Episode 14 裁判離婚

 元夫から送ってこられる反論の書類は酷かったです。自分で作成してあるのです。法学部卒のプライドがあったからでしょう。

 しかし、その内容は滅茶苦茶。私が結婚して、3日間しか食事を作らなかっただの、2,000万円持って逃げ、実家に送金しただの、働きに出たのは気晴らしでしかないだの、鬱病とか適当な病名をつけて家事を怠けていただの、しまいには、人格障害だから私には子供の親権など持たせるほうが危険だ、とも。


 これには、心療内科の先生が怒りました。この先生は大きな総合病院の院長をされていて、心療内科を一人で診ていました。病院の前にある教会の牧師さんでもありました。その方を怒らせたのです。牧師さんを、ですよ?

「あなたが人格障害なわけないでしょう。わかりました。検査をして、検査結果を叩きつけましょう。許せない」

普段、本当に穏やかな先生が、私のために怒ってくださいました。


 私は検査を受け、全く「人格障害」などではないという証明書を作成して貰いました。それを見て、弁護士さんは言います。

「そんなのなくたって、あなたが人格障害者だって思ってる人いないよ? まあ、せっかく院長先生が作ってくださったから、預かるけど」


 何度も何度も、とんでもない言いがかり、虚言、被害妄想、自分至上主義……そんな書類が送られてきます。母の店のFAXに送ってもらっていたので、母が先に見てから私にくれるのですが、

「よくもまあ毎回これだけ思いつくな。気分悪くなるから見ん方がええで」

と言われます。

 わかってるけど見ないわけにはいかない。見たら本当に吐きそうになります。子供たちの学資保険については全額自分がはらっているから、解約保険金は自分が受け取るのは妥当だ、とか、うちの姉弟関係が、仲が良すぎるのは怪しいだとか信じられないことまで書いていました。反論するのも情けない。馬鹿馬鹿しい。


 いつまで、こんな吐きそうな気分の悪い言葉を浴びせられ続けないといけないのか、何度も挫けそうになります。そんなときに支えてくれたのが圭さんでした。

 毎日、殆ど毎日、電話で話しました。圭さんのところへ行くんだ。ゆっちゃんと、まゆと3人で、一緒に行くんだ!

 それが、私の原動力になっていました。負けてたまるか。子供たちと一緒に幸せになってみせる。



 口頭弁論が何度かあった後、証人尋問で、私も出廷しなければなりません。目の前に、もう人間ではない気持ち悪い生き物がギャアギャア言っているのが見えます。バカで愚かなことしか言っていない。こんな人が裁判に勝てる筈がないでしょう?

 私は裁判長から問われる質問に答えていくだけ。正直に。淡々と。


 元夫にも同じ質問がされたとき、とんでもないことを言い始めました。

「私が心配しているのは、次女のことです。次女は小遣いがもらえないからと、神社でお守りを作って売っているのだと言っていました。こんな親と一緒にいていいはずがないでしょう?!」

笑ってしまいました。下を向いて、声を殺して。みんなそんな感じでした。



 小学校4年生のとき、娘が父親のことをどう思うか、と、一人で遊びに行かせたことがあるのです。朝わりと早くに行かせたけれど、一日遊ばせて、夕飯も一緒に食べて、ゆっくり戻ってくるかな、と思っていました。

 が、帰ってきたのは、午後2時。

「え?もう帰ってきたの? お父さん、一緒にご飯食べに行こうとか言わなかったの?」

「食べに行ったよ。うどん」

うどん??6年ぶりに会った娘に食べさせるものが??

「ゲーム買ってもらった」

そこは機嫌とったんだ。 

「で、帰ってきた」


 特にどこに遊びに連れて行くでもなければ、美味しいものを食べさせるわけでもない。結局、娘に、どう接していいのかわからず、とりあえずゲームを買ってやって、「いい父親」のイメージを無理矢理なすりつけても、午後2時までしかもたなかったようでした。(まゆから、後で聞いた話によれば、パチンコ屋に連れて行かれていたようです)



 お守りの話も、その時にしたのでしょう。

 そんな馬鹿げた訴えにも、私は答えなければなりません。

「あれくらいの子供は、親の気を引こうと、色んな冗談を言います。そういうことだと思います」



 最初から負けるような裁判ではありませんでした。解約保険金も全額返ってきました。本来であれば、半分になるところだったのですが、相手が余りに酷かったせいもあるのでしょう。これは全額、私に返すべきだと裁判長が判断を下してくださったのでした。


 2週間。控訴をされないことを祈りました。そして、その期間が過ぎたとき、私も、家族も、大喜びでした。弁護士さんからも電話があり、物凄く喜んで下さいました。


 後に報酬を渡しに弁護士事務所を訪ねた際、先生が、本来払う金額の8割の額でいいと言ってくださいました。本当にお世話になりました。



 正直に、一生懸命生きてきて良かったなあ、と、心から思いました。

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