第6話「嵐の前の夜」

 Side 木之元 セイ


 第1201小隊の基地。


 元学校の屋上。


 フェンスの変わりに適当なバリケードを置いただけの場所。


 そこでセイはサクラギの町を眺める。


 乏しい光ながら人の営みを感じられる。


 空を見上げればとても綺麗々が見えた。


 セイの体感時間では核兵器が地上を焼き払ったのは遂先日の出来事。


 まるでタイムシンに乗ったか、浦島太郎とかそう言う表現が似合う心境だった。


 それでも夕食は想像以上に豪勢だった。


 正直ネズミの肉とかそれ以上のヤバイのを食べる覚悟をしていたが、運ばれた食事はコーンスープとかパンだ。

 流石に飲み物はジュースではなくて綺麗な水だがそれは贅沢と言う物だろう。


 本当に復興できたんだなと嬉しく思う。


「休憩中だったかしら?」


長い金髪の軍人らしからぬ女性がやってきた。

 この基地の隊長であるサオトメ アンリ。

 軍服姿で戦闘待機中だ。

 他にも屋上の入り口に複数気配が感じられるがセイはあえて言及しないでおいた。


「ええ、まあ――」


「私も――息抜きにここに来たのよ。実戦なんて久しぶりだから」


「実戦経験あるんですか?」


「今は落ち着いているけどヒノモトも平和ってワケじゃないから。サバイバルもした事もあるの」


「そうですか」


 この話はあまりしない方がいいように思えたのでセイは強引にでも話を変える。

 

「この町、想像以上に綺麗ですね――」


「コールドスリープ――肉体が冷凍保存されてずっと眠っていたって話だったけど、そうなる前はここはどうだったの?」


「最後に観た時は少なくとも今より酷かったです」


「そう・・・・・・なの・・・・・・」


 セイは嘘はついてない。


 あの当時、この町は激戦区の一つだったからだ。

 戦いの余波で無事な建物なんてほぼないだろう。

 そこら中に死体が転がって地獄絵図になっていた筈だ。

 さらに核爆発による衝撃や放射線、放射能汚染が加わった事を考えればもっと酷い。


 仲間達が最初にみた時、今目の前にある地獄と本物の地獄、どちらがマシか比較したことだろう。


「それでも――仲間達は生きたんだ――そして第一歩を進んで見せたんだ」


 証拠はない。

 だが確信はある。

 あの大戦を息抜き、核爆発も核シェルターまで逃げ込んで図太くしぶとく生き延びた仲間達なら絶対この世界で生き抜ける――いや、意地でも生き抜いて見せたのだろうから。

 

「だから何度でも言います。この町が、仲間達の生きた証の一つなら僕は守りたい」


「そう――」


「パワーローダーの準備は出来ています。整備も万全です。武器弾薬や整備の問題などもありますが――今は戦闘の備えが杞憂に終わることを祈りましょう」


 セイはそう願わずにはいられなかった。

 

 だが戦わなければならないのだろう。


 核兵器を乗り越えたこの世界でも。


 その現実を哲学者だとか歴史学者は愚かだと言うのかもしれないが――それでも黙って戦わずに殺されるのを静観するつもりはない。



 夜盗の襲撃があったので早いうちに――例え夜であってもパワーローダーを自警団に引き渡し、軽いレクチャーを行う。


 何度も言うがガードナーは拠点防衛型のパワーローダーで今回の守る戦いには向いているがそれでも工夫が必要な側面の弱点を抱えており、それを教え込まなければならない。

 

 自警団はおそるおそると言った感じでパワーローダーに乗り込んでいき、セイの乗る月光とAIに興味津々ながら熱心に動かし方などを学んでいく。


 第1201小隊も人数が少ないが戦闘するためにパワーローダーや戦闘指揮車両を持ち込んで銃器を持っているがカレンとアンリ以外の三人はどうも頼りなく感じる。


「ワシはこの町の自警団の隊長ガモフじゃ。よろしく頼む」


 渋い声で白毛の髪の毛に髭。

 ちょっと強面のサンタクロースみたいな初老の男。

 この人が隊長らしい。


「よろしくお願いします」


「この町は平和が長過ぎたんでな。あのお嬢ちゃん達の不手際に思うところがあるが大目に見てやってくれ」


 ガモフ隊長が言ってるのは第1201小隊の監督役であるニイジマ カレン三尉が隊員二人だけに任務を任せたことだろう。

 

 聞けばアサクラ リオが「カレン三尉はミソノを甘やかすから~」と言うからアンドウ ミソノと二人きりで出発したと言うのが真相らしいのだが――今はそれどころではない。


 ガモフとセイの二人はまだしぶとく残っているアスファルトの道路の先を見る。

 セイは月光を身に纏い、何時でも戦闘出来る態勢を整えていた。

 

「敵は来ると思うか?」


『早ければ今夜中に仕掛けてくると思います』


 セイは月光のセンサーなどに注視しながら答えた。


「そうか――この田舎町に態々仕掛けてくるとは――町の外で何かあったなこりゃ」


『情報は入ってこないんですか?』


「新聞はともかくラジオが基本だが――ラジオがどうもここ最近騒がしくてな。情報が錯綜しているがたぶんこの国で何かあったんじゃろうな」


『それでここに野盗が?』


「そう見て間違いないじゃろうが今は迫り来る火の粉を振り払わんとな。ワシも機械鎧を準備する。この町の人間は平和すぎて戦闘に向いてない。実質戦える人数は限られている。兄ちゃんが頼りじゃろう」


『分かりました』


 セイは再び戦う決意を固めた。

 もう滅んだ国家の意思など関係なく、自分の意思でだ。


 

 Side 野盗


「田舎軍隊ごときが俺達に逆らったらどうなるか思い知らせてやれ!!」


 戦士の墓――旧桜木駐屯地から逃げ帰った野盗達はそこで起きた出来事を知り、報復を決意する。

 戦闘車両やパワーローダーを満載しての出動だ。


 このグループのリーダー格の男、ダマスカはNUSAと言う国の出身でそこから縄張りを広げ、野盗の一団の中ではかなりの規模であるバトルウルフ(別名ダマスカ一家)のリーダー格となった。


 スキンヘッドで体格もあり、専用の機械鎧(パワーローダー)は茶色くて縦長の頭部、横長のアイカメラ、ボディは重厚感があってガードナーをヒロイックに仕立て直したような印象を受ける。


 それもその筈、名前はガードナーⅡ――ガードナーの後継機であり木之元 セイの月光と同じ第三世代機である。

 もっとも彼達が運用していたガードナー同様に意味不明なぐらいに付けられた装甲盤やら突起物などがあるが。

 

 それが専用の大型トラックを間改造して走る移動玉座にした場所に乗る。

 周囲は戦闘車両やパワーローダーを載せた車両が取り囲み、ダマスカが乗った車両の側では戦士の墓から逃げ帰った大柄な――あの野盗のグループのリーダー格の男がおそるおそる声をかける。


『で、グランダ? 腕が立つローダー乗りの情報は本当か?』


 部隊のリーダー格の男改め、ダマスカの部下、髭を生やしたクマのような容姿をしている大柄な男、グランダは戦闘車両でダマスカの車両の側を併走し、銃座から頭を下げる。


「は、はい。あっと言う間に自分達の部下を殺されたんです――」


 とおそるおそる報告する。

 それを聞くとダマスカは笑い声をあげた。


『そうか。このガードナーⅡを手に入れてから敵なしだったからな。骨がある奴だといいな』


「は、はあ――」


 グランダはこのダマスカと言う男の下について長いが、ただ威張り散らすだけの男では無いと言うのは理解していた。

 力一つでここまで成り上がってきた男。

 それがダマスカと言う男だ。


『さあ見えてきたぞ! 野郎ども! 焼き払え!』


 そして彼達の眼前にサクラギの町が見えてきた。

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