第34話 帝国皇子視点4 不能剣を無くすためにもエルを幸せにしようと思いました

「まあ、次があるわよ」

俺はエルに告白するのを邪魔した張本人の姉上に、慰められて城に戻った。本当にこのタイミングで転移してくるか? 絶対にタイミング測って転移してきたんじゃないかと思えたんだが。


エルには使者の前には出なくて良いと家族の皆が言ってくれる。おいおい、じゃあ呼ぶなよ。俺は文句を言いたかった。


でも、エルは自分のことだから出ると言い張ったのだ。

「でも、乱心したら何してくるか判ったものではないわよ。まあ、エックとクラウがいれば瞬殺だけど」

「叔母上。エルは私が守ります」

俺はここぞとばかりにアピールした。そうだ。当然未来の婚約者は俺が守るのだ。


「えっ」

エルが驚いている。

「いや、でも、あなた、帝国の皇子が同席するのは」

「護衛でもなんでも良いです。二度と誰にもエルには無礼なことはさせません」

俺は、今後はエルの事は全て俺が守ると、エルの家族にエルも含めて宣言したつもりだった。


「まあ良いわ。あんまり出しゃばってはダメよ」

叔母上が釘を刺してくるんだけど、俺の意図が伝わったかどうか。

エルには絶対に伝わっていないような気がする。

俺を見る目が変だ。

問題起こすなよって目が言っているんだけど、何故そうなる?


「お待たせした」

叔父上と一緒に一同部屋に入った。


何か使者は不遜な男っぽかった。この非常時に、こんな男を使者に寄越すなんて王国は気でも狂ったのか。思わず俺は使者を二度見してしまった。


外務卿が窘めているが判っていない。

「言葉を控えよ」

案の定兄上に一喝されていた。


ぴしっと空気が凍る。さすが次期剣聖。

生意気なギュンターも流石に凍ってしまったようだ。


「エック、良い。で、王国の言い分を聞こうか」

「はっ」

次期剣聖に一括されたからか、ギュンターは大人しくなった。

見た目は。


「今回の件。殿下の不注意な言動が元とは言え、その殿下に対してエルヴィーラ・ ハインツェルの

狼藉」

俺は使者がエルを呼び捨てにした瞬間キレた。王国の子爵風情が俺のエルを呼び捨てにするな!

俺はエルの止める前に剣を抜くと生意気な使者の喉元に剣を突きつけていた。


「ヒィィィ」

ギュンターは固まっていた。


「二度とエルのことを呼び捨てにするな。次にしたらその時は貴様の首が胴から離れる時と思え!」

俺は剣先に力を入れつつ言い切った。

カクカクとギュンターは頷く。


「フェル。席にもどれ」

叔父上の言葉に


「ふんっ」

仕方なしに、男を一瞥して俺はエルの横に戻った。


「もう前口上は良い。お前の命がいくつあっても足りんからな。今回の件に関係した者の処分について聞こう」

「王太子はじめ多くの者に重症を負わせた、エルヴィーナ嬢には修道院送りに」

俺はその言葉にまたキレたが、エルが俺を手で制するので、なんとか斬りつけるのは止めてやった。

こいつは何をしに来たのだ。

今このタイミングは絶対に形振り構わず、叔父上に許しを請う場面だろう。本当に王国は馬鹿だ。


それも王太子はお咎めなしなどと気でも狂ったのか。当然王太子は宗主国の姫君を敵国に売ろうとしたのだ。妥当な線からいって廃嫡の上処刑だろう。その愛人も同じだ。それをお咎めなしとは。


叔父上もキレて


「話にならんな。王国の存亡の時に貴様などを使者に寄越すなど。国王は気でも狂ったのか?」

「な、ナニを仰るのです」

「国王に伝えよ。我がハインツェルは戦神エルザベート様の遺訓に従い秘密条項第一項の発動を検討するとな」

ついに叔父上が伝家の宝刀を抜いた。使者にはその意味が判っていないみたいだった。

お前が王国の終わりを決めたんだよ。俺は余程そう教えてやりたかった。



「ハインツェル公」

ギュンターは慌ててお父さまに取りすがろうとした。


「貴様、父上に寄るな」

兄上が一喝した。


それだけでギュンターが吹っ飛んでいた。壁に叩きつけられる。

「おのれ!陛下の使者の私をここまでコケにするとは!」

「では貴様を切り刻んでやろうか? 貴様らが我が妹にしてくれた数々の遺恨。貴様一人の命では賄えまいが」

兄上が剣に手を掛けた。


「ヒィィィ!」

男は兄上の怒り声を聞いて、部屋を逃げるように飛び出していった。


もう、王国は終わりだ。

叔父上が王家に取って代わるだろう。

まあ、王家もただではその座を降りることはなかろう。一戦してくるだろう。兄上と姉上の前に一瞬で終わるだろうが・・・・。


その俺の予想通り、1週間もしないうちに、王家は総動員令をかけた。

これで王家も終わりだ。

叔父上もついに取って代わることを決意させられたみたいだった。


その中、ハインツェル側も総動員令をかける。

貴族たちの4分の1がこちらについてきた。

残りの貴族は没落するつもりなのか? 普通に考えて毎年ゲフマンの大軍と戦っているハインツェルに勝てるはずはないのに。いかに王国の人間たちが生ぬるいところに生きてきたかだ。


まあ、この戦いは横で見ていればいいだろう。俺はそうおもってのんびりしていた。

エルが次の言葉を言い出すまでは。


「私も責任を取って、西街道を向かいます」

軍議の席でエルが言ったのだ。


何だと!


「はっ?、エル、戦争は遊びじゃないのよ」

「そうだ。エル。お前には危険だ」

兄上も姉上も反対した。そらあ心配だろう。というか、この二人はエルに自分らの行動を邪魔をされるのが嫌なだけかもしれないが。


「しかし、元々、今回の発端は私にあります。私が後方でいていい理由にはなりますまい」

エルはあくまでも言い張った。


「いや、エル、それはとても危険だ」

俺が心配して横から言う。またゲフマンの残党らがエルを狙うかもしれない。


「私は大丈夫です。フェルが守ってくれますから」

えっ、俺を信頼してくれているの・・・・

「えっ、いや、それは言われれば必ず守るが」

俺は嬉しくなってそれ以上言えなかった。そうか、エルは俺を信頼してくれているのか


「いや、しかし、エル。お前自身も危険だが、お前の周りにも迷惑をかけるだろう」

叔父上が諭すように言う。周りの被害って自分の兵士たちのことを言っているんだろうな、とは少し思った。何しろエルの宝剣による攻撃はなかなか特殊だ。


「エルザベート様の剣も連れて行ってくれと言っているのです」

「嘘をつけ! 剣が話すわけ無いだろう」

叔父上の意見に俺もそう思った。言い訳が子供じみていると思うのだが。


「お前が暴れた後は不能者の山になって人口が減るのではないか」

兄上が言い出した。


「お兄様が屍の山を築くのに比べればましです」

「私は1万人以上殺すつもりはないぞ」

「1万人も殺すなど言語道断です」

「しかし、不能者1万人と比べてあっさり殺してやったほうがそいつのためだろうが」

「別に私が剣を振るっても不能になるわけ無いでしょう」

いや、エル、事実そうなっているんだけど。


エルザベート様の時は宝剣はバッサバッサと敵兵を斬り倒していたらしい。でも、エルは優しいのだ。本来この宝剣はそれを使う者の性格を反映するみたいだ。それが仇になって宝剣は人を殺してはいない。その代わりに婚約者が愛人と男女の関係になったのが、エルはなんとも思っていないと言っているが、絶対にトラウマになっているのだ。愛人がエルと違って豊満な胸をしていたのも関係があると思う。王太子が遊び人で幾多の女と浮名を流していたのも、平気な顔して、許せないと本心では思っていたはずなのだ。そのエルの思いが剣に反映して、二度と男どもが遊べないように不能にしているのではないかと俺は思っていた。


「王太子もコリントも不能になったそうだぞ。更にお前の剣の直撃を食らったゲフマンの多くの兵もたたなくなったそうだ」

そのエルの心の傷口に、ズリズリと兄上が塩を塗り込んでいく。


「お前の行こうとする先にいるバルチェも不能になったそうだ。お前が通った後は不能しか残らないなんてことになったら人口が減るぞ」

「んな訳ないでしょ!」

エルが言うが、皆エルを怖れて離れようと遠巻きにした。


「どうしても行くのか?」

叔父上が呆れたようにエルを見た。


「はい、お父さま」

エルが当然という顔をして言う。もうこうなったらどうしようもないだろう。


「第三騎士団長」

「嫌です。私はまだ独身なんです。不能になったら婿にいけなくなります」

騎士団長がとんでもないことを言っいる。


「煩いわね。不能になったら私が責任取ってあげるわよ」

「はああああ!、何言っているんだ。エル。そんなの許せるわけ無いだろう」

俺はいきなりエルの配偶者候補に第三騎士団長が出てきてキレた。まず、こいつを一刀両断してやる。


「えっ、お嫁さん探してあげるっていうのがいけないの?」

俺はエルの一言に一気に力が抜けたが・・・・


結局、エル一同は俺と第三騎士団、それにオーバードルフ側から新たに参戦してきた1万人という大所帯になってしまった。


「犠牲者が1万1千人もいるのか」

「んなわけ無いでしょ」

兄上をエルは思いっきり蹴飛ばしていた。



エルの宝剣が不能剣になるのはエルのトラウマが関係しているはずなのだ。だからエルがそのトラウマを克服すればまた変わると思うのだ。それはすなわち、エルが幸せになること、すなわち、俺の婚約者になることが全てなのだ、と俺は思った。


そう、エルが幸せになりさえすればよいのだ。

これ以上の不能者を出さないためにも俺が頑張らなければいけないと俺は決意も新たにしたのだ。


その俺を胡散臭そうにエルの姉上が見ていたが、無視した。


エルの幸せは誰がなんと言おうが俺にかかっているはずだ・・・・



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