第52話 あの星の王子様(5)



「————……全く、お前たち、いい加減にしろよ」


 担任の渡辺は、生徒指導室で雛と星野に腕を組みながら説教をする。


「廊下であんなことして、それで怒られてるんだぞ? 今お前たち怒られてる自覚ないだろう」


 二人並んでソファーに座っているのだが、繋いだ手を離さないのだ。


「すみません。ヒナを泣き止ませるのには、あれが一番手っ取り早かったんで……」

「嘘つけ。あれだろう? ムラムラしちゃったんだろう? まったく、これだから高校生のガキは…………節度ってもんがあるだろうが。あんなみんな見てるところで…………小鳥遊の気持ちも考えてやれよ。別れた時気まずいぞ?」

「別れる? 何言ってるんですか!! もう絶対に離れませんよ、僕たちは!!」


 堂々と宣言する星野に対し、雛は顔を真っ赤にして下を向いている。


(は、はずかしいいいいいいいいいいい)


 みんなが見ている前で大泣きした上、キスまで……冷静になったら、とんでもないことを夏休み明け早々しでかしてしまったのだ。


(どうしよう。これあれじゃん? 絶対、他のクラスとか学年の生徒からも指さされるじゃん……めっちゃ恥ずかしいんだけど……)


「はぁ……まったく、星野の主張はよくわかった。で、小鳥遊、お前はどうなんだ?」

「ど……どうって?」

「ずっと下向いて恥ずかしそうにしてるが……こいつに無理やりされてるとか、そういうわけじゃないんだよな? お前らは、ちゃんと付き合ってるってことで、間違い無いか?」

「……つ、つき…………」


 雛はさらに顔を真っ赤にしながら、その答えを期待している星野の視線に耐えられず目をギュっと閉じて言った。


「付き合ってます!!」


 星野は嬉しそうに雛とつないでいるての反対側の手でガッツポーズをする。

 渡辺は目の前のこのカップルを、もう見ていられないと解放することにした。


「いいか、もう人前でああいうことはするなよ!! それに星野、お前はちゃんと責任取るんだぞ!!」

「もちろんです!!!!!」



* * *



「ヒナ、僕が別の星に行くのは嫌?」

「うん……」

「ヒナ、僕と離れたくない?」

「うん……」

「ヒナ、僕のこと好き?」

「……うん」


 恥ずかしそうにしている雛と嬉しそうな星野。

 正直、あまりに急にラブラブになって帰って来たので、シッジーはあっけにとられてしまった。

 いつのまに、ここまで進んでいたのだろうと、不思議に思う。

 昨日は酔っ払って無理やりキスをしていたので、今日はボコボコにされて帰ってくるだろうと予想していたのだが……

 星野が学校へ行っている間、必死に調べていた次の星の候補リストが無駄になってしまった。


「あの……王子、乳繰り合ってるところ大変申し訳ないのですが……」

「ん? なぁに、シッジー」

「もう嫁候補に決めたということで、よろしいですか? 他の星には行かないと……そういうことで」

「見てわからない?」

「あ、はい、そうですね。失礼いたしました」


 シッジーは邪魔するなという王子の笑顔の迫力に負けて、引き下がる。

 しかし、執事として言わないといけないことがある……


「こ、この日までに、この項目をクリアしてくださいね……」


 そう言って、シッジーは紙を一枚星野に渡すと逃げるように自分の部屋に引きこもってしまった。


「なに、これ……なんて書いてあるの?」

「あーこれはね、嫁候補が地球でしなきゃいけないことのリスト」

「……へ?」

「へ? って、ヒナは僕と離れたくないんでしょ?」

「うん、そうだけど……」


(そうだった、私、さっき、勢いで————返事しちゃったんだ)


「改めてもう一度聞くけど、僕の嫁候補になってくれるって、そういうことでいいんだよね?」


 星野は雛に再度確認する。


「……うん」


(もう、後には引けないわ……)


 星野はぎゅっと雛を抱きしめると、何度も何度もありがとうと言った。


「それじゃぁまず、ご両親の許可を取らないと。昨日も話したけど、アノ星に行ったら色々とやることがあるんだ。だから、しばらく会えなくなるから……」

「うん、わかってる。善は急げよ。うちに行こう」

「えっ!? 今から!?」

「うん、今から!!」


 もう自分の気持ちを認めたらなんだかスッキリしたようで、雛は星野の手を引いて、雛の家へ。

 両親は驚いていたが、覚悟を決めた様子の雛の決断に反対することはできなかった。

 というか……反対しようものなら、家が壊れるくらい暴れられると思って父も兄も何もできない。

 雛は小鳥遊家の姫で、そして、肉体的にも誰よりも強いのだ。

 さらに、祖母からの援護もあり、父はも兄も泣きながら娘の早すぎる結婚を祝福した。





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