第13話 いつもの二人のちょっとした変化

 恋人デート。

 と、澤留さわるにお願いされたはいいが、竹千代たけちよは困っていた。

 澤留とデートすることは別にいい。拒否する理由はない。

 ただ、デートなんて生まれてこのかたしたことがないので、竹千代は大いに困っていた。

 相手を喜ばせる場所だとか、気の利いたお店だとか、洒落たデートプランがてんで思いつかない。ネットで調べてみたが、そもそも澤留は男なので女子が気にいりそうな場所で探すのは違う気もする。


 澤留と遊ぶとき、基本竹千代は待ちの姿勢だ。

 澤留にふりまわされるのが好きなので、自分から遊びを提案することが少なかった。

 悩んでも悩んでも思いつかず、結局、本人に探りをいれることにした。


 お昼をすぎたファミリーレストラン。

 人がまばらになった店内で、竹千代はフライドポテトをつまみながら、澤留と一緒にスマホの非対称対戦型ゲーム「第10人格」のマルチプレイで遊んでいた。

 ゲームに集中している澤留に、竹千代はそれとなく聞く。


「なあ澤留。次はなにをして遊ぶ? ……たとえばさ、遠出で行きたいところとかないか?」

「それってデート先?」


 あっさりと看過され、竹千代は操作ミスをした。

 その隙を狙われて、竹千代のプレイキャラが澤留のプレイキャラにおそわれる。


「……デート先だ」

「たけちーが考えてくれた場所がいいなー」


 澤留のプレイキャラが、竹千代のプレイキャラをひきずりまわしていた。


「…………………水族館、とか」 

「水族館?」

「デ、デートっぽくないか? ……いやデートなんてしたことねーけどさ」

「たけちー的にはそうなの?」

「もしデートするとしたら、二人でゆっくりした時間を共有できる場所なのかなって。そのほうが恋人っぽいだろ?」


 澤留が激しくプレイミスをしたので、竹千代はその隙にプレイキャラを逃走させた。

 澤留と遠出でするなら、もっと一緒にワクワクできる場所だと思う。

 でも友だちとして好きなのか、恋人として好きになりたいのかをハッキリとさせるためには、一番恋人らしい場所を竹千代なりに考えていた。


「……良いよ。水族館。僕がたけちーの初デートを奪ってあげる」

「またそんなことを言う」


 今はスマホの画面を見ているのでわからないが、きっと澤留はニマニマ笑っているのだろうと竹千代は思った。


「……僕が初デート相手じゃイヤ?」

「全然イヤじゃないよ」


 イヤじゃないのはたしかなので正直に言った。

 言ったはいいが、竹千代はなんだか恥ずかしくなり、操作中の指をすべらせる。澤留も同じように指をすべらせていた。

 お互いにプレイミスをした。


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