第29話 依頼品完成

「できたー!!」


 依頼をされてから結構な時間がかかったけど、無事に二つとも作り終えた。嬉しすぎて、その場で万歳しちゃったわたしの前には、綺麗なタキシードと、ピンク色のウェイディングドレスが用意されている。


 要望は全て叶えたし、更に良く出来る所はしっかり直した。それに、ちょっぴり幸せで素直になれる魔法をたくさんかけてある。相手が誰であれ、依頼してくれた人には幸せになってほしいもの。特に結婚パーティーなら尚更だ。


 さて、手筈では、この後お城の人が取りに来てくれる。これでわたしの仕事は一段落って事にしていいだろう。


「ふぅ~~~~……まあ他の仕事もあるんだけど、とりあえず一番大きい依頼は達成だー! やったー!」

「やったー!」

「うわっボニーさん!? 急に入ってきたらビックリしますよ!」

「若者の中では、こういうのはノリというそうじゃないか。ちょっとやってみたくてねぇ」

「はぁ……」


 いつまでも若くいてくれるのは嬉しいけど、心臓に悪い事はやめてほしいかな。わたしの方がビックリして倒れちゃうかもしれないよ。


「本当に良く出来てるわねぇ……特にウェディングドレスの細かい刺繍や、見えない部分の細かな配慮まで、完璧だわ」

「相手が誰であれ、求めているものの百二十パーセント以上を提供したいので!」

「ふふっ……成長したわね。それじゃそろそろお出ましの頃だろうし、出迎えてやりましょうか」


 ボニーさんと一緒に玄関に出て来てから間もなく、今日も馬に乗って何人もの人たちがやってきた。そして、中央には馬車がある。


「ようセレーナ。相変わらずみすぼらしい顔だな。ちゃんと仕事はしたんだろうな?」

「うっ……」

「大丈夫、頑張りなさい」

「……はい。要望にプラスアルファを加えて、素晴らしいものを作りました」

「は? なに勝手に入れてるの? そんな金払うつもりないですわよ」

「あくまで予算内で改善できるものだったので、そこはご安心ください。残りはわたしのサービスなので」

「まあいいわ。んで、それが完成品ねぇ……」


 サンドラ様は、マネキンに着せられたドレスのじっくり見ながら、大きく頷いてみせた。


「虫女にやらせるのは不安もあったけど、名声は伊達じゃないわね。悪く無い出来だわ。フィリップ様もいいですわよね?」

「ああ。俺のも問題なさそうだ。報酬はこれだ」


 フィリップ様の隣に立っていた従者が、手に持っていたアタッシュケースを、わたしに乱暴に投げつけてきた。


 なんか……こういうことされるの、懐かしく思っちゃうな。


「あんたらのとこの兵士は、この程度のマナーもなっちゃいないのかい!?」

「うるせえぞババア。こちとら服を手に入れて上機嫌なのに、水を差すんじゃねえ。そうだ、こいつもセレーナにくれてやる」


 フィリップ様は、とても嫌な笑みを浮かべながら、わたしに一枚の紙きれを渡してきた。その紙は、フィリップ様とサンドラ様の結婚を祝したパーティーの招待状だった。


「本当なら、蛆虫レベルのお前に参加の権利は無いが、今回の服を作った功績をたたえ、パーティーに参加する事を許可してやる」

「タキシードやドレスに何かあった時に、対処が出来る人間がいないと困るの。だから、参加は強制だから。よろしく」


 わたしに反論の暇も与えないまま、フィリップ様達は颯爽と去っていった。


 パーティー招待状か……行きたくないけど、行かないといけないよね。そうじゃないと、なにをしてくるかわかったものじゃない。


「本当にあの若造共は……元婚約者に、幸せになるのを見せつけるとか、悪趣味にもほどがあるね。あれで国の将来は大丈夫なんだろうかねぇ」

「でも、わたしが作った職人ですから。万が一服に何かあったら時の為に行かないと」

「本当に真面目なんだから……日にちはいつなの?」


 日にちか。招待状に書いてあるかな……あ、あった。


「二週間後みたいです」

「そう。ならその日までに、一回彼の元に行って相談しなさい」

「リュード様に?」

「ええ。彼なら、なにかあった時の対処法を教えてくれると思うわ」

「そうですね」

「もしかしたら、一緒についてくるかもしれないわね。なにせ、大切なあなたの為だからねぇ」

「も、もう何言ってるんですか!」


 た、大切な人だなんて……リュード様も同じような事を言ってたけど……ああもう、考えれば考える程ニヤニヤしちゃうよ!



 ****



「なるほど、そんな事が……なんにせよ、まずは仕事お疲れ様。よく頑張ったね」

「わわっ……あ、ありがとうございます」


 同日。言われた通り滝にやってきたわたしは、一通りの事情を説明し終えた後、リュード様はわたしを労うように、優しく頭を撫でてくれた。


 えへへ、ちょっと恥ずかしいけど……こうしてリュード様に触れてもらえると、心がポカポカして、顔がにやけちゃうよ。


「個人的には、絶対に行ってほしくないところだけどね。奴らなら、結婚パーティーの後に、君を帰さない事も考えられる。それに、適当な理由をつけて君になにか罪を着せてくる可能性もある」

「……否定できないですね」


 長年フィリップ様やサンドラ様と一緒に過ごしてきたからわかる。あの人達なら、どんな醜い事でも、自分の欲求の為になら、進んで行う人間だ。だから、またストレス発散用の道具として、わたしを手に入れようとする可能性はある。


「でも、行かないと報復で何をするかわかりませんので……わたしには選択肢が無いんです」

「だろうね。だからこうして相談に来たと……話してくれてありがとう」

「こちらこそありがとうございます。それと、迷惑かけてごめんなさい」

「迷惑だなんて思ってないさ。さてと、どうするのが正解か……僕はここを離れられないし、王族の結婚式なら警備も厳しそうだから、人形を侵入させるのも難しそうだ」


 滝壺を見つめながら、腕を組んで考え事をするリュード様。いつもの笑顔も素敵だけど、こうやって真剣に考えている顔も素敵で、いくらでも見ていられる。


「ちょっと対策を考えてみるよ。申し訳ないけど、当日までにもう一回来てもらうことは出来るかな?」

「事前に連絡してもらえれば、大丈夫だと思います」

「わかった。それじゃ通話石で連絡するよ」

「わかりました」


 滝を離れられないのに、どうするつもりなんだろう。いつもわたしを助けてくれるリュード様だけど、今回はどうするのか見当もつかない。


「大丈夫。僕が君の事をちゃんと守るから。だから、大船に乗ったつもりでいてほしい」

「リュード様……」


 わたしの肩をそっと抱きながら、囁くように優しく言ってくれたリュード様。たった一言だけなのに、凄く安心できて……わたしは目を閉じながら、リュード様に体を預けた。

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