第13話 獲物をお姉さまに横取りされたと怒りのお兄様は弓で攻撃はじめました。

「ああああ!、貴様、俺より先に始めるとは良い根性をしているではないか」

走ってきたお兄様が怒って言った。


この脳筋の多い我軍の中でも最大の脳筋はお兄様だ。基本どこでも訓練と称して走っていく。

そして、下手したら馬よりも走るのが早い。

本当に異常なのだ。


昔、一緒に訓練をしようと言われて、私は1秒もたなかった。

それ以来、私はお兄様には全く相手にされていない。

普通馬よりも早いお兄様の相手できるやつなんていないでしょ。

我軍の最高が10分間ついて行っただとか。そいつはオリンピックとかあれば優勝できるわよ。


城壁の上に立ったお兄様は怒り心頭だ。


「ふんっ、いつも足の速さを自慢しているくせに。私より来るのが遅いから仕方がないじゃない」

「お前な。さすがの俺でも転移には勝てんわ」

喜んで挑発するお姉さまにブスッとしてお兄様が言う。


周りの兵士たちは白い目で二人を見ていた。


基本、この二人がいれば敵と戦うこともない。


敵と遭遇する前に二人が敵を一掃してしまうのだ。


騎士団長らがここにいれば軍の訓練にならないから、頼むから少し見ていてくれと言うのだが、まだ、馬でこちらに向かっている途中だろう。

今がやりどきだと二人共思っているに違いない。


まあ、いずれにしても、ゲフマンの奴らは、我々の実践訓練の対象でしかないのだ・・・・


「何か前方から兵士が来ます」

兵士が報告してきた。


「そうか、やむを得ん。弓の訓練でもするか」

お兄様は嬉々として、弓を引き絞った。


私自身、はるか先の兵士は殆ど見えなかった。


それを射抜くというのだ。


お兄様の弓自体が巨大だ。我軍で引けるのはお兄様しかいない。


あの遠くにかろうじて認識される豆粒ほどの兵士を射抜くというのだ。


「お兄様。あの兵士、何か白い旗を掲げているようですが」

「何、白い的を持ってくれているのか」

お兄様は嬉々として弓を引き絞る。


「いや、おそらく、軍使の印か何か・・・・」

次の瞬間お兄様は弓を放っていた。


「えっ!」

そうお兄様にも軍使という観点がないのだ。

交渉などなにもない。ただ、殲滅する対象でしか無いのだ。

そもそも兄には降伏するという観点からしてなかった。

勝つか全滅するか。当然兄には勝つしかないが・・・・


敵が降伏してくる時はいつも騎士団長とかが対処するのだ。

脳筋の兄とか姉を5人がかりで何とか丸め込んで、誤魔化して、二人は私みたいにお菓子では釣れないからもう大変なのだ。


でも、今はその止める彼らがいなかった。


私では当然二人は止められない。


いわんや兵士たちでは無理だ。


次の瞬間には白い旗が消滅していた。


ついでに旗を持っていた兵士も。


兄の弓にあたったものはあまりの威力に、あるいは魔力も込められているのかもしれないが、突き刺さるとかいう前に消滅するのだ。


「騎兵が5騎ほど駆けてきます」

続いて兵士が報告してきた。


「よし」

兄は嬉々として弓を引き絞り始める。


「いや、お兄様、あれは軍使では」

「何を言っている。まだ戦いも何も始まっておらんぞ。戦う前に降伏するくらいなら何故ここまで大軍を率いてくるのだ」

兄にとって軍使とは降伏の使者でしか無いのだ。そしてそれは兄にとって最低の使者だった。兄が暴れ足りない時に降伏してきた日には残りの兵士たちは大変な目に会うのだ。


だから初期の段階での軍使など見えても皆無視する。

そうしないと被害に合うのは自分らだから。


5本の矢がほとんど間髪をいれず放たれた。


そして、5騎の騎士は消滅した。


ただそれだけだった。


「うーむ。これだけか。斥候兵、次は」

兄は全然暴れ足り無いみたいだった。


機嫌が悪くなってくる。


このままでは暴走しそうだった。


基本、放っておくと、ゲフマンの王都まで一人で攻め込みそうなので、兄は皆と約束させられていた。


森林限界内以上はどんな事があっても行かないと。


基本ゲフマン王国には砂漠と一部の牧草地しかない。


そんな国を攻め取っても、ハインツェルにとって持ち出ししか無かった。

内務も外務も商務も農務も侵攻戦は拒否したのだ。


お兄様にした所でゲフマンがこの世から消滅したら戦う相手がいなくなる。


はっきり言って史上最強の破壊兵器のお兄様と無謀にも戦ってくれるのはもはや、ゲフマンくらいしかいないのだ。そこまで馬鹿な脳筋国は!

帝国なんぞ、お兄様が訪問したら、もう一人皇帝が来たように大歓待なのだ。それで、持ち上げるだけ持ち上げて、お兄様がどうでも良いと思っている貿易の条件とかを尽く帝国有利に書き換えられてきたのだ。

お兄様の帳尻を合わすのに外務や商務が大変だったと聞く。それ以来お兄様には外交の決定権はない。

他国も言うに及ばず。いまだに戦ってくれるのはゲフマンだけなのだ。


だから残しているだけなのだ。おそらく、ゲフマンなど、お兄様が本気を出せは1人でこの世から消滅させてしまうだろう。

これにお姉さまが加わればもう、荒野しか残らないかも・・・・。


うちの文官達が占拠しても得るものがないと拒否しているだけなのだ。


絶対にゲフマンとしては認めることが出来ないことだと思うのだが。


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