誰にも言えない② 6月2日②

「えっ、何でですか? 」

 明らかに杏梨が動揺したのを見て、ケイは高らかに笑った。


「一人旅とかしなそうなタイプなのに、1人でいるし。恐い目にあったのに、俺を誘ってのこのこついて来るし。かなりチョロいから寂しいのかなと思って」

「なっ! 」


 失礼な物言いなのに、全部当たっていて反論できない。彼が如何にもお近づきになりたくない雰囲気だったら、「お礼を」何て言わなかっただろう。少なからず魅力を感じたのだ。異国の地で助けてくれたこのイケメンに。


「どうせいらない男ばっかり寄ってきて、ほんとに好きな男には捨てられたんだろ?

 俺が教えてやろうか?男を虜にする方法」


 意地悪に笑う男の顔は確かに魅力的で、その言い方から自分に自信があるのがわかる。嘘でも過信でもなく、この男はモテるであろう。この人についていけば大丈夫。といったリーダー的カリスマ性のようなものが滲み出ているのだ。


「私の何がダメか教えてくれますか? 」

 杏梨は駆け引きをするような気持ちで自分のカードを出した。けれど今の自分には、正直何も出せるものがない。


「それなりに面白い話を聞かせてくれればね。で、何で振られたの? 」


 明らかに面白がっているこの男に、杏梨は金田とそうたのことを話し始めた。


 何とか変わりたくて。その力がこの人にはある気がして。


 ◇◇◇


「んー、なるほどね。馬鹿なことやってんね、あんたら。もっとシンプルに考えたらいいのにね」


 杏梨がタイに来たところまで話すと、それまで黙って聞いていたケイはそう言って立ち上がった。


「ずっとここで話してると店の迷惑だから、場所変えよう。俺のアドバイスはその後で」


 しまった。嵌められた。


 そう思ったときにはもう遅かった。量と味に対してかなり安かった店を出て、杏梨はケイの後をついていくしかない。

 ここまで話しておいて、何も利益がないのは悔しくて。その一方でこのままついて行ったら、自分がどうなってしまうのか杏梨はどきどきした。開けてはいけないパンドラの箱。あとを追い掛けない選択肢もあったのに、杏梨はそれを選ばなかった。


「へー、またついてきたんだ。無謀だねーあんた」

 ドアの前で立ち止まって、後ろを振り返ったケイは杏梨を見て笑う。


「アドバイス、くれるんですよね? 」

「まぁねー、どーぞっ」


 ケイが開いたドアの中に杏梨はゆっくりと消えて行った。

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