正解
それから何日かして樹から【別れないことになりました】という連絡が来た。勿論文面上は祝福の言葉で返したけれど、内心は羨ましくて仕方がない。
金田には新たにメッセージを送ったりはしていない。どう動くのが正解かわからなくなってしまったから。
そうたは心配しているのか、時々私の家に来てくれる。相変わらず優しい。くれる言葉も触れる手も。
あんなに暑かったのに、夏らしいことは1つもしないままに季節は移り変わる。金田とはもう4ヶ月会っていない。いつの間にか、9月の下旬になっていた。
自分ではそんなことすっかり忘れていた。だってよくケーキに例えられたりもするから、これ以上数えたくはない。
9/25 10:08
金田:
久しぶり。元気にしてるか?
まだ先のことだけど、11月2日は会うか?
今からなら確実に何も予定を入れないように出来そうだから連絡した。
でも、これからもあんまり会えないと思う。それも含めて考えて返事をくれたら嬉しい。
11月2日。それは杏梨の誕生日だ。覚えてくれているなんて思わなかった。何度も文面を読み返す。金田が聞きたいのは、1ヶ月先でも金田の事が好きかどうか、今後も会えないけどそれでもいいのかどうかだ。
まだ金田が好き? ――うん、好きだ。とても会いたい。
会えなくても好き? ――うん、好きだ。とても寂しいけど。
これからも会えなくてもずっと好き?
……わからない。
先の予定はわからない。自分の気持ちがどう変わるかも。
肌を合わせていたら、最近そうたへの情が増してきた。彼とのセックスはとても気持ちが良くて、昔と変わらない温もりに安心する。最初に感じた悲しさではなく、最近は嬉しさの方が大きくなった。
そうたのことが好きになるのも時間の問題かもしれない。たとえそうたがあいりちゃんを好きでも、彼女は他の人のものだから。
返事は直ぐには返せなかった。悩んでいたから。会いたいのは本音だったが、それ以上にこの寂しさをずっと抱えて生きていく自信がなくて。
数日ずっと見ていたスマホに、ぽんっと嬉しいメッセージが降ってきて、それが杏梨の背中を押した。
持つべきものは、樹のようにやっぱり同姓の友達なのかもしれない。
9/28 20:10
仁美:
この間はタイのお土産ありがとね。美味しかったよ。新しい髪型も服装も杏梨に似合ってた!
この間相談してたやつ、実はいきなり決まりました。式は学校が落ち着く3月位かなと思います。来てくれるかな? 返事待ってるね。
すぐ返信した。行かない理由なんてない。むしろ行きたい。最大限の祝福の言葉と共に心を込めてメッセージを書いた。
仁美の出した答えが杏梨の背中を押した。金田にもメッセージを送った。もう迷いはない。
『YES』
どちらのメッセージも返事はそれしかない。それが正解だ。
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