最終試合・ウルフェン

 Side 加藤 佳一


 グレイさんはさすがに次で最後の試合にするとのことだ。


 相手はウルフェン。


 この闘技場の上位ランカーと言う奴らしい。


 相手の専用のパワーローダーが遠目から見える。


 一つ目で一本角。


 トゲが突いたショルダーアーマー。

 

 やや細心のシルエット(*パワーローダー基準で)


 武器はついておらずナックルガードがついている。


 マヤが言うには「シュトゥルム」と呼ばれる機種のカスタムモデルらしく、かなりレアな機種だそうだ。


 リングネームは「フェンリル」。


 よく創作物で聞くことがある北欧神話に出てくる狼の名前だ。


 それをウルフェンが知っているのかどうかは知らないが今迄の相手と違い、威圧感が違う。


 歳はあちらが上だろう。


 白い髪で褐色肌、鋭い赤い瞳で野性味を感じさせる整った顔立ち。


 体付きもかっこいいアスリート格闘家で、ワイルドな感じな顔立ちと相まってクラスにいたら間違いなく女子にもてそうだ。


「本当に最後もSAー5でいくのか?」


 心配そうにマヤが尋ねてくる。


「ここまで来たらやれるとこまでやってみるよ」


 正直言うとここまで来て、馴れないリングの上で違う機体を選ぶのは悪手のように感じたからだ。


「そうか――勝てよ」


「ああ」

 

 そう言って俺は赤いSA-5と武器を身に纏い、リングに上がった。



『本日の最後の試合!! 海上も熱狂の渦に上がりました!! まさかの二連勝!! 期待の新星!! 旧式のSAー5で実力一つで勝ち抜いた男!! 加藤佳一!!』


――期待しているぜ兄ちゃん!!


――頑張れよ!! 


――応援してるぜ!!


 ギャラリーも凄い盛り上がっている。

 観客席の外からも――本来のこのスタジアムの観客席からも遠目で見物客の姿が見えるぐらいだ。


『対するはこのコロシアムで成り上がって見せた実力派の上位ランカー!! 王者の地位を狙う若き狼、ウルフェンとそのパワーローダーフェンリルだ!!』


――ウルフェン様!! 私を抱いて!!


――そんな奴倒して!!


――兄ちゃんその成り上がりをぶっ倒せ!


――兄ちゃんならウルフェンを倒せる!!


 心なしか女性の黄色い歓声も多い。

 あと男の嫉妬も。

 

 それはそうと、ウルフェンと言う男、アメリカンドリーム的な物を成し遂げてまだ上を目指しているようだ。


 凄い兄ちゃんだおい。


 そんなことを思いつつ対峙する。


(リングの上でコロシアム――相手は素手なのにデス・ホーンと対峙した時並の緊張感を感じる――)


 なんとなくそんな事を感じる。

 気のせい――ではなかろう。

 このタイミングで対戦カードを組まれて、そして彼の経歴が全てを物語っている。

 見かけ倒しなどと言うオチはない。


『久々に燃えてきたぜ――お前はどうだ?』


「緊張してる――が、どこまでやれるのか試してみたい気持ちもある」


『俺もそうだった。ただ一つ違うのは勝ち続けなければならなかった。これからも、そしてこの先もな』


 そう言って構える。

 何の格闘技かは分からないが、何かしらの武術を学んでいるようだ。

 ボクシングだろうか?


『試合開始十秒前!!』


 そうこうしているウチに試合が始まろうとしている。

 取りあえず後手に回ってみることにした。


『試合開始!!』


 そして相手の速攻!!


 一気に距離を詰め、右、左とナックルガード越しの両腕のストレートパンチが縦長の盾に直撃する。


 そして適度に距離を詰め、的確に攻め立てる。

 

 右の刈り取るようなフック、左の小刻みなジャブ、右のボディ狙いの勢いがのったストレート。

 そして今度は嵐のような左のジャブの連打。

 

 それをがむしゃらに行うのではなく、リズミカルに行う。


(一撃、一撃が重い!! いや!! それよりもこれは――ボクシングか!?)


 間違いない。

 戦い方がボクシングのそれだ。

 ヘタに手を出してもその隙を突くように殴られる。

 右腕の対パワーローダー用のハンマーがなくなり、左腕のシールドもボコボコになっていた。


『どうした? もうおねんねか?』


 相手の軽口に付き合う余裕はない。

 それよりもどうするかだ。


(ボクサーの弱点は足だ。だけどSAー5で足技は無理。ハンマーでリングを破壊してフットワークを使わせなくする作戦も出来ない――)

 

 SA-5は頑丈でパワーがあるが、スピードが遅い。

 どうにかこうにか頑張ってきたが――このままではボコボコにされてKOされるかリングアウトだ。


『仕方ない――こんな手を使いたくはなかったが――』


 このまま守っていては負ける。

 素手になる。


『降参――ってワケじゃないな。おもしれぇ。素手の勝負か』


『おっと!! 加藤 佳一選手!! 武器を捨ててウルフェン選手に素手で勝負を挑むつもりだ!!』


 観客が盛り上がる。

 今から使うのはちょっとした反則技も含まれるが、バトリングは基本ルール無用だ。

 これがボクシングの試合ではない――


『なっ!?』


 胴体でわざと受け、腰を落としてブースターを噴かしタックルをかます。

 初のダメージだ。

 ウルフェンに大したダメージはない。

 だけど試合の流れを取り戻せそうな予感を感じた。

 

『悪いな。これはボクシングの試合じゃない。バトリングだ』


『知ってるさ――てか俺の使う技の事よく知ってるな――』


『素人ながらな――』


 なんだが嬉しそうだった。

 

『いいぜ!! こっからが本番だ!!』


 ウルフェンは立ち上がり、仕掛けてくる。

 俺もそれに合わせて被弾覚悟で仕掛ける。


『見掛けに反して中々度胸のある戦法使うじゃねえか!!』 


 ウルフェンのボクシングは元の世界ではどれぐらいかは知らないが素人が反応できるレベルではない。

 生身同士での戦いなら間違いなく負ける。

 だがパワーローダー同士での戦いならば――


『こうでもしないと勝てそうもないんでな!!』


 俺はウルフェンの拳に体もろとも突進して弾き、素人ながら相手のパワーローダーに一撃、二撃と入れる。

 ウルフェンも黙っておらず、足技でこちらのバランスを崩す。

 

(そういやこれ、バトリングだったな――自分で言っといてこれか・・・・・・)

 

 ウルフェンもバトリングの選手だ。

 過去の戦いで今の俺と同じような手を使われたことはあるのだろう。

 ボクシングを学んだだけで勝てる程、このリングは甘くないと言う事か。槍とかハンマーとか盾とか使えるし。


『どうした? おねんねか?』


『おねんね――いや、待てよ・・・・・・この方法ならあるいは――』


 昔漫画で知った戦い方を思い出す。

 古い漫画ならご長寿連載で転移前も続いていて、ファンも多い格闘漫画。

 元々は実在する有名なプロレスラーが立ち技が強い格闘家に対して使った戦法らしいが――


(だが試してみる価値はある!!)


 そして素早く体の態勢を入れ替えて匍匐前進の状態になる。

 

『なんだこの戦い方は!?』


 まさかの戦法。

 寝ながら相手の足めがけて体をブースターを噴射して前進。

 素早く相手の足に無理矢理組み付き、殴る。

 

『なんだこの奇妙な戦い方は!? ウルフェン選手も我々も困惑しているがとても友好的なようだ!?』


 実況も困惑している。


――いいぞ兄ちゃん!! 見かけはアレだが効いてるぞ!!


――やったれ兄ちゃん!! 意地を見せてやれ!!


――そんな汚い戦法に負けないでウルフェン!!


――プライドないのアイツ!?


 賛否両論ではあるが観客も盛り上がっていた。

 

『クソ――足が――まさかこんな方法で!!』


 ブースターを噴かし、上手くリングアウト負けを回避しようと躍起になりながら、デタラメに殴ってくるが俺は負けじと殴り返す。


『長期戦はまずい――ならばここは!!』


『今度は何を!?』


 そして俺はアラートが鳴り響くパワーローダーの中でジャイアントスイングを実行することを決意。


『なにぃいいいいいいいいいいいい!?』


 俺は『うぉおおおおおおおおおおおおお!!』と雄叫びをあげながら両足を掴んでその場で回転。

 パワーローダーのパワーを活かしたファイトを見せる。

 大歓声が巻き起こる。

 

『これで終わりだ!!』


 幾らかの回転を行った後、相手を場外めがけて投げ飛ばす。

 しかし相手もブースターを全力で噴かして復帰し、その場でよろめきながらどうにかファイティングポーズを取る。


『クソ・・・・・・今のは危なかったぞ・・・・・・』


『だが足はもう使えないな――』


 ボクシングだろうと他の格闘技だろうと足が使えないと言うのは格闘家として致命的な状態だ。

 だがこっちもダメージが多くて長くは保たない。

 だからこっちも――


『うおおおおおおおおお!!』


 俺は突撃した。

 相手は迎え撃つ。

 そこからはもはや技術などなにもないただの殴り合い。

 お互い殴って殴られて殴って殴られて――


 完全な泥仕合だ。

 俺の脳内でロッ○ーのBGMが流れてる。

 

 それ程までの壮絶な戦いだ。

 段々とアラートがより騒がしく鳴り響いているがそれよりも観客の歓声が凄い。


 ナナの声もマヤの声も聞こえる。


 SA-5もどうなってるか分かったもんじゃねえ。

 ここまで来たら意地だ。

 勝つか負けるかよりも相手よりも先に殴り倒すことに意識を集中させる。



「ごめんなナナ、マヤ・・・・・・負けちまった」


 俺は控え室の椅子にぐったり座りながら二人に謝罪する。


「ううん!! ケイイチ凄かった!! 凄かったよ!!」


 と、ナナが涙目になって言って、


「ああ。私も凄いと思った。お前本当に凄かったんだな」


 マヤも目尻に涙を溜めながら言った。


 俺は結局負けた。

 SA-5が持たなかったのだ。

 まるで穴ぼこだらけで、サンドバック状態にされた後のドラム缶のような――そんな状態だったのだ。


 よく俺生きてたな。


 そうそう、SA-5は借り物でそのオーナーに謝罪したが何故か満足げに「また使えるようにしておくよ! 何時でも来てくれ!」などと豪快に笑われた。


「お疲れさん――近年希に見るすげぇファイトだったな!!」


 するとグレイさんもやって来た。

 奥の方では観客達が俺の方に詰めかけようとして来てグレイさんの部下達が必死に押し留めようとしている。


「暫くバトリングのリングには上がりたくですね」


「だな。あんなファイトすりゃ誰だってそうなる!! それにしても凄いファイトを見させてもらったぜ!! 今夜のスターは間違いなくお前だ坊主!!」


「ははは・・・・・・」


 グレイさんさっきからずっとこんな調子だ。


 そして――


「ウルフェン、お前も何か言いたいんだろう?」


「ああ――」


 そう言って先程まで激闘を繰り広げていた男――ウルフェンがやってくる。

 さすが古参戦士。

 アレだけの戦いした後なのにもう歩き回れるらしい。


「正直言うと最初は期待ハズレかと思ったが――結果はこのザマだ。馴れないバトリングで、二戦終えた後でカスタマイズされてるとはいえ旧型のSA-5であそこまでやられたらな――実質俺の負けみたいなもんだ。一から出直したいが――」


「が?」


「旅の途中なんだろ? 出発までに時間はあるか?」

 

「どの道次の目的地に向かうために多少の準備は必要だけどその辺はマヤと相談しないとな――」


 ウォーバイソンに対抗するために同盟を結んでいく旅だ。


 だが旅の道中は危険で何が起きるかは分からないし、準備してからでないと次の目的地には迎えないのだ。

 最低でも食料、水、武器弾薬、そして次の目的地への行き方、あるいはそこに至る地図が必要だ。


 どんなに頑張っても二、三日はかかる。


「そうか――礼はする。お前の戦い方を教えてくれ」


「はい?」

 

 なにやらおかしなことになってきた。


 

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