第19話 帝国皇子と街歩きしました
翌日私は侍女のビアンカに飾り付けられて、フェルとお忍びの馬車で領都に出た。
「あなた方、本当に大丈夫なの? 変なことしたらダメよ」
お母様は最後まで心配していた。まあ、この城の問題児と言うかいたずらっ子の私達二人が出ていくというのが、何か、信用無いようだった。
せっかくフェルと一緒だったら大手を振って出れると思っていたのに、フェルもお母様に信用がなかったのだ・・・・・。
「叔母様お任せ下さい」
フェルは胸を張って言うが、
「変な洞窟見つけて潜っちゃダメよ」
お母様は小さい子供に言い聞かせるように言う。
「どこに行かせるつもりなんですか」
「だってあんたら領都に出ると言って、北のダンジョンに潜っていたじゃない」
「そんな8歳の時の話をされても。困ります」
「宝物庫にも勝手に入っちゃダメよ。地下通路かなんかも勝手に見つけても入っちゃダメだからね」
「あのう、叔母上。わたくしこれでも帝国の皇子なんですけど」
「そんなの昔からそうでしょ」
フェルの一言にお母様は容赦がなかった。
「女の子と二人で領都に行ってそんな事するわけ無いでしょ!」
「昔はやっていたじゃない」
「もうおとなになったんです」
「まあまあ、お母様。やっとフェルがエルをデートに誘い出したんですから、ここは大目に見てあげて」
「おい、待て、エルは帝国にはやらんぞ」
そこにお父様が入ってきた。
「まあ、そこはおいおいと」
皆何の話をしているんだろう? フェルが私を好きになるなんてありえないじゃない。昔はブスだとか、そんなことだから王太子に嫌われるだの、さっさと嫌われろだの散々言われていたのだ。
何しろ、フェルの好きなのはお淑やかな令嬢だそうだから。
そう言う意味では絶対にお姉さまはないが・・・・・
侍女のビアンカにしろ、「フェルナンデス様とデートなんですから」
と勘違いも甚だしく、必死に着飾らせてくれたし。
うーん、普通の街歩きの平民風で良かったのに。
まあ、フェルも貴族令息っぽい格好しているけど。
「えっ」
私は馬車の前で止まってしまった。
フェルが手を差し出してくれたのだ。今迄そんなことしてくれたこともないのに。これは絶対に何かある。
取り敢えず手に添えるとフェルは手で押し上げてくれた。
その後フェルが乗り込んでくる。
何故か隣に座るんだけれど。
「えっ」
前が空いていると目で合図してもまったく無視されてしまったんだけど・・・・
何?、この感じは。
でも、あっという間に私はそんな事は忘れてしまった。
まあ、隣のフェルは私の視界には邪魔だが・・・・
「あっ、フェル、昔黙って登った、教会の塔が見えたよ」
「あの時は登るの楽だったけど、下るのは大変だったよな」
「本当に」
「あっ、あの橋、昔はあの橋の下で魚釣りしたよね」
「そう、そこで釣った魚を焼いて、周りの民家の人から文句言われたわよね」
「それは食いしん坊のエルがすぐ食べたいなんて言うから」
「何言っているのよ。あんな所で魚を焼こうって言ったフェルが悪いのよ」
私達は昔を思い出しつつ、言い合いをする。
この3年間は本当に暇というかやること無くて本当に暇だった。皆からは遠巻きにされていたし、
友達もいなかったし。まあ、学園は領都にある学園のほうがレベルが高いし、わざわざ王都の学園に行く物好きはいないんだけど。
暇な時は図書館で色んな本を読んで過ごしていた。でも、領都の図書館のほうが絶対に書物の数も多かった。
久々の友人との会話だ。フェル相手でも、私は楽しかった。
なんやかんや話していたら、帝国堂についた。
えっ、でも何か従業員一同外にそろつているんだけど。
「いらっしゃいませ」
馬車が着くと同時に一同頭を下げて迎えてくれる。
その中、支配人と思しき男が走り出てきた。
「これはこれは殿下。良くこのような所までお越しいただきました。昨日、本国の社長より連絡をもらいまして」
支配人が低身低頭迎える。そうか、フェルが手を回していたのか。でも、いつもはやらないのに、何でだろう?
「まあ、ここは僕にとって本拠地のようなところだからね」
そう殿下ヅラして言いながら、フェルは私を馬車から降ろしてくれる。
「こちらの方は」
「えっ、君たちの領主様の2番めのご令嬢だよ」
「ああ、あの出来・・・・・いえ、失礼いたしました」
支配人は真っ青になって言い直した。
「そう、出来損ないの姫よ」
私は慣れたものだ。どこでもそう言われる。
「いえ、失言お許し下さい」
支配人が青くなっている。フェルの目が怖い。
「ああ、もう気にしなくていいわ。うちのお兄様とお姉様にはあんたところの殿下ですら勝てないから。あの二人に比べたら皆出来損ないよ」
「いえ、あのそのような」
支配人は汗をかいている。
「まあ、良い。口には気をつけ給えよ」
フェルの絶対零度の視線が緩む。
「はっ、申し訳ありません。でも、その方を殿下がエスコートなさっているということは」
「ま、そう言う事だ」
どういうことなのか全然わからないんだが、支配人は訳知り顔で頷いていた。
「こちらに、個室を用意してあります」
えっ、個室なの?そんな特別待遇して貰う必要はないんだけど・・・・・
少し嫌そうな顔をしたが、フェルはどこ吹く風で私を部屋に連れて行ってくれた。
「何にする?」
「うわあああ、凄い、ありすぎて目移りするけど」
私はメニューを見て言う。
「当店の一番人気はチョコレートパフェでございます」
「じゃあ私はそれを」
「俺はフルーツパフェを」
「えっ、それも食べたい」
「はいはい、後でやるから」
うーん、何か動物の餌じゃないっていうの!
でも出てきたパフェは本当に美味しかった。クリームが口の中で蕩けるのだ。
私が幸せそうな顔で食べているのを、フェルが見ている。
「えっ、一口食べる?」
私はスプーンをフェルの口の中に持っていく。
何か給仕の女の子と支配人の目が点になっているんだけど。
「どう?」
「美味いな。じゃあ俺のパフェも」
桃とクリームの部分を取ってフェルがくれる。
私は大きな口を開けて食べてしまった。
「あっ、本当、これも美味しい」
私はおそらく満面の笑みを浮かべている。
そして、フェルのスプーンも多くが私の口に運ばれて、2つのパフェの大半は満面の笑みを浮かべた私の口の中に入ってしまったのだ。
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