第30話 ギルドで一休み

 ピミテテさんが他のハンターに対応中で、受付が空いていなかった。酒場のほうでライマインさんと待っていた。お客は少なかったのでギルドに近いテーブルを確保した。

「食事のお礼だ。俺がおごってやる。もちろんアルコール以外だ」

「ちょうど喉が渇いていたから嬉しい。果物を使った飲み物でお願い」


 ライマインさんが注文すると向かい側に座った。私の横にはプレシャスがいる。

「少しは街やギルドに慣れたか」

「色々と覚えてきたよ。今度の討伐依頼も楽しみ」

「アイ様、油断は禁物です。怪我には注意してください」

「大丈夫よ。魔物の怖さは分かっている。だからライマインさんに指導を受けている」


「よい心掛けだ。依頼をこなせばランクアップして、報酬も増えるぞ」

「ランク4以上が一人前と聞いたけれど、ライマインさんのランクはいくつ?」

「俺はランク6だ。3までが見習いハンターで4以上が初級ハンターだ。6以上になれば中級ハンターで俺はここに該当する。8以上が上級ハンターで人数は極端に少ない。ランク10はいないと考えて差し支えない」


「ランクが高いのね。このギルドにランク8のハンターはいるの?」

「ギルドマスターと副ギルドマスターだけだ」

「コララレさんは、やっぱり凄い人だったのね」


 飲み物が届くと喉の乾きを癒やした。柑橘系の飲み物だった。ライマインさんの飲み物はビールに見えた。アルコールが入っていそう。

「特にランク7と8には壁がある。同様にランク3と4にも壁がある。ランク4と8にラックアップするには試験が必要だ。だから4以上が一人前と判断される」


「私も早くレベルを上げる必要がある?」

 高い報酬を貰えるのは嬉しいけれど、そこまで実力があるとは思っていない。目的はイロハ様の世界を楽しむ。ハンターのレベルは気にしていなかった。

 でもこのギルドは私を受け入れてくれた。ギルドメンバーに迷惑をかけたくない。


「アイのできる範囲で構わないと思う。ギルドマスターの興味はアイの魔法だ。高ランクメンバーを求めての入会許可とは思えない。だが基本を身につけてほしい。アイもこのギルドの名前を背負っている。そこは自覚してほしい」

「恥ずかしくならない程度には、依頼をできるようにする。ピミテテさんが空いたよ。ライマインさんは用事があるのよね」


「ちょっとした雑務だ。すぐ戻ってくる」

 ライマインさんが席を立って受付に行った。プレシャスは隣の席で静かにしていた。

「畑作りでプレシャスは大きくなったよね。あの大きさなら川を泳いで渡れるの?」

 イロハ様の世界を楽しむには、未開の地に行くかもしれない。プレシャスが泳げれば行動範囲が広がる。


「アイ様を乗せて泳いで渡れます。ですが空を飛んだほうが安全で速いです」

「鳥の使い魔でなくても飛べるの?」

「通常は鳥の使い魔のみです。わたしは特別な使い魔です」

「人がいると驚かれそう。でも一度は空を飛んでみたい」

「背中に乗るのは慣れが必要です。あとで試してみますか」

「楽しみにしておく。ライマインさんが戻ってきそう。またあとで話そう」


 ライマインさんがピミテテさんと一緒に来た。

「アイさんに頼み事があります。今は平気ですか」

「ライマインさんではなくて私に?」

「この前のお祭りを覚えていますか。異国の踊りと音楽が好評でした。酒場の店主から相談があって、踊ってほしいと依頼がありました」


 お祭りの日にハンターギルドで、元の世界の音楽に合わせて踊った。好きな歌に合わせて踊るのは、元の世界でよくやった。でも素人には変わりない。

「踊りは素人よ。お客を楽しませるほどの実力はない」


「完璧は望んでいません。アイさんの都合がよい日にちや時間に踊ってもらうだけで平気です。少ないけれどお金も出ますよ」

「不定期でも構わないの? 酒場に迷惑がかかりそう」

「酒場の店主は父親です。酒場は家族経営で、私のみハンターギルドで働いています。気さくな父親ですから、できる範囲の踊りで平気です」


「家族なのね。私よりも少し年上の女性がいるけれど姉妹?」

「妹のパメナナです。アイさんの踊りを気に入って、わたしに相談してきました」

「本当に私の踊りで平気なの?」


「俺もまた見てみたい。聞き慣れない音楽と一緒に踊るアイは素晴らしかった」

 魔法で作るからお金は掛からない。踊るのも嫌いではない。魔法の音楽で魔法の衣装を着て踊る。前回踊ったときに、本物のアイ様を感じたようにも思えた。


「何事も楽しまないとね。今日の夕食前に踊ってみる。その反応で決めても平気?」

「それで構いません。父親にはわたしから話しておきます」

 ピミテテさんが酒場に向かった。


 時間までライマインさんと過ごした。冒険談を聞いた。私にはまだ街周辺から離れるのは無理だとわかった。でも一度はダンジョンに行ってみたい。

 夕食前の時間になった。酒場の店主が近寄ってきた。


「お前さんがアイか。俺はサムラグラだ。ピミテテの父親でもある。踊り子を引き受けてくれて助かった」

「素人だから期待しないでね。お客の反応を見て、踊り子を引き受けるか決めたい」

「それで構わない。手前の一画で踊ってほしい」


 サムラグラさんに案内されて、酒場の一画に移動した。音楽と踊りを披露した。予想以上に好評だった。踊り終わると拍手が起こった。みんなが笑顔で楽しんでいた。テーブルに移動すると差し入れを持ってきてくれた。

 酒場の踊り子を引き受けた。ピミテテさんとライマインさんも喜んでいた。

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