シキモリ(色衛)ー蒼色巨神シアンー

ペアーズナックル(縫人)

蒼色編

第1話 蒼い巨神その名はシアン

「色素警報発令、色素警報発令、緑系色素から高エネルギー反応を感知。色素生物です。」

「皆様、直ちに緑系物理色ぶつりしきを含む物体から離れてください、もし装飾品にそれらの色系統を含むものがあれば、直ちにそれを捨てて避難してください。」


この星に住む人間が”色”にエネルギーがあることを突き止めたのと、”色”を操る謎の生物が地球に侵略を仕掛けてきたのはほぼ同時だった。それ以来、人々は”色”を畏怖するようになった。色力観測施設からけたたましく発令される色素警報に人々は恐れおののき、みな”緑色”の物を捨てて一目散に避難所へと走っていく。街は恐怖と、服やら鞄やら携帯やら・・・とにかく緑色の物が無造作に投げ捨てられていた。


「全く、なんでこんな時に限って下着が緑なんだよ!」

「だって、今日のラッキーカラーは緑だって占いサイトが・・・」

「その占いサイト、信用できないからもう二度と見るなよ。それより早く脱げよ!」

「これ脱いだらあたしノーブラ、ノーパンよ!?そんな状態で避難所に行くとか絶対いや!!」

「俺の下着貸すから!早くしないと色素生物がお前のパンツから現れるんだぞ!!」

「それは嫌!!」

「じゃあ早く下着を・・・」

「それも嫌!!」


どうやら女性の方は、よりによって今日緑の下着をつけてきたらしい。おかげでこの通り色素警報が発令されても簡単に捨てることが出来ない。彼氏と思われる男はどうにか彼女を説得しようと試みているが、彼女にだって女としてのプライドがある。いくら危機的状況とはいえ、替えも無いのにおいそれと下着を脱ぐわけにはいかないのだ。男は焦った。


「いのちよりパンツが大事なのかよ!」

「どっちも大事なの!!どっちも捨てたくないのに・・・うええん!!」


たまらず女はいよいよ泣き出してしまって収拾がつかなくなってきた。色素生物が出てくるまでもう僅かも時間が残されていない。仕方ない、不本意ながらここは俺が一肌脱いでを取ろうと、男が覚悟を決めたその時。後ろから声をかけられた。


「あの」


呼びかけられて男が振り向くと、そこには一人の男が立っていた。自分と同い年くらいで服装も割と似ているが、よく目立つのは海のように青い髪と青い目に青いジャンパーととにかく青尽くしのその容姿だ。男は彼氏に袋を手渡した。その中身を確認すると、「女性用下着セット・グレー」と記されている。男はそれが彼氏の手に渡ったことを確認するとすぐに何処へと走り去っていった。


「それで、彼女さんを着替えさせてください。じゃあ、僕はこの辺で・・・」

「あっ!!ああ、ちょっと・・・行っちゃったよ・・・おまえ、あいつと知り合いか?」


彼女はかぶりを振ったが、ともかく替えの下着をもらったので有難く使わせてもらう事にしようと、男の手を借りながら素早く着替えて避難所へと走り去っていった。


そのすぐ後だった。路上に投げ捨てられた緑色を含む物体が、皆ぶるぶると振動し始めた。そして、各々の”色”が液体のように動き出してそれらから吸い取られていく。吸い取られた色は空中の一か所に集まり、一時的に直径がビルの高さほどの球を形成した後、そこを基準としてぐにゃぐにゃと粘土をこねるかの如く形を与えられていく。はたして緑球は色素生物グリンガとしての正体を露にした。色を抜き取られた物たちは全て白無地と化していた。


色杯カラーパレットはどこだ・・・色杯を渡せ!!さもなくば・・・破壊する!!」


グリンガは早速破壊活動を開始した。名前の通り深緑の鎧を身に着けているその色素生物は巨体をぶつけただけでこの国で一番高いとされるビルが轟音をたてて崩落させていく。そしてなぜかむき出しになっている頭の一本角に色力を集中させ、町一帯を焼き払うレーザー光線に変換して放出した。当然、緑色である。大きな弧を描いくように放たれた光線で街が炎に包まれたことを確認すると、グリンガはぐわぐわと高笑いした。


「地球人ども!これ以上街を破壊されたくなければおとなしく色杯を渡せ!!遅れれば遅れるほど街は悲惨なことになるぞ!!」


街はグリンガに破壊されるままであった。だが地球にも防衛策がないわけでは無い。色素生物の襲来に対する為に結成された特殊防衛組織、COLLARSカラーズの無人防衛戦闘機が今轟音を立てて目標へと攻撃を加える。まず二発のミサイル弾が奴の胴に命中した。だが、色素生物はこれくらいでひるむほど甘くはない。無人戦闘機の動きを予測して、ぎょろりと除く眼球部分から緑色光線が放たれて無人戦闘機を二機ほど撃墜する。


「煩わしいハエ共め、叩き落としてくれる!!」


色素生物が出現した中、すでに人々は避難所へと逃げたはずだったが、蹂躙される街でただひたすらあるものを探して走り回っている男がいた。先ほど、逃げ遅れたカップルを助けたあの青い髪の青年である。名を蒼井ソウタというその男はやたらと周りをきょろきょろと見まわしているが、彼はいったい何を探しているのだろうか。


「青い物理色・・・なんでもいい、青色がある奴を・・・」


彼は真剣だった。既に無人戦闘機のみでは色素生物に到底勝ち目がないことを知っていたCOLLARSは、関係機関と協力して対色素生物防衛生物兵器、通称色衛シキモリを完成させている。だが、その生物兵器もやはり色力、それも青色を利用するので、いざ色素生物が現れた時には急いで青系物理色を持つものを探して、色力を抽出エキストラクトし、色武装しなければならない。そう、蒼井も非常勤ではあるがCOLLARSの一員であり、かつその色力生物兵器をその身に宿した人物でもあるのだ。


「青色・・・青色・・・ん?」


工事現場の近くに差し掛かった時、彼は誤ってガシャンと道端においてあった塗料缶を蹴飛ばしてしまった。蓋が空いていたまま置かれていたので、倒れたとたんにドクドクと道路が塗料で染められていく。その色は・・青だ。


「青系物理色だ!よし、これくらいあれば・・・!」


蒼井は倒した塗料缶を逆さに持って中身全てを道路にぶちまけた。完全に空になった缶を投げ捨てると、胸ポケットから先が針のようにとがっている棒状の装置を取り出して、その先端をぶちまけた塗料に突っ込んだ。すると、たちまち塗料だまりに波紋が浮き上がり、塗料の”色”だけがその装置に吸い込まれていく。色を失った塗料はやはり白無地となった。そして蒼井は、青系物理色で満杯となった色力抽出装置カラー・エキストラクターを天に掲げて、そのエネルギーを解放した。


充分なエネルギー量で満たされた”色”は解放された瞬間に蒼井の体を繭のように包み込み、やはりビルの大きさ程の球になった。球はいったん飛びあがると、攻撃の手を緩めないグリンガめがけて急速に接近して衝突し、その勢いで奴を10㎞ほどーー巨大な彼らにとってはわずかな距離でしかないーー吹っ飛ばした。不意打ちを食らったグリンガはすぐさま体勢を立て直し、同じ背丈と思われる青色球を睨んだ。


「何奴!!」


青色球は再び大地に降り立つと、グリンガとは違って収縮するような形で本来の形を現した。頭部がむき出しのグリンガとは違い、上半身、特に肩から上の部分を銀色のプロテクターで覆っている。頭部にはやはり銀色の鉄仮面で覆われており、のっぺりとした仮面の下に口らしき意匠が見える。後は全て青色だった。この蒼い巨神こそ、COLLARSが威信をかけて生み出した生物兵器そのものである。その名は・・・




「・・・お前は・・・シアン、シアンじゃないか!」




グリンガは彼をシアンと呼んだ。なぜなら彼はシアンを知っていたのだ。





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