【R-15】寂しい夜には抱き締められたい 4月24日

 今は日曜日の21時。

 杏梨は金田からの連絡を待っていた。

 土日の休み丸2日そわそわしながら待っていた。何度も何度もスマホを確認してしまう。


 男作ります宣言のメッセージを送ってから、とっくの昔に既読はついたが返信は相変わらずなしだ。


 もうあれから1週間以上経つ。


 元々金田は連絡がまめな方ではない。いつも杏梨の方からメッセージを送り、それに金田が塩対応な返事をするのが常。


 でも、今回だけは杏梨は自分からメッセージを送りたくなかった。


 私のことなんてどうでもいいみたいじゃない。

 彼女が他に男作る宣言して、そのあと土日の休みがあって、平日が過ぎて、もう土日が終わりかけてるのに何で連絡来ないの?

 誰と何してるか気にならないの?!


 今まで杏梨の休みの土日に会うことが多かった。先週はほんの少ししか会えなかったので、今週末は絶対に連絡もしくは会う機会を作ってくれると思っていた。


 少しは嫉妬してくれるのか、怒るのか、とりあえず何かしら反応してくれるものだと思っていたのに、その期待は粉々に砕かれる。


 やっぱり私のことはどうでもいいのか……。


 鳴らないスマホを握り絞めながら、杏梨はぼろぼろと涙をこぼした。


 せっかく、そうたに先週慰めてもらったのに、私やっぱりだめだなぁ……。


 寂しい寂しい寂しい寂しい……


 すがるような思いで杏梨は電話をかける。


 ぷるる……


「っもしもしっ? 」コール音がしてからすぐにそうたは出てくれた。


「もし……もし、そうたっひっく……」


「えっ? あっ、あい……杏梨? 」


 電話口のそうたの声は少し驚いていたが、名前を呼ぶその声はいつも通り優しい。


「杏梨、どしたー? 大丈夫? 」


「っひっく、んぐっ、さびし……い」


「寂し? そっか、俺家いこうか?」


「っひっく、ひっく、そばにいて? 」


「ん、わかった。ごめんけど、ちょっと待っててな、着替えたら急いでいくから。なんか欲しいものある? 」


「んん……、大丈夫」


「はーい、んじゃ待っててな。今日ちょっと冷えるからあったかくしといてな」


 すぐ行くからーと柔らかい声はぷつんと途切れた。


 ソファーにTシャツとショートパンツで横になっていた杏梨は、言われた通りタオルケットを持って来てくるまった。

 止めどなく溢れていた涙は、最後に拭ってから少し渇きはじめていた。


 そうたが杏梨の家に着いたのは、電話が切れてから約15分後。


 そうたと杏梨の家は徒歩10分位の距離で、玄関先に現れたそうたは、パーカーにデニム姿で少し息を切らしていた。


「杏梨、大丈夫? 杏梨の好きな杏仁豆腐買ってきたよ。好きなときお食べー」


 そうたの笑顔は少し疲れているように見えた。


「そうた、ありがと。私の好きなの覚えてたの?走って来た? っていうか、そうたこそ大丈夫? なんかひどい顔色だよ?

……なんかあった?彼女さん?」


 そうたは気まずそうに杏梨から目を背ける。


「心配で急いだわ。んで、んーっとまぁ……ははっ、寂しかったのは俺もってことだよ!」


 少し強がっているような顔が、今にも泣きそうに見えて、杏梨はそうたに抱きついた。


「そうた、来てくれてありがとう、嬉しい」


 思いを伝えるようにぎゅーっと抱き締める。


「あの……杏梨、ブラしてなくない?胸がめっちゃ当たる」


 少し嬉しそうなそうたを見上げて、さらにぎゅーと抱き締める。


「わざとだよっ!」


 杏仁豆腐は明日の活力にするーと言って、大事に冷蔵庫に入れる。


 そういえば、すっぴんでノーブラで適当な部屋着って女としてやばいかな?


 ソファーの隣に座るそうたの顔をじっと見つめる。


 今さら、今からメイクしたり、着替えたりはすごく恥ずかしい。

 そうたと付き合ってるときもすっぴんになったことはあったけど、極力見せないようにしてきた。彼のすっぴんに対する反応は正直わからない。


 やばいかな……この格好。ドン引きする?幻滅する?


 どきどきしていると、そうたもじっと杏梨の顔を見つめ返してくる。


「っん、えっえっと、あのすっぴんでごめんね!あの……」


「杏梨、ずっと泣いてた? 目が赤い。

 すっぴん? あーだからいつもより幼い感じで可愛いの? 謝ることないよ、よしよし」


 思わず顔を隠した杏梨の頭をそうたはそっと撫でた。


「メイクしてる杏梨も美人さんで好きだけど、俺はメイクしてても、してなくてもどっちも可愛いと思ってるよ。

 っていうか、こんなにも寂しがり屋さんで、泣き虫で甘えっ子が可愛くないわけないでしょ。

 して欲しいこと教えて? 何でもしてあげる。アイスいっぱい食べたの?甘いの好きだもんね。寂しかったね」


 ぽんぽんと頭を撫でてくれる。

 テーブルの上には土日の間に杏梨が食べたカップアイスやお菓子の残骸がそのままになっていた。


 そうたに何で寂しいか具体的には何も言ってないけれど、彼はきっと何もかもお見通しだろう。


 杏梨はそうたに再度抱きついた。


「ぎゅーして、ちゅーして? 」

「うん」

 そうたは杏梨を優しく抱き締め、目尻や頬、首筋にキスをした。


「ちゃんとしたちゅーして? 」

 杏梨の唇にそうたの唇が重なり、優しくそうたの舌が杏梨のそれに触れた。そのまま、深く口づけを交わす。


 杏梨の舌がそうたの舌を吸い、2人はさらに深く口づけを交わした。


 そのまま、どのくらい舌を絡ませあっただろうか。慰めあうような、見えない愛を探すようなキスだった。


 少し弾んだ息づかいで、杏梨はそうたの耳元でお願いを囁いた。


「全部忘れて、そのまま寝ちゃうくらい、昔みたいに気持ちよくして?」


 そうたはキスで返事をして、杏梨の身体を抱き上げる。ベットに優しく杏梨を寝かせて、そうたは口を開いた。


「杏梨がして欲しくないことは絶対にしない。気持ち良くだけする。そのまま寝ちゃえるように電気消すね。無理に話さなくていいし、なんなら彼氏だと思っててもいいから。

 ただ、気持ち良くなってくれたらいいから」



「……わかった。そうたにされて嫌なことなんて何にもないよ」


 部屋がふっと暗くなる。

 優しく脱がされた服は邪魔にならないように畳んでくれているようだった。


 そうた、優しい。


 そうたの探るような手が杏梨の顔が触れるのを感じると、そのまま優しくキスされた。


 耳を舐められ、胸を優しく揉まれる。


 そうたが時間をかけてゆっくり優しく杏梨を高みに導いたあと、杏梨はゆっくり心地よい眠りに落ちていった。


 ◇◇◇


 ピピピピピピ……


 杏梨がアラーム音に目を覚ますと、そうたはもういなかった。


 テーブルの上にメモが置いてある。


【先に出ます。鍵わかんなかったから、起きたら玄関閉めて下さい。あと、杏梨が可愛くて胸に跡つけてごめん。

 またいつでも遠慮せずに連絡してな】


 胸元を確認すると左胸にキスマークが1個ついていた。


 独占欲みたいでかえってちょっと嬉しい。一人じゃない気がするし。


 金田はこんなことしてくれない。


 朝御飯と杏仁豆腐食べて、仕事頑張ろーっと

 顔を洗いに洗面所に向かう杏梨の足取りは軽くなっていた。

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