男言葉で綴ったら自分の思いがそのまま書けるかもしれないと思って書き始めた俺の自転車ライフ

風羽

2022年

四月 ある日の日記

 あ、俺、名前は風羽かざは。今五十六歳。半年も経たないうちに五十七歳になっちまう。そんないい歳のおばちゃんがこんな言葉使うなんて変だよな。

 だけど、心の中の声だから許してくれよ。

 誰かと話す時はちゃんと普通のおばちゃんの言葉使ってるから。外見も心も言葉遣いも普通の女性だ(と思う)けれど、ちょっと不良っぽい男言葉が好きで、心の中はそんな言葉で溢れているんだ。

 すげー感動した時とか、あと自転車乗ってる時、一言二言自然にそんな言葉が出ちゃうかな。

「すげー」とか「はえー」とか。

 そんぐらいなら許されるだろ?


 それから、このエッセイの中に出てくる人物の名前は偽名だからさ。そこの所、よろしく。



 三月は最悪だった。ほぼほぼトレーニングらしいトレーニングが出来なかった。

 最近はちょっと激しくトレーニングすると膝が痛くなったり腰が痛くなったり。古傷の右膝に加えて左膝も痛くなりやがって、休んでも回復が上手く進まず、フラストレーション溜まりまくりだ。

 俺の身体、弱っちくって情けなくなるぜ。これが老化っていうやつなんだろうな。

 あー、こうやって走れなくなっていくんだ‥‥‥

 弱気の心がムクムクと増殖していくぜ。


 センセに怒られるな〜。

「頑張ってる身体を労って、今日も頑張ったねって毎日声を掛けてあげなさい。朝起きたら、今日も最高! って声に出して一日を楽しんで」

 そんなセンセの声がどっかから聞こえてくるけど、そんな気分になれないぜ。

 おい、それ位で痛んでないでもっと頑張れよ! って言いたい気持ちでいっぱいだぜ。


 室内で軽くローラー(※)に乗れるようになっても、それ以上の事をやろうとしない自分にも腹が立つ。

 ふと思う。

 六年前の状態は今よりずっと悪かったよな、と。


 いちじは三十年も続けてきた自転車競技に終止符を打つ事を真剣に考えた。競技に必要だと思えるトレーニング、やりたいトレーニングを行う事で更に膝は悪化し、それを繰り返していた。痛みが出ないようにそこそこにやるっていう選択肢はなくて、マウンテンバイクの競技からは離れる事にした。

 だってそうだろ。身体には限界があって、誰だって納得のいくまでトレーニングなんて出来ないと思うけど、そのレベルが低すぎてさ。これ位のトレーニングじゃ、レースではこれ位しか走れないって大体分かるし、トレーニングやりたいけど壊れるから出来ないっていうのはメチャメチャ辛いんだ。

 出来ないのが辛いならやめるしかないよな。だけど俺にとって自転車はそんなに簡単にやめれるものじゃなかったんだ。


 走れなくなった時、たとえ競技は無理だとしても、とにかくまた楽しく自転車に乗れるようになりたいって思って本気で取り組んだ。必死だった。

 それまでの三十年にも渡る競技生活の中でも本気度合いは相当高かったな。身体の事を考えて砂糖は絶っていたし、時間が許す限り一日中リハビリに費やしていたっけ。

 膝が深く曲がらなくて室内でローラーも乗れなかったけど、クランク(※)を凄く短い物にして十分だけでも乗れるようになった時は本当に嬉しかったな。少しずつ少しずつ。

 あん時は負けたくないものがあったから、すげー燃えてたぜ、俺。


 乗れるようになってくると、また色々と欲が出てきちまうんだ。身体と上手く向き合いながら普通に頑張って乗れるようになって、そこからはヒルクライムレース(※)が主戦場になっていった。

 またここまで走れるようになった事が嬉しくってさ。走れる事に感謝の気持ちが溢れていた。

 毎年台湾で行われている標高0m〜3275mまでを駆け上る105kmのヒルクライムレースにも出会い、これにはハマっちまったな。これまで四回出場したんだ。

 でもここ二年はコロナの影響で海外からの参加は出来ず。国内のレースも軒並み中止でレースを走ってないんだ。今年は走りて〜!


 って、ついつい六年前からの振り返りが長くなっちまって申し訳ねえ。

 で、今よ。

 今はさ、さっきも言ったけど、膝の状態が良くないっていっても六年前の状態よりずっといいわけ。でもトレーニングちゃんとしてなくて「あー、こうやって走れなくなっていくんだ‥‥‥」って思ってる。走れるようになる努力もそんなにしないでさ。

 そんなに走れなくなるのが嫌ならもっとちゃんとやれよ。六年前みたいに本気でさ。そんな風に思う自分もいるけど、あんな風には出来ないんだよな。ってかやろうとしてない。

 今はさ、そこまでのスイッチが入ってないっていうのかな。まあ、それなりにはやってるぜ。でもそれなりになんだ。ここ二年間自転車のレース出てないから仕方ないのかな? っていうのもある。自転車以外に他にやりたい事もあるし。小説カクヨムしたいとか‥‥‥。

 たぶんスイッチって無理に入れるものじゃないと思うんだよね。

 そして今はさ、書きながら自分の気持ち整理してる感じなんだ。書いてると、六年前のようには出来なくても、もうちょっと真剣に取り組んでみろよって思えてくるんだ。大切なのはきっと、後悔しないように最低限の事はやり続ける事。そして機を伺って、上手くスイッチを入れてやる事なんだ。


 実はこれ、書く事が一つのスイッチになるとも思って書いてるって所もある。書く事でもうちょっと真剣に取り組めると思ってるんだ。

 自転車はやめたくなるまでやりてえ。六年前にやめちまわなくて、本当に良かったって思ってる。レースはいつまで出れるかわかんねえ。けど、やれる所までやりてえんだ。思うようにトレーニングやレースが出来なくても、その中で精一杯頑張って、楽しんで、今走れる事に感謝の気持ちを持って走っていたいんだ。


 今年目標としているレースは二つ。ここ数年と同じなんだけど、八月の乗鞍と十月の台湾KOM。

 ーーー この二つはふうこの小説『Faith』の舞台にもなってるんだ。宣伝になっちまったかな? ま、時間があったらついでにこっちも読んでくれたりしたら嬉しいぜーーー

 今年は開催して下さい。参加出来るようになって下さい。


 今はさ、それぞれのレースの具体的な目標とかって決まってなくて。身体の調子が良くて練習ガンガン出来たら高い目標置きたいけど、どうしてもそこに持っていこうとするんじゃなくて、調子を見ながらやっていくつもり。


 あ、俺が大切だと思ってる事、もう一個書かせてくれよ。

 それは、歳をとって変わっていく身体を受け入れる事と、衰えていく身体にあらがってトレーニングしていく事。

 相反する事みたいだけど、受け入れるだけじゃ衰えるし、抗うだけじゃ壊れちまう。そのバランスが大切だと思ってるんだ。


 八月の乗鞍までに、ニレース程走って、たぶんそこで勝手にスイッチが入ると思ってるんだよね。今は。


 書きながらだいぶ前向きになってきたと思わね? 書く事って大切だよな。

 あ、四月になって少しずつ身体の状態もマシになってトレーニングもだいぶ出来るようになってきたから書けたって感じかな。最悪の時は中々書けねえもんだ。


 っつうわけで、この最初のエピソードでこのエッセイが完結してしまわないように、頑張ってみるぜ。応援してもらえたらすんごく力になるから、応援よろしくな!




 ※ローラー:自転車を静止状態にして室内で自転車を漕ぐ事が出来る装置


 ※クランク:自転車のチェーンの近くにあるペダルが付いている部品。短いと膝を深く曲げずに漕ぐ事が出来る


 ※ヒルクライムレース:主に峠や山道の決められたコースを、ロードバイクを中心としたスポーツバイクで登る登坂競技

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