付き合うきっかけ


 杏梨の彼氏の金田は弁護士だ。

 35歳、長身でスーツが似合う。二重で実年齢より若く見える。あまり感情を出さないので何を考えているかわからない。


 仕事関係の飲み会で、杏梨がイカが好きと話していたら、「美味しいイカ料理店あるよ」と声をかけてくれて連絡先を交換した。


 付き合うきっかけはよくわからない。


 食事には連れて行ってくれる金田だったが特に何もしてこなかった。


 手も繋いでこないし、口説いてもこない。連絡もほぼこない。電話なんて皆無。


 でも、いつも高そうなレストランに連れて行ってくれる。話の流れで次に行くお店が毎回決まるような感じだ。


 話す内容は本当に世間話。内容は面白くも何ともない。

 ただ、たまに杏梨を見つめる視線がどうしようもなく熱いものな気がして、あんりは金田といるとどきどきしっぱなしだった。


 褒められたり、口説かれたり、熱い視線を向けられたり、男性の好意の矢はわかりやすい。


 でもなんだか金田は違うのだ。


 会話が続かないのに、沈黙が苦痛じゃない。

 ただ、一緒にいるだけで嬉しかったし、何も褒めてくれないのに着飾って出掛けてしまう。


 こんなの初めて。金田さんはどうして私といるのかな?どう思ってるんだろう。

 何で毎回次の約束をするんだろう?


 金田と4回目の食事で、杏梨はこの関係に堪えられなくなり意を決して金田に聞いた。


「あの、金田さんっ、聞きたいことが……」

「なに?」


「何でも正直に答えてくれますか? 」

 心臓がどきどきして壊れそうだ。


「ふっ……いや、質問によるよ」

 少しはにかんだ金田が可愛い。


「……えっと、金田さんにとって、私って何ですか? 」


 言っちゃったーーー! なに、なに、なに、やっぱりただの食事のお共? 友達? 知人? なに?


「……えっ、うーん」


 金田は杏梨の目をじっと見て問いかけた。

「なにでありたいの?」


 心臓が止まりそうだった。


「……っ! えっと、彼女です! 」

 つい言ってしまった。なりたいかもまだわからかったのに、気づいたら顔を真っ赤にしてそう言っていた。

 手汗がひどい。


 金田の口元が緩んだ、気がした。


「……じゃあ、彼女ね」


 こうして、その日から杏梨は金田の彼女になったのだ。

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