第27話⁂姐さんと愛人涼子⁂


 一卵性双生児という何とも運の悪い呪縛のせいで、気の毒な事に若干33歳で死刑執行となってしまった寺内琢磨?なのだが、この悲劇の兄弟翔と琢磨の元凶である、あの愛人涼子はいくら何でも、何故硫酸を翔に浴びせかける様なタワケた真似をしてしまったのか?



 そこには思いも寄らない真実が隠されている。

 この柳田組の実質上の権力者姐さんが、我が子の様にイヤそれ以上に思って可愛がっている翔に硫酸を掛ければ、只で済まないばかりか、もっとも恐ろしい憂き目にあう事は十分想像出来たのに、何故そんな浅はかな事をしたのか?


 それは言うに及ばない程の、姐さんの日頃の翔と徹に対する扱いの違いに憤慨しての事も有るのだが、頼みの綱である組長が全くと言って良いほど頼りにならないのもある。


 どうしてこのような不甲斐ない事態に陥ってしまったのか?


 それは組長にしてみれば、姉さんの機嫌を損ねる事は何よりも怖い事。

 こんな極道の身の上の自分が今更、裸一貫で放り出されたら、真っ先に反対勢力のヤクザに命を狙われる。

 

 そればかりか、姐さんに惚れて貰ったお陰で、若干役不足ではあったが、婿養子に入り組長にまで上り詰めることが出来た。



 実は…先代の組長は、本当はあの当時破竹の勢いで力を付けていた、柳田組の期待の星若干34歳の独身で優秀な、若頭との縁談に乗り気だった。


 だが、その時姐さんに強引に誘われる形で、既に付き合い出していた、イケメンで鼻っ柱の強い勢いのある、現組長に夢中の姉さんのごり押しで、現組長を婿養子として向かい入れる事になった。


 先代組長も、まだ海の物とも山の物ともつかない青二才に怒り心頭だったが、娘可愛さに泣く泣く承諾した。


 それは、若頭との縁談を強行的に進めていたのだが、現組長に夢中になった姐さんが思い詰めて、とんでもない行動に出たからである。

 

 あの当時一世を風靡した高倉健に、どことなく似ている風貌の現組長に夢中になり、3日3晩泣き通し食事もとらない徹底ぶり。


 更には「あんなブ男の若頭なんか絶対にイヤ!一郎(現組長)と一緒になれないのなら死んでヤル!」

 そう言って脅かすので、致し方なく婿として向かい入れた経緯がある。


 {若いながらも力は付けていた俺だが、若頭には到底及ばない。こんな俺が日本有数の柳田組長になれたのは、姐さんのお陰なのだ。それこそ柳田組長として想像も付かない著名人と付き合うことが出来て………肩を並べる事も出来た。また想像も付かない、こんな世界が有るのかと思う程の夢のような華やかな世界を、嫌と言うほど味わうことが出来た………幾ら愛人が可愛いからと言っても………替えは幾らでもいる………13歳も年上の姐さんで………魅力の欠片もない女だが…極道としての手腕は相当なものが有るし………それより何より、預貯金や組の人望全て握っている姐さんを失う事は、死ねと言う事と一緒………だから……姐さんに逆らう事など出来ない}


 只、姐さんは、子宮がんの手術をしているので、痛いと言ってセックスはしたがらない。

 そこで女遊びには寛容になって居る。

 それは自分の不甲斐なさに申し訳なく思っての事なのだ。


 だが、本質的には夫の組長に惚れているので、必要以上に深入りする女は、悲惨な末路を辿っていた。


 それはそうだろう。

 ク-ルで苦み走ったすらりと伸びた長い足、身長180㎝の何とも良い男。

 

 当然このプライドの高い涼子も、20歳ほどの年の違いも何のその、出来る事なら本妻として君臨したいと頓に願っている。


 こんな現状化、危機感を募らせた姐さんは、とうとう堪忍袋の緒が切れた。


 組長が、愛人涼子に熱を上げ過ぎた結果、姐さんの逆鱗に触れて、愛人涼子と息子徹は、最終的には九州地方に追いやられる羽目になった。


 涼子は取り分け出世欲の強い女、こんな目に合わされて黙ってはおれない。


 それはどういう事かと言うと、柳田組長が美しくて優秀な涼子をものにする為に、実態を詳しく話していなかったことが災いしている。


 この美しくて優秀な涼子に夢中になった柳田組長は、大ボラを吹きまくって何とか涼子をものにしたい。


 そんな事情があり、本当の内情は姐さんに尻に敷かれっぱなしの、姐さんの奴隷的存在である事を一切封印して、俺に付いてくれさえすれば何でも思い通りになるという風に、美味しい話で丸め込んだ。


 涼子にすれば、まだまだ先の長い40代中盤の無職の母を支えて行く為にも、どんな事をしてもお金が必要なのだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 この涼子は有名国立大学を卒業した、プライドの高い女性なのだが、クラブのホステスをしていた母親と建設会社社長の間に生まれた非摘出子。


 愛人の子ではあるが、父親が中堅企業の社長で就職も難なくクリア出来る思いきや、バブル崩壊で父親の会社は倒産。


 何とも運の悪い事に就職氷河期到来で、1993年~2005年卒業までの時期に就職に差し掛かった世代の涼子は、借金だらけの父親の後ろ盾を完全に失い、クラブも相次いで潰れ無職の母親と2人生きて行くために、母と同じ世界に足を踏み入れる他なくなってしまった。


 例え裏社会と言えども、今の自分が生きて行ける世界は、母と同じ水商売で生きて行くしかない

 そんな時に、この裏社会を牛耳っている日本最大級の組長に見初められ、姐さんは居るには居るが『ウマヅメ』


 柳田組長の愛人を足掛かりに、この渋みを増した組長をどんな事をしても自分のものにして、組長と実質上の夫婦として表舞台に躍り出ようと、目論んでいる。


 {その為にも組長の本拠地を私の元にしないと!な~んか~?顔を合わせた事が有るけど~?大人しそうな箱入りおばさんって感じ?どうせお嬢様育ちでおっとりした人だから……それから…もう60代の『ウマヅメ』の姐さんなんか相手にならない!跡取り息子の徹も誕生した事だし、完全にお役御免のおばさん。あんなおばさんに何が出来るのよ?}

 完全に姐さんを舐め切っている涼子なのだが………。


 こうして組長に豪邸建築をお願いして、東京の愛人涼子宅であり組長の拠点となった。


 だが、これに異を唱えたのは誰有ろう姐さん。

 優秀でイケメンの翔を盾に、あの出しゃばり女を徹底的に窮地に陥れた。


 こうしてあの恐ろしい硫酸事件が勃発してしまった。

 涼子がもう少し姐さんの本性を知っていれば、あのような恐ろしい事件は起こっていなかっただろう。


 愛する涼子を失いたくないばかりに、豪邸をプレゼントして涼子邸に住み着いてしまった柳田組長。


 そして…一方姐さんには翔を任せて茨木の本宅を守らせ、ご機嫌伺いをして両方に良い顔をした結果姐さんの逆鱗に触れた。


 こうして翔を後見人然として、表舞台に立たせる形を取った姐さんは、タカが愛人如きに度を過ぎた寵愛ぶりの柳田組長に、組の存続を危ぶみ、あの憎き愛人涼子と出来の悪い徹を九州地方に追い出した。

 

 それに徹底的に応戦した涼子だが、結果的に愛する組長までが、まるで手のひらを返すように姐さんに付いた事に、完全にブチ切れた。


「あんなブスで、私の母よりも年上のおばさんに加担するなんて、徹を捨てても良いの————ッ!」

 

 身包み剝がされた涼子は、金銭的な援助も息子の養育費のみの雀の涙程で、何も出来ない母を残して、九州地方に旅立たなければならないこの身の上に悲観して、恨み百倍で、カ-————ッ!となり九州地方に旅立つ前日の夜に、薬局で手に入れた硫酸を翔目掛けてぶっ掛けた。


 一方の姐さんの方だが、それは何も嫉妬心からだけではない。

 あんな気の弱い、全てにおいて過保護に育った出来の悪い徹では、行く末が思いやられるからである。


 それは、やはり翔は他人のそれも義母の嫉妬心とやっかみの中で、冷遇されて育った分人間的にも徹とは雲泥の差、おまけに超美男子。


 組の存続を何よりも考えた結果の苦渋の決断と、大切なやっと授かったも同然の、イヤそれ以上の宝息子翔と愛する男組長を、失いたくない強い気持ちが生み出した結果なのだ。


「あの出しゃばり女!大切な翔をこんなカタワにしおって!殺せ————ッ!」

 

 こうして虫けら同然に鉄砲で撃ち殺されて、人里離れた山奥に埋められた。























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