第6石 コーラル

第26話 自然豊かなコーラル魔法

 二刻の鐘が聞こえてきた。空気が澄んでいる。家は街外れの高台にあった。

「今日は実施することがいっぱいある」

「ライマインから剣の修行を受けるのですね」


 プレシャスと庭にいた。討伐依頼を始める。でも魔物退治には慣れていない。接近戦になれるために、ライマインさんから剣術を教わる。修行のあとは畑作りを手伝ってもらう約束だった。


「下位魔物を自分で倒せる実力は身につけたい。それに今日は畑も作る予定よ。さすがに私では無理だから、ライマインさんにお願いした」

「ライマインが来るまで時間があります。庭に用事でもあるのですか」

「畑で作った野菜を効率よく収穫したい。土に与える栄養を考えていたら、ぴったりの宝石が見つかった」


 自素石を売ったお金で野菜の種と苗を買った。お店の人に簡単な説明を受けた。魔法で肥料が作れないか考えていたら、望みの宝石が見つかった。

「魔法で肥料を作るのですか。似たような生活魔法はないです」

「想定通りに作れるか分からない。でも宝石魔図鑑を見えていたら、コーラルの欄に面白い説明を見つけた。コーラルの別名は珊瑚で、私には珊瑚が慣れている」


 宝石魔図鑑を開いた。プレシャスが覗き込んできた。

「海中の微生物から作られた宝石ですか。色鮮やかな赤色が目を惹きます」

「血赤珊瑚と呼ばれている高級品よ。私が生まれた国の周辺でも取れた。実は宝石で使う珊瑚と、海辺に生息する珊瑚は種類が異なるのよ」


「畑作りと珊瑚の関係は何ですか」

「珊瑚の主成分は炭酸カルシウムで、たしか土や野菜に必要と聞いた覚えがある。不要な場合もあるけれど、今回は使ってみるつもり」


 元の世界では畑仕事に縁がなかった。何処まで畑を作れるか分からない。でも何事も試してみて、イロハ様の世界を楽しみたい。

「どのような魔法効果を持たせるのですか」

「土に栄養を与えて野菜の成長促進ね。それ以上の効果は、野菜を育てる楽しみがなくなると思う。せっかくのイロハお姉様の世界よ。楽しまないと損よね」


「アイ様の考えは、イロハ様も喜んでいると思います」

「イロハお姉様には感謝している。ライマインさんが来る前に肥料を作っておきたい。魔法の効果は決まったから、呪文も決めたい。宝石の種類は血赤珊瑚にする」


 宝石魔図鑑に書き込んだ。宝石魔法はルースを消すと、発動したものが残る場合と消える場合がある。自然に関するものは残った。肥料は魔法を終了しても残しておきたい。自然由来と書いておいた。


「魔法を唱えるね。鮮赤せんせきコーラル」

 真っ赤なルースが出現した。ルースの下側から砂のような赤い粉が地面に落ちた。

「変わった魔法です。この赤い粉を畑にまくのですか」


「そのつもりよ。効果や威力は実際に野菜が育たないと分からない。それでも何もしないよりはよく育つと思う。ルースを消しても残っているかを確認したい。デリート」

 ルースが消えても赤い粉は残っていた。問題なく肥料として使える。大きい麻袋に肥料を入れた。準備が整った。


「一般魔法は精霊の力を借りています。でもアイ様の魔法は変わっています」

「本物のアイ様が宝石魔図鑑に力を与えてくれた。精霊ではなくて女神様の力。神聖魔法に近いと思う」

「それなら独特の魔法になるのも頷けます」


「精霊にも種類があると前に聞いた。詳しく教えてほしい」

「一般精霊の他には古代精霊がいます。魔法や使い魔に関与しない、古くから存在する稀少な精霊です。古代精霊も精霊魔になれます。人間が語る伝説の精霊魔はたいていが古代精霊です。精霊魔は魔物と違って、必ずしも人間と敵対しません」

 伝説という言葉には興味があった。謎めいて素敵だった。


「いつかは伝説の精霊魔に会ってみたい。イロハお姉様の世界を楽しむ理由が増えた。伝説というくらいだから、古代精霊は一般精霊よりも強いの?」

「強弱関係で言えば、大人と子供の違いがあります。ですが上位精霊なら、古代精霊に一撃程度は与えられるでしょう」

 分類が異なると強さが桁違いだった。精霊の分類は奥が深い。


「プレシャスは古代精霊なの?」

「わたしは世界の始まりから存在している原初精霊です。原初精霊はイロハ様に仕えています。一部の地域では神様として崇められている原初精霊もいます。一般の人間は原初精霊を知りません。発言すると常識知らずに映るでしょう。注意してください」

「言葉には気をつける。プレシャスの強さも何となく分かった」

 ライマインさんが来るまで、プレシャスとお喋りした。

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