第2話 私だけの宝石魔図鑑

 イロハ様の世界を聞いた。地球と逆だった。人間よりも自然が発達していた。自然界の突然変異である魔物が存在した。人間の科学技術は低くて肉体と魔法が発達した。地球はイロハ様の世界を見て、人間が発達できる環境に変えたらしい。


「私は魔法もなく力も弱い。イロハお姉様、暮らしていける自信がないよ」

 訴えるよう目つきでお願いした。イロハ様の世界を聞いているうちに分かった。イロハお姉様というと、イロハ様は機嫌がよくなった。本物のアイ様も一人称が私だった。言葉使いも近いみたい。


「アイに不便をかけさせません。アイにはワタシの世界を楽しんでもらいたいです。通常の人間以上には読み書きと会話はできます。街外れに一軒家を造りました。使い魔が補佐してくれます」

 最低限の衣食住は確保できそう。長期的に考えれば仕事でお金を稼ぎたい。家に着いてから考えよう。気になるのは使い魔だった。


「イロハお姉様の世界では、使い魔が当たり前か知りたい。私の命令は聞くの?」

「魔法を使える人間の一部が、使い魔と契約できます。ワタシの使い魔はアイと主従関係がないです。あの子は素直な子です。通常の頼み事なら聞いてくれるでしょう」

 補佐してくれる仲間がいると思えばよさそう。


「私は魔法が使えない。使い魔を連れていても平気?」

「ぴったりの品物があります。アイ、本物の妹より預かった不思議な本です。宝石魔図鑑ほうせきまずかんを使えば魔法が使えます」

 両手ほどの大きさだった。重さは感じない。


 中を開いた。左の頁に写真と日本語があった。宝石の写真は立体映像にも変化した。凄い技術ね。日本語は宝石の説明だった。頁をめくると色々な宝石があった。顔が緩み喜びがこみ上げてきた。


 右の頁は十分割の大きな枠があった。注釈に最大十種類の魔法が可能と書いてある。大きな枠には魔法効果を書くみたい。大きな枠の下側には記入欄があった。宝石の色や種類を記入する欄や、魔法の即時発動か任意発動かも記入できた。


「宝石を堪能できるのは嬉しい。立体映像はジュエリーではなくて、ルースのみなのも粋な計らいね。どの方向からも本来の輝きが楽しめる」

 宝石そのものを鑑賞するには、ルース状態が一番見やすかった。

「気に入ってくれて嬉しいです」


「いつまでも眺めていられる。魔法はどのように使うか知りたい」

「ワタシの世界にある魔法とは異なります。アイからの伝言です。右側の頁に魔法の効果と魔法の呪文を日本語で埋めます。どの宝石で魔法を作っても構いません」

 宝石を使った魔法ね。これほど嬉しいものはない。イロハ様が続きを話してくれた。


「魔法の効果を連想できる宝石なら、威力を最大限に発揮できます。呪文を日本語で唱えれば発動できます。これで魔法が完成です。詳細は最初の頁にあります」

 頁をめくって表紙の裏を開いた。決まり事が五項目だけ書いてあった。補足は各頁に書いてあるみたい。五項目に目を通した。


「一つ目は書き方ね。宝石と枠を指定して効果と呪文を日本語で刻む。日本語の解釈で表現される。呪文詠唱後は変更不可ね。次は呪文の詠唱みたい。呪文の詠唱でルースが出現する。出現したルースから魔法が発動される。魔法の範囲や位置、威力は心の声でも詠唱できる。心の声は記載よりも優先される。ここまでは私も把握できた」


 視線をイロハ様に向けた。私を見守るような表情だった。このまま続きを読んでも平気みたい。視線を宝石魔図鑑に戻した。

「三つ目は魔法の発動条件ね。即時か任意かを選べる。心の声でも決められる。ルースの状態も選べる。すごく面白そう。形やカットを自由にできればルースを堪能できる」


 脱線してしまった。次の項目を読んだ。

「注意事項みたい。同時に同じ魔法は呼び出せない。発動後のルースを使って連続で魔法は使える。次が最後ね。魔法発動後のルースは任意で消せる。最長でも丸一日経過すると自動消滅する」

 以上が基本だった。細かい部分は記入頁で確認が必要みたい。


「アイの声をたくさん聞けて嬉しいです。内容は把握できましたか」

「概ね分かった。実際に試してみたい。同じオパールでも、ブラックオパールとボルダーオパールで違いがあるのか興味ある。今から楽しみ。日本語で書いて日本語で唱える。私しか使えない魔法よ。勝手に唱えても平気?」


 イロハ様に視線を向けた。

「気にせず使ってください。この会話はワタシの世界にある言葉です。違和感はないはずです。魔法を唱えるときだけ日本語になります。他の人間には珍しく映るでしょう。でも魔法は神秘的な現象です。遠い土地で学んだと言えば平気でしょう」


 私自身は日本語を話していた。でもイロハ様の力で自動変換されている。文字なども同様かもしれない。すごい能力だった。

「世界を知るためにも仕事を探す予定よ。魔法が使えれば有利になりそう」

「魔法も楽しんでください。ワタシからも品物があります。首にかけてください」

 ペンダントだった。受け取ると中石に驚いた。


「中央に使われている宝石はブラックオパールね。私がミネラルショーで購入した勝利品と同じ形で、斑や色合いも同じ輝きよ」

「運よく消滅せずに残っていました。周囲の小さな宝石も同様です。ペンダントにはワタシの加護を付加しました。愛しいアイを守ってくれるでしょう。一度身につければ二度とアイから離れません」


 周囲にある小さいブラックオパールも見覚えがあった。一緒に使われているメレダイヤも、ミネラルショーで購入したルースみたい。

「イロハお姉様からも、贈り物をもらえるとは嬉しい。大事にするね。でもオパールは硬度が低くて薬品にも弱い。ずっと着けていても大丈夫?」

「ワタシの加護があるから平気です。身につけた姿を早くみたいです」


 イロハ様自らペンダントをかけてくれた。吸い付くように収まった。優しい雰囲気に包まれた。試しに取ろうとしたけれど外れなかった。体の一部になったみたい。

「似合っています。やはりアイは愛しいです」

 また抱きしめられた。中身は私だと知っている。その上で愛情を注いでいる。イロハ様の妹に対する溺愛ぶりは凄すぎる。

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