第22話⁂翔の行く末!⁂



 実質上の権力者でもあり、裏の権力者でもある本妻さんであり姐さんは、夫を奪った愛人たちの子供に、跡目を譲りたくないと意固地になって居たのだが、里美の息子翔はどういう訳か、そんな垣根を取っ払い姐さんを『ママ!ママ!』と言って甘えて来る。


 {もう子供なんて夢のまた夢と思って諦めていた私に………ましてや里美も居なくなった今、上手く行けば自分が待ち望んでいた親子関係を、築く事だって夢じゃない……こんな夢のような出来事が起きるなんて!あぁ~!夢のようだわ!}

 

 姐さんは、母親になる事なんて夢のまた夢と、すっかり諦めていたのに、こんな夢のような出来事が起こって、すっかり舞い上がっている。

 翔が可愛くて可愛くて仕方がない。


 こうして翔は、実質上の権力者でもあり、裏の権力者でもある姐さんの寵愛を一身に浴びて成長した。

 また、それに輪をかけたように、組長も翔に全幅の信頼を寄せている。


 一方の若い愛人涼子は面白くない。

「もう完全に包囲網が出来てしまい、私の可愛い息子徹の出る幕など、どこにも無い。あんなジジイの組長に身も心も捧げて来たのに……これでは只の体のいいお手伝いさんじゃなの………バカにしないでよ!」


 涼子は憤慨しきり。

 どうしたら良いものか?思案に明け暮れている。

 

 {こんな裏社会に足を突っ込んでしまい、今更徹を連れてどこに行けよう?水商売しかした事の無い、ましてや日本有数の組長の実質上の妻と言っても過言ではない扱いを受けて、甘い汁を嫌と言う程吸って来た私が、今更人にこき使われるなんて出来ない。それから今更堅気に戻ってどうやって生きて行けるの………また、何より怖いのは、柳田から手を引いたら、シノギの世界の悪事を嫌と言う程見聞きしているので、いつ口封じで殺されるかもしれない?………あぁ~!あの憎き翔さえ居なくなればどんなに幸せか!}


 涼子は我が息子徹を、何としても次期組長にしなくては!と思えば思う程、着地点が見付からない歯がゆさで、イライラが募り最近では夜もろくに眠ることが出来ない程、追い込まれている。


 それだけ日本のトップクラスのヤクザの組長になるという事は、美味しい思いに有り付けるという事なのだろう。


 {里美が居なくなり、いよいよ自分達が日の目を見る事が出来ると喜んでいたのも束の間、あの要領の良い翔のせいでとんだ冷や飯を食わされる羽目になった}


 涼子は悶々とした日々を送っている。

 そんなある日の夕食時に事件は起きる。

 

 思考回路が狂い、まっとうな判断も付かなくなった涼子。


 何故そこまで追い込まれたのかと言うと、今までは裏に引っ込んでいた姐さんが、最近では水を得た魚のように表舞台に躍り出て、涼子と息子徹をないがしろにしている。


 今までは息子の徹が柳田組の食事会の席でも、組長である父親の横である上座に鎮座していたのに、今は打って変わって組長の横に翔、その横に姐さんが堂々と席についている。

 そして可哀想な事に息子の徹は一番末端の席に追いやられ、涼子は食事の接待に就かされている。


 こんな待遇が続いたある日、とうとう耐えられなくなった涼子はとんでもない事を仕出かしてしまった。


 腹に据えかねた涼子は、夕食時の翔が食事を取って油断している隙に横に行き、この日の為に買っておいた硫酸を顔目掛けてぶっ掛けた。


「ギャアアア————————————ッ!」


 あれだけ美しかった翔は、誰もが目を負いたくなるほどの、醜い化け物のようになってしまった。


 この事件を知った姐さんは、怒り狂っている。

「ナッ何を————ッ!大切なやっと出来た大切な息子翔を、こんなカタワにしてくれた。ああああ!許せない!あの女涼子と徹を撃ち殺しちまいな————ッ!」


 ”バンバン バンバン バン バン バン”


 涼子と徹は、本妻である姐さんの命令で組員にピストルで撃ち殺され、人里離れた山奥に埋められた。


 一方の翔は顔半分がただれて、それはそれは酷い状態。

 あの美しかった面影はどこにも無い。

 只の醜いお化けと化してしまった。


 整形手術も施すが目が片方潰れてしまい、外に出れたものではない。

 あんなに明るかった翔は部屋に籠り、引き籠りになってしまった。


 姐さんも、翔に必死に愛情を注いでいたのだが、学校も不登校になり、引き籠りの

醜い息子に困り果てて居る。


 又以前のように「ママ ママ」とでも言って欲しいのだが、暗い表情で塞ぎ込んでいる有様。

 姐さんにしても限界がある。

『なだめても、すかかしても、立ち直ってくれない』


 そんな時に運の悪い事に、別の愛人に子供が出来た。

 その愛人はどういう訳か、姐さんに従順で、姐さんを立てまくり付いて回ってくれる。

 自ずとその赤ちゃんと接する機会も増えて行く。

 いつの間にかその赤ちゃんにすっかりぞっこんな姐さん。


 そんな事情もあり、今まであんなに可愛がっていた翔が、段々煩わしくなって来た。


 また、お気に入りの愛人が陰口を叩くのも有るのだが————


「姐さん、あんな子が居たら、坊やが危険にさらされそうで………チョット目付きが異常な気がするんですけど?」


 まぁ~?それは普通には見えないのは分かるが、顔がただれて引きつるので余計に気味悪い、異常者に映っているのかも知れない。


 姐さんも所詮可愛いと言ってはみたものの他人の子。

 坊やも最近はスッカリ懐いてくれているので、この子を守る為にも不気味な醜い翔が、何を仕出かすか心配で施設に預けてしまった。


「あんな気味悪い子は追い出しておしまい!」


「オイ!何もそんな事しなくったって~?可哀想に………」


 組長の言葉も聞き入れず施設送りとなった。


 こうして施設での辛い思いと、諸々の事情が重なって残虐な犯罪者になって行く。



【硫酸入手方法*塩酸、硫酸は、劇物の取扱い許可のある薬局や理化学機器販売小売店などで購入可能。購入の際は、必要事項(住所、氏名など)を記入し、捺印した譲受書の提出が必要】



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