第8話 魔法とスキルの時間だ!



 さて、とりあえず会議も終わりだ。


 なんだかんだで演説をぶちかましてしまったが……正直何を言っても肯定されるのは恐怖を覚える。


 俺の舵取りが間違っていたとしても、そのまま突き進んでしまうってことだろ?


 出来れば外部の人間を顧問として招き入れたい所だが……それはそれで色々問題もありそうだよな。


 まぁ、それは追々だな。とりあえず、一度訓練所に行ってフェルズ……いや、俺の能力を確かめておこう。


 ゲームの時であれば、よく言えばオールラウンダー……悪く言えば器用貧乏と言った、主人公にありがちな能力だったが……いや、称号が覇王になったことで若干攻撃型になっていたか。


 魔法は、火、雷、闇、幻……だったはず。まぁ、魔法は補助程度で武器戦闘がメインだが……正直、魔法はすげぇ使ってみたい。


 訓練所なら撃ち放題だし、楽しませてもらうか。


「リーンフェリア。相手をしてくれるか?色々やりたいことがある」


「……え!?は、はい!」


 何故か目を丸くしたリーンフェリアが声を裏返しながら返事をする。


「……な、何時頃伺えばよろしいでしょうか!?」


「ん?いや、今すぐだ。一緒に行くぞ」


「い、今すぐ!?一緒に!?」


 リーンフェリアが窓の外を凄い勢いで見る。


 何か窓の外にいただろうかと釣られてみて見るが……特に何も飛んでいる様子は無い。


「あらぁ……リーンフェリアだけなのぉ?」


 俺が窓の外を見ていると、カミラがリーンフェリアの隣に立ちながら話しかけてくる。


「ん?別にそう言うつもりは無いが……」


 ふむ……リーンフェリアだけでも事足りる気はするが、魔法のエキスパートであるカミラにも付き合ってもらった方が良いかもしれないな。


 そもそも魔法ってどうやって使ったらいいのか分らんし……。


「そうだな。カミラも来てくれるか?初めてだし、色々教えて貰いたい」


「ふぇ?!……あ、いや、えぇ、勿論いいわよぉ」


 何故か一瞬目をひん剥いたカミラだったが、少し得意げにしながら答える。


「ならば、行くとしよう。時間はいくらあっても足りないからな」


「そ、そんなになのですか!?」


「……私達の中のフェルズ様を越えていくって、そういうことなのかしら?」


 リーンフェリアが慌てふためき、カミラは何やら小声で呟く。


 俺は二人から視線を外し会議室の中に目を向ける。


 何故か全員が目を真ん丸にしてこちらを見ていて……変な空気だ。一体どうした?


「どうかしたのか?」


「い、いえ。何も問題はありませぬ。キリク、イルミット。打ち合わせを始めようぞ」


 アランドールが勢いよく首を振った後キリク達に声を掛ける。


 邪魔するのも悪いし、早く部屋を出た方が良さそうだな。


「そ、そうですね。えぇ……何故我が身は男なのでしょうか……」


「……うー」


 何やら落ち込んだ様子の二人がアランドールと打ち合わせを始めるが……大丈夫か?


「問題があればいつでも呼んでくれ」


「い、いえ!決してお邪魔はいたしませぬ!」


 先程と同じように、物凄く勢いよくアランドールが首を横に振る。見た目は相当渋い爺さんって感じだったのに……妙に余裕がなくなったな。変な設定とかつけてたっけ?


「う、うん?まぁ、遠慮はするなよ?リーンフェリア案内してくれ」


「は、はい!えっと……湯あみは……」


 湯あみって風呂だよな……良かった、風呂はあるのか。流石国産ゲーム。だが、入るなら訓練後だな。


「それは終わってからだな。今入ってもどうせ汚れるしな」


「「汚れる……」」


 神妙な顔をした二人が同時に呟く。何かおかしなことを言っただろうか?


「そ、それではフェルズ様。こちらへ」


「あぁ、よろしく頼む」


「はっ!全力で勤めさせていただきます!」


 妙に気合の入ったリーンフェリアに案内され、俺は訓練室へと向かった。


 その時、俺が出て行った会議室が俄かに騒がしくなったことに俺は気づかなかった。




「申し訳ございません!」


 訓練所に到着した直後、これ以上無いくらいに美しい土下座をしたリーンフェリアが謝罪の声を上げる。


「い、いや、気にしないでくれ。俺の言い方が悪かったんだ。訓練の事で頭がいっぱいでな?」


「はっ!ははぁ!」


 いや、ははぁって、俺は殿様か?あ、覇王だわ。


「頭をあげてくれリーンフェリア。それにカミラも、こっちに来てくれ」


 俺は訓練所の壁際で顔を抑えて蹲っているカミラにも声を掛ける。


 二人がこうなってしまっている理由は……説明するまでも無いだろう。


 ちょっとしたすれ違いから、俺は二人の女性を耳どころか、全身真っ赤になるくらい辱めてしまったという事だ。


 あれ?もしかして会議室を出る時空気がおかしかったのは……全員そう思っていたってことか?


 誤解を解いておかないとやばくない?覇王じゃなくて好色王とか呼ばれるようにならない?


 だが……どうすれば……む?もしかしたら……いけるか?


「ウルル……いるか?」


「……はい……ここに」


 本当におったわ!なんか忍者っぽいから呼んだら出て来るんじゃないかと思ったら……マジか……外務大臣ってすげぇ。


 って早く用を伝えないとな。


「アランドール……いや、さっき会議室に居た全員に、俺は訓練所で体を動かし……いや、待て」


 誤解を生む様な言い方は避けるべきだ。訓練所でいかがわしい事をやっているから誰も来るなと、そう言う命令ととられるのはマズい。


「俺達は訓練所で訓練をしているから、用事がある者や共に訓練をしたいものは来ると良い……と伝えて来てくれるか?」


「……承知しました……私も……いい?」


「あぁ、勿論だ。皆に伝えたら戻ってくると良い」


「……すぐに……もどる」


 ウルルは少しだけ口元を緩ませた後、俺の前から姿を消す。


 俺は手を伸ばしてウルルのいた辺りを掴もうとするが、やはり誰もいない……ほんと、どうやってるのかしら?


 まぁ、とりあえずこれで誤解は解けるだろう。後はこの二人を元に戻さねば……。


 そもそも、何か勘違いをされている事に気付いたのは移動中だ。


 俺のイメージでは訓練所は一階とかにある感じだった。背景絵も土の地面だったし……だから上に向かって行こうとするリーンフェリアに聞いたんだ。


 訓練所は何階にあるんだ?と。


 するとリーンフェリアが一階にあると答えた……だから俺は続けて聞いたんだ。


 訓練所は一階にあるのになぜ階段を登るのだ?と。


 すると、何故か色々と覚悟を決めた様な顔をした二人が、訓練所に案内してくれて……訓練所についてからそれぞれの認識に大きなずれがあったことが判明して、今に至る。


 ……そりゃね!?カミラのほうはちょっと確認しないといけないことがあるけど……二人とも超絶美人さんだからね!?この覇王フェルズ、疚しい気持ちがないとは言いませんよ!?夜の覇王プレイに興味が無いかと聞かれたら、それは否、断じて否ですよ!?


 だがしかし待って欲しい!我覇王フェルズなれど、中身は奥手なただのゲーマーよ?そしてリーンフェリア達は千年に一人のアイドルが裸足で逃げ出すような超絶美少女よ?


 言うなれば、俺はひのきの棒を装備した覇王様レベル1。そんな奴が艦載機満載した原子力空母に挑む様な物ですよ?ハードルが高すぎて下潜り抜けられるってもんですわ。


 それに、今は訳分らん状況一日目だし?いきなりそんなん出来る訳ないし?別にチキってねーし?我覇王だし?やるときはやれる子だし?


 だからリーンフェリアさん、カミラさん、訓練しましょう?


「リーンフェリア、カミラ。酷な事を言っている自覚はあるが聞いてくれ。俺の記憶が不確かなのは先ほども言ったが……それは戦いにおいても不安があるということだ。どんなことが出来るのか、身体は動くのか、魔法は使えるのか……そう言ったことを調べるためにここに来ている。それには二人の協力が必要だ。手を貸してくれ」


「は、はい!申し訳ありません!カミラ!」


「……分かったわよぅ。それで、何をすればいいのかしらぁ?」


 隅の方で丸くなっていたカミラが立ち上がりこちらに近づいてくる。


「そうだな……」


 魔法だな、まずは魔法だ。やっぱ魔法だろ?考えるまでも無く魔法だ。でも魔法の使い方が知りたいって……いや、臆するな。記憶がないで押し切れるだろ?


「……ま、魔法の使い方を教えてくれるか?」


 いかん、覇王的にどもるのは良くない。


「……えぇ、いいわよぉ。魔法の基本種類は分かるかしらぁ?」


「あぁ、アロー、ウォール、ストーム、エリア、それと属性専用だな?」


 レギオンズの属性は火、水、土、風、雷、氷、光、闇、聖、幻の全部で十属性。


 属性毎に五種類の魔法があり、火属性を例にするなら、単体攻撃魔法の、フレイムアロー。自分の前に炎の壁を作る防御系魔法、フレイムウォール。広範囲攻撃魔法の、フレイムストーム。戦争パート専用対軍魔法、フレイムエリア。火属性魔法のランクを最大値に上げた時に使用出来る属性専用魔法、白炎(びゃくえん)と言った感じだ。


 例外は回復魔法である聖属性と強化弱体魔法である幻属性で、この二属性だけは上記の五種類の他に色々な効果のある魔法が存在する。。


「それが分かっているなら十分よぉ。自分の使える属性と合わせてぇ、口で言うなり頭で思うなりすればぁ……魔力が残っていれば発動するわぁ。魔力のチャージについては大丈夫かしらぁ?」


「予め魔石を使い魔力をチャージしておく必要があることは分かっている」


「だが今回の場合、訓練所での魔法使用だから、魔力は気にしなくてもいいわけだ……」


 訓練所で能力をチェックするために魔石を消費するというのは、ゲーム的に避けたかったのだろう。キャラクターをエディットするゲームだし、訓練所でのキャラの使用感のチェックは必須だったからな。


 俺はそんなことを考えつつ、設置してある的に手を伸ばしフレイムアローと念じる。


 次の瞬間、炎で作られた矢が物凄い勢いで飛んで行き的に命中した。


 おおぅ……マジで魔法が出たぞ……やっべ、これ楽しい、超楽しい……キャラの育成って今も出来るのかな?俺、全属性使える様にしちゃおうかな?……いやいや、待て待て……そんなことしたら一億なんて秒ですっからかんだ……魔石を得る方法を見つけるまでは自重せねば……。


「完璧ねぇ。フェルズ様は四属性使いだったかしらぁ?凄いわねぇ」


 そんな風に葛藤していると、笑みを浮かべたカミラが満足気に話しかけて来る。


「十属性使えるカミラに言われてもな……だが、幻に関しては色々と応用が利く分練習が必要だな」


「そうねぇ。私は幻が一番好きだけどぉ」


 妖艶な笑みを浮かべながら言うカミラから視線を外し、リーンフェリアの方を見る。


「次は本番だな。俺のメインは剣だからな」


 俺は上がりまくったテンションを悟られない様に、スンとした表情で口を開く。


「あらぁ?魔法がついでみたいな言い方は気に入らないわねぇ」


「すまないなカミラ。だが、俺は物理寄りだからな」


 不満そうに唇を尖らせるカミラに謝り、俺はリーンフェリアが持って来てくれた木剣を受け取る。


「リーンフェリア。スキルの発動も魔法と同じか?」


「はい。フェルズ様でしたら剣技ですね」


 リーンフェリアが微笑みながら言う。


 スキルは武器毎にある技で、魔法と似た様な感じで単体攻撃、範囲攻撃、防御、遠距離攻撃、武器種専用技の五種類が存在する。


 武器の種類は剣、槍、斧、弓で、弓の場合は遠距離攻撃ではなく近距離攻撃の技になる。


 因みに、スキル使用時に消費するのは魔力ではなく体力なので、使い過ぎると死ぬ。まぁ、訓練所ならこちらも使い放題だが。


 俺は剣の単体攻撃技であるスラッシュを念じながら剣を振るう。


 ……魔法と違って発動できたのかよく分からん……。


 でも、俺が予定していたよりも鋭い一撃だった……気がする。


「スキルの発動も問題なさそうですね。これからどうされますか?」


 あ、発動出来てましたか、そうですか。


「じゃぁ、これからが本番だ。まずはリーンフェリア、一対一で模擬戦を頼みたい……体を慣らす意味も含めて指導的な感じで頼む」


 本気でやられたら多分死ぬしな……。


「承知いたしました……それでは、参ります!」


 さぁ……ここが一つの分水嶺だろう。俺は本当に動けるのか?それともゲーマー時代のままなのか?その結果は……すぐに分かる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る