第33話⁂葵の真実!⁂



 葵は、6歳の誕生日を目前に控えたある日、姉と連れ立って公園に遊びに行ったのだが、帰り道で脇見運転の車に激突されて、顔や身体に負傷を負い大打撃を受けて、手の付けられない状態になってしまった。


 幾度となく懸命の治療を施すも元の姿に戻らず、更には運が悪い事に、もうすぐ小学生になると言うのに、こんな姿では嫌だと狂ったように延々と泣く葵。


 {自分が付いていながら醜い姿にさせてしまって申し訳ない}

 そう思った姉の夏美がとんでもない提案をした。


「そんなにイヤなら、何か被り物をして学校に通えば良いじゃないの?」


「……アッ!そうだ!僕ライオンになりたい!だって強いんだもん!」


 こうして酷い傷跡が残ったのだが、自分の憧れの百獣の王ライオンになれる喜びで一杯の葵に一安心の両親と姉。

 


 たまたま大手企業のお偉いさんだった父親のお陰で、普通のかつらでも結構値が張るのだが、本物のライオンと見間違うほどのライオンの着ぐるみを、大金をはたいて特注で注文して貰い大感激の葵。


 それでは葵の幼少期の一連の出来事を、美咲と直樹はどこから得ることが出来たのか?



 それは、実は直樹が消えた〔オオカミ怪人〕を探す為には、一緒に生活をしていた高名な医師の実態に迫る必要があると思い、コッソリ跡を付け狙っていた。


 東京大学医学部を卒業して、若干40歳でありながら形成外科の第一人者となった、文京区の大学病院で、研究と銘打って懸命に葵の治療に当たっていた高名な医師夏美を昼夜を問わず尾行し続けた。


 こうして分かって来た事が有る。

 椿辰也の妻を装って居たのは、何と実姉の夏美らしいという事が分かって来た。

 だが、若い夫婦だったのでは?


 それはどう言う事なのか?

 その事情はもう少し後で判明する事になる。



 ◆▽◆▽◆▽

 直樹の追撃で分かって来たのだが、実は葵は冷凍食品大手〔ヤマタニフ-ズ〕副社長、山谷浩二の愛人の息子なのだ。


 この副社長の浩二はまだ中堅企業だった〔ヤマタニフ-ズ〕を、ここまで盛り立ててくれた人物なのだ。


 製造畑の第一人者として冷凍食品の餃子やグラタンを、日本一の売り上げを誇る人気商品に導いた若きエ-ス。


 そんな実力と男ぶりの良い浩二を、我が愛娘光代の婿にと考えるのは至極当然の事。

 こうして社長に腕を見込まれ一人娘の婿養子となった。


 だが、とんでもない男だ。

 社長自ら見込んで、可愛いたった一人の愛娘光代の婿養子として向かい入れてやったのに、愛人を他所に囲っていたとは許しがたい事。

 全く恩を仇で返すとはこの事だ。



 そのような事情が有って、本妻に見付からない様に、影の存在としてひっそりと生活をしていた。

 只、勘の鋭い姉の夏美には知られてしまい、姉の夏美に懇願されて仕方なく愛人宅に、連れていく機会が度々あった。

 それにしても、普通は母から父を奪った愛人宅には、絶対に行きたくない筈なのだが?


「どうしても、もう一人の弟に会いたい!」

 そう懇願するので、姉弟同士仲が良いに越した事はないと思い、愛人宅に連れて行った。


 それと言うのも、夏美の弟で本妻光代の息子〔偽名・椿辰也〕は、幼少の頃は問題行動が多くて、優秀な夏美と大違いの落ち着きのない多動で夏美はうんざりしていた。


 だから……もう一人兄弟が欲しいと強く願っているが、出来そうにない。

 そんな時に弟がいる事が判明して、会いたくて居ても立っても居られなくなった。


 それはそうだろう。

 小さい頃から読書好きの天才少女に、多動の弟辰也の邪魔が入り読書どころではない。

「落ち着いて読書したいのに邪魔ばっかりするから、こんな弟要らない」と両親によくぼやいていた。



 そんな時に、読書好きで唯一の気の合う存在の父親が最近妙に変だ。

 家でくつろいでいるにも拘らず、ソワソワして目が泳いでいる。

 更には、昼夜を問わず出歩く父に、不信感を抱いていた。


 何故そんな事を見抜けたのか?

 それは弟辰也が多動なので、読書好きの趣味が一致する父親の休みを、指折り数えて待っていた。

 そして…父親と読書談議に花を咲かせたかったのに、折角の休日にも拘らず出歩く父親に不信を抱き…………?


 {これは何かあるに違いない?}


 こうして、推理小節をイヤと言う程読み漁っていた天才少女が、胡散臭い行動を度々起こしている父の行動にいち早く気付いた。


 

 仕事上の付き合い?、ギャンブル、投資『婿養子で肩身が狭いので隠し財産目的』、女、一体その実態は何?こんな子供がよくそんな事を思い付いたものだが……実はよく推理小説に出てくるキ-ワ-ド! 



 ★胡散臭い行動その1

 帰りが異様に遅い。

 仕事の付き合いと言っているが、怪しい?『副社長の婿は、製造部門の第一人者では有ったが、武骨で口下手だ。まったくラチが明かない。営業畑からの優秀な人転がしの専務がいるのに?付き合いは無いだろう』とは社長であるおじいちゃんの話。


 この話からも分かるように、仕事上の付き合いでは無い。



 ★胡散臭い行動その2

 たまに異様に良い香りがする。



 ★胡散臭い行動その3

 家に居ながら挙動不審の行動を度々目撃。

 ソワソワして目が泳いでいる等々。



 推理小説好きの夏美は、父の行動に不信を抱き、早速、推理探偵気取りで父の跡を付けた。

 そこで、ある一軒家に辿り着いた。


 だが、途中で父を見失い断念。

 だが、これに懲りる夏美ではない。


 推理小説かぶれの夏美は、尚更意欲満々で、難問にぶち当たれば当たる程どうしても解き明かしたくなった。

 こうして尚も付け狙って、その一軒家を張り込んだ。


 そしてとうとう尻尾を掴んだ。

 ある日の日曜日、父親をまたくも尾行すると、やはり同じ奥多摩駅近くの西多摩町の一軒家に消えて行った。


 いつもは、まだ小学校4年生なので、30分見張っているのが精いっぱいでソソクサと帰っていたのだが、この日は案外早く父が玄関先に姿を現した。


 そこには母光代より少し若いと思われる、何とも綺麗な女性と、何と辰也に瓜二つの坊やが、さも仲睦まじそうに現れた。


 {これは一体どういう事ヨ~?}


 ◆▽◆▽◆▽

 一方のお嬢さん育ちの、のんびりとした母の方は何も気付いていない様子。


 まるで腫れ物にでも触るように、大切に大切に育てられた、たった一人の愛娘。

 それはそれは真綿でくるむように、大切に育てられたお嬢様である母は、俗世にはとんと疎い女性。


 人を疑う等とんでもない話。

 完全に純粋培養された清らかな童女が、そのまんま大人になったような母なのだ。



 母と辰也には秘密にしている優秀な弟葵は、夏美にとっては今まで味わった事の無い大切な存在。

 同じ兄弟でも辰也とは大違いで、読書好き?と言ってもまだ5歳なので絵本好きの葵だが……もう字も読めるので話が合う。

 性格も趣味も一致する大切な存在となって行った。


 こうしてしょっちゅう愛人宅に入り浸ると、母や弟辰也にバレるので月一で父と一緒に連れ立って出掛けた。


 だが?その跡を……果敢に付け狙う人影が…………?

 

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