まぁ仕方なし。さてさてお目当てのものは~おっ、ありましたぁ!」


 そんな俺よりもあっけらかんと、それこそ他人事のように切り捨てた幼女。いいのかそれで? とも思ったが、引き留める間もなく小さな足は、廃墟の隣に横たわる、もう一つの灰の塊へと走っていく。

 直撃したからか今なお身体のあちこちから煙が昇るソレは、大きさとわずかに残った蛍光黄色からも分かるように、俺を崖に捨てた原因を作ったストーカーの亡骸に違いなかった。


「ふ~あぶないあぶない、ギリギリでしたね。焦がしちゃうトコでした」


 彼女はブカブカに余らせていたボロボロのそでを引きちぎると、それを鍋掴みのように手に巻いて。

 そのまま、何をトチ狂ったか突然、勢いに任せてトカゲの腕を引きちぎった。引きちぎってしまった!


「ハ、オマ…アンタ何して――!!っ、」


「あゝ引かないでください! 違いますからね!、コレは熱でホロホロってなってるだけで、決して私が鬼人 顔負けのマウンテンゴリラというわけでは……


「ちっげぇよ! そのバケモンの腕もいで何するつもりだって話してんの!、あ~なんか垂れてんだケド?、それ手で持ってだいじょ――


「もちろんですよ、彼らは手に毒 持ちませんから。ハイ、アナタの分!」


 快活な声と共に悪意ゼロ、満面の笑みで幼女から手渡されたのは、ド派手な黄緑に焦げが付いたカオス。多分夕方五時ならモザイク掛かってる。俺の脳と耳が壊れていない限りでは、誠に遺憾ながら食べ物らしい。


「お昼ごはんは灰になっちゃいましたからね~、おなかペコペコですよ。いっただきま~す!」


 アっ、いただ?、食べイった?——イッチャたぁ!、神サマァッ↑!!


「ろうひはんへふふぁほうあ、はえひゃいまふほ?」


 手に蛾の幼虫を乗せられた婦女子のような目で凍り付いた俺を、ヒルメはその小さな口にダークマターをほおばりながら覗き込んでくる。


「ㇵッ!——、ひょっとして素焼きはニガテでしたか?、ご安心ください。そういう時にはコレ! 翠極せんごく 印の秘伝せう油をかけてあげませう! それ~♪」


 受け取ったまま恐怖のくさびで打ち付けられ、微動だにしていなかった手元のダークマターにドバドバと注がれた "ショーユ" なる謎の液体。手にまでしたたってきたソレをぬぐう事すらできず、まだまだ顔色と心拍数だけが落ち続けていった。


 エっ、どーしろと?、いや "コレで大丈夫ですね!" みたいな顔されても困んだケド!?、やべぇ喰うのかコレ!?、マジで!?


「……い、イヤ。でしたか?、」


「——それズルじゃん!!!、それはズルじゃんムリじゃんパンジャンじゃん」


 手に握った食べかけのダークマターと唇を震わせて、目に涙を浮かべた幼女。思わずなけなしの良心を握っては、泣きてぇのはコッチだという気持ちを抑えながら慰めにかかる。


「別に無理して食べなくたって……





 


 

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