そこに《探偵》が現れ、解決する。

月影澪央

花園

 学校の帰り道、俺は無意識に存在しないはずの森の中に迷い込んでいた。そして、その森の奥には花園が広がっていた。


「ここは……」


 この世界にこんな場所があるのかと思ってしまうほど綺麗な花園。

 そして、その中心には大きな樹が立っていた。


 俺は花園を進み、その樹を見上げる。


 まず、ここがどこなのかと思い、携帯の位置情報を見てみるが、まさかの圏外。帰り道は都会の中の都会に位置しているから圏外なんてありえない。本当にここはどこなんだ。


 花園を見回してみると、その中に埋もれるように何かが置かれていることに気付く。


 その場所にしゃがみ、花をかけ分けてみると、そこには一冊の本が落ちていた。


 題名はなく、白色の表紙には金色の装飾がされていて、少し汚れている。


「何でこんなところに……」


 そう呟きながら、その本の表紙をめくってみるが、そのページには何も書いておらず、真っ白だった。


 そう思った瞬間、そのページに、文字が浮かび上がってきた。


「えっ……」


 魔法のようなことが起こり、さすがに混乱してきた。だがとりあえず、その浮かび上がった文字を読んでみる。


「『この本を手に取った人は、この未来を変えてください』って……この未来って……? 未来を変えるって何だよ……」


 その一文だけじゃ、さっぱりわからなかった。


 もう一ページめくってみれば、何かわかるのかもしれない。

 ここで引いておけばいいものを、好奇心からもう一ページめくってみる。


 すると、同じようにそのページにも文字が浮かび上がってきた。


『〇月×日、夜。月光の館で、誰かが死ぬ』


「……物騒だな」


 二つの文を合わせて考えてみると、月光の館で誰かが死ぬというこの未来を変えろということになる。


 魔法のように文字が浮かび上がってきたことから、この本が普通ではないことは明白。となると、この本が『未来予知の本』だとしてもおかしくはないだろう。


 ただ、未来を予知する本に、これを変えろと書かれているのは変だとも思うが。それに、『死』という重大事象をそう簡単に変えられるとも思えない。


 だが、久しぶりに面白そうなことが起きている気がする。


 本を閉じて、樹の下に戻ろうとしたその瞬間、身体がまばゆい光に包まれ、思わず目をつぶってしまった。


 目を開くと、そこは自宅のベッドの上だった。


「夢……だったのか?」


 身体を起こしながらそう呟く。すると、机の上にあの本が置いてあった。


 ということは――


「夢じゃない」


 でも、あんなことが現実に起こり得るのか。俺はどうやって帰って来たのか。『不思議なこと』で片付けていい話なのか。


 本があるということは、あれは現実で、本に書いてあることは未来で、俺はその未来を変える――


「……面白い」


 こう考えるのは異常なのかもしれない。でも、それが俺――佐光さこう星樹ほしきという人物なのだ。



 この考えがあんなことに巻き込まれるなんて、この時は予想もしなかっただろう。危険に飛び込んでいるというのはわかっていたけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る